シャーロック・ホームズと鬼平犯科帳

 シャーロック・ホームズのBDをとりあえず全部見終わった。全体的な感想だが、初期に制作されたものほど、作品も面白いし、ドラマ化も充実していた。後半も終わりに近いほうになると、まったく原作と異なる話が挿入されるだけではなく、それがあまり成功しておらず、しかも、どこかカルト的要素が入ってきて、シャーロック・ホームズの特徴である明るさ、温かさと逆の雰囲気が前面にでてきて、楽しめないものがいくつかあった。当時イギリスのテレビ界で2時間ドラマが流行していたために、それにあわせてシャーロック・ホームズも2時間に拡大したものに変更され、原作になかった話を加えることになったようだ。ただ、それだけではなく、主役のブレッドの体調が思わしくなくなり、動きなどにもスムーズさが欠けるようになったことも影響しているように感じられた。ワトソン博士は交代させても、さすがにシャーロック・ホームズ役を変えることはできなかったのだろう。原作も初期のものに名作が多く、ドラマ化も最初のシリーズでは、名作中心に選択されているので、原作に忠実に作れば傑作になるという感じで、安心して見ることができる。

 
 せっかく高価なセットを購入したのだし、今後活用したいと思い、シャーロック・ホームズ研究をしようかと計画している。しかし、シャーロック・ホームズ研究などは、世界中の優れたひとたちがたくさん行なっていることであり、日本でもシャーロック・ホームズに関する著作は無数といってよいほどにある。それを今更やってもあまり意味がない。やはり、誰もやっていないと思われることでなければ、と考え、鬼平犯科帳との比較をしてみようと考えている。
 シャーロック・ホームズと鬼平犯科帳は、共通点と相違点があるが、共通点が重要だ。だから、様々な観点から比較してみることは、とても面白いに違いない。
 
共通点は
・数個の長編と数十の短編がある。(短編の数は鬼平犯科帳のほうが多いが、長編はともに4編)ただし、シャーロック・ホームズは長編から始まったが、鬼平犯科帳は最初から短編で、長編は後期もかなりあとのほうから始まった。
・小説が原作であり、何度かシリーズでドラマ化されている。そして、最期に作られたドラマシリーズが最も数が多く、しかも優れた出来ばえになっていて、決定版とされている。シャーロック・ホームズは何度シリーズのドラマが作られたかわからないが、鬼平犯科帳は4回で、しかも、最初と最期の平蔵を演じたのは親子である。人気刑事ものシリーズの「刑事コロンボ」や日本の国民的時代劇の「水戸黄門」は、いずれも人気小説のドラマ化ではなく、ドラマとして構想されたものである。
・ドラマの主人公を演じた役者、シャーロック・ホームズはジェレミー・ブレッド、長谷川平蔵は中村吉右衛門は、共に原作のイメージにぴったりと言われるほどの当たり役であった。
・ともに犯罪の解決が物語のテーマである。しかし、犯人と対峙しても、杓子定規な対応はせず、いわゆる「人情味」あふれる扱いをすることが多い。その点が国民的人気の理由となっている。
 
相違もいくつかある。
・一番大きな相違は、シャーロック・ホームズが完全に作者の創作物であるのに対して、鬼平犯科帳は、長谷川平蔵という実在の人物を主人公にしており、具体的な事件のかなりは創作であるとしても、実際の事件も扱っており、役職や幕府の高官等は多くが実在である。
・シャーロック・ホームズは私立探偵であり、警察と協力関係があるが、あくまで依頼者のために事件に取り組む。それに対して長谷川平蔵は幕府の特別警察の長官であり、警察機構として犯罪に対応する。しかし、私兵ともいうべき密偵を使っており、公と私が逆転している。
・シャーロック・ホームズは、彼の天才的な事実に基づく「推理」によって解決することが多いが、鬼平犯科帳は、密偵たちの情報活動と、それに基づく組織的な追跡によって犯罪を、未然に防いだり、犯人を捕らえる。長谷川平蔵は天才的な推理よりは、常識的な疑いから出発する。
・ドラマのシャーロック・ホームズは、主役のジェレミー・ブレッドの死去によって終了を余儀なくされ、かなりドラマ化されない物語が残ったが、鬼平犯科帳は、基本的にすべての物語をドラマ化し、いくつかは再ドラマ化もされており、レギュラー人の高齢化によって幕を閉じた。ただし、私の調べた限りでは、鬼平犯科帳の「密通」という話はドラマ化されていないと思う。小説の「鬼平犯科帳」は、原作者の死去によって中断された。
 
 こうした共通点・相違点を踏まえて、ふたつの小説とドラマのシリーズから、随時テーマを設定して、広がりをもった考察をしたいと考えている。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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