政権浮揚のための解散はありなのか?

 岸田首相が、解散する可能性があるという。しかも、その理由が、来年の総裁選で再選するためだというのだ。実は、安倍元首相も、何度か解散して、その都度勝利し、権力基盤をその勝利によって堅固なものにしてきたと言われている。安倍元首相が選挙の度に勝利したのは、野党のあまりのだらしなさと、自民党のメディア支配による巧妙な選挙戦、そして小選挙区という仕組みのためで、国民が安倍晋三という人物、そしてその政策を支持したわけではない。安倍氏は、国政選挙を利用して、自分の権力基盤を強化した。岸田首相をそれを真似したいと思っているのだろう。
 しかし、これは選挙の悪用であり、民主主義への挑戦である。選挙は、国民の支持する内容を確認するためのものであって、権力者の権力基盤のためにあるわけではない。安倍元首相が選挙に打って出たときは、多くの場合、氏への批判が強くなったときだった。そうした批判を票に結び付けることができなかった野党も、本当に情けないと思うが、やはり、政権をとっている側の、国政への矜持の問題といえる。安倍内閣が、自己のために選挙を繰りかえす度に、日本の民主主義はそれだけ弱体化した。国葬をめぐってであるが、自民党内から、安倍晋三氏がいかに日本を、自民党を堕落させたか、国賊といえる、という批判すらでたほどである。

 
 岸田首相は、党内リベラルのはずなのに、権力主義者だった安倍氏に次第に近くなっている。第一次安倍内閣の挫折と、その後の自民党政権の弱体化、民主党政権という逆風にあって、安倍氏が頼ったのが統一協会だった。そして、第二次安倍内閣は、保守勢力には礼賛されていたが、その実態は、保守とはまったく相いれない韓国に日本を売る勢力との癒着だった。この点を、いまだに自民党保守勢力はきちんと「総括」していないし、また、野党やメディアもこの点については、批判しきれていない。統一協会問題は、詐欺的な献金による「被害者」救済問題であるかのように扱って済ましているようだ。
 党内闘争を勝ち抜くために選挙を利用したという点では、小泉首相の「郵政解散」が最も鮮明な記憶を残している。小泉首相のとった戦術は、安倍首相よりもずっと過激だった。自分の郵政民営化政策に反対する議員は、公認しなかったわけだから。郵政法案が議会で通過せず、それならばという強硬策としてなされた解散だった。その後民営化された郵便・金融事業がよくなったとは、私には思えない。
 
 議会は、国民の生活に関わる法案を審議し、必要だと判断すれば、法として成立させるのが役割である。臨時の解散は、そうした議会の機能を奪うものである。だから、絶対に国民に問う必要がある場合のみ、解散という手段が活用されるべきだ。そういう意味では、首相による個人的な判断による解散などは、認めるべきではないのだ。憲法がそれを保障しているかのような解釈になっているが、そのような条文は存在しない。解散は総理大臣の専権事項である、などというのは、自民党が作り出した虚構である。憲法を素直に読めば、解散は、政権の不信任案が可決されたか、信任案が否決されたときに、内閣は総辞職するか、議会を解散するかを決断するのであって、それ以外に、総理大臣が自分の意思によって議会を解散する権限をもつようなことは、少なくとも憲法には書いていない。もし、個別法でそういう権限をあたえているとしたら、それは憲法に違反するというべきである。
 
 岸田内閣の防衛費倍増案に関して、羽生田氏が、国民に問うべきだと、一見まっとうなことを主張しているが、統一協会とずぶずぶのひとが、日本の国防に関して主張するというのも妙な風景だ。しかし、一見まっとうだといったが、やはり、間違っている。正当なやり方としては、岸田内閣を不信任して、解散して国民に意見を問うべきである、という主張になるのなら、憲法上正しいやり方だろう。
 安倍内閣は、国会運営で、もうひとつ重大な憲法違反を重ねた。総議員の4分の1の要求があれば、議会を開催しなければならないという規定を、何度か無視して、議会を招集しなかったが、岸田氏は、就任1年しかたっていないのに、その違反を踏襲した。
 政権政党が憲法違反をするのは、本当に恐ろしい。
 首相による恣意的な解散は、やってはならないことだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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