最期に、入試を廃止することなどできるのだろうかという、誰もが感じる疑問について考えてみよう。
私が学生時代、「教育法」の第一人者であった兼子仁先生の授業で、兼子教授は、「日本の入学試験というのは、できる限り早く廃止したいですね。」と講義で述べたことがある。学生たちは、意外な主張に驚き、ほとんど茫然自失の体だったと記憶している。私もそうだった。「そんなことできるはずがない。」そのときだけではなく、ずっとそう思っていた。しかし、大学に勤めるようになり、研究の関心がオランダに向くようになって、オランダの教育を研究するようになると、そこには、入学試験制度そのものが存在しないことがわかった。別にオランダだけではない。ドイツにもフランスにもないのだ。(フランスはグランゼコールという超エリートの高等専門学校には入試がある。)中でも、オランダは、学校を当人が選べるという点で、際立っていた。もちろん、ハードルはある。尤も、オランダに限らず、入学試験制度が一般的に存在しない国でも、ある種の学校には、入学試験があることもわかった。それは、芸術系の学校である。芸術家を養成する学校では、もちろん、芸術的才能がないと話にならないから、当然、芸術的才能の程度を調べる試験を課す。ただ、それは入学試験とは呼ばれず、オーディションと呼ばれていた。実態は、入学試験であるが。