今年に入ったころからだろうか、どうもチェロの鳴りが悪くなったような気がしていた。これは昨年夏あたりから、左手の痛みが出て、そのことによって、うまく楽器が扱えなくなっているのかと思っていた。
チェロをやったことがある人はわかると思うが、チェロは弦が太いので、かなり力がいる。そして、練習をあまりしない状態から、久しぶりに弾くと、腕や手が痛くなるものだ。しかし、この時の痛さは、逆で、毎日練習しているのに、弾き始めると、それだけ痛くなるのだ。いよいよ歳なのかという思いと、ひょっとしたら、コロナワクチンの副作用だろうかという思いもよぎった。私はまったく副作用がなかったのだが、どうもワクチンを打った左手だけが痛い。そして、それが楽器の鳴りに影響しているのかなどと思っていたわけだ。昨年の7月に4回目、今年の1月初めに5回目のワクチン接種をしたので、ありうるとは思う。
しかし、数日前に、youtubeの「バイオリンはじめちゃんねる」で、「上達のために買ったほうがよいもの」という番組をみた。そこでは、えんぴつをおけるスペースのある譜面台、姿見の鏡、加湿器(夏場は除湿器)が推薦されていた。譜面台はすぐに注意を書き込めること、姿見は自分のボーイングを確認できる、そして、加湿器は楽器には適度な湿度が必要だということで、納得のいく説明だった。そして、あわてて、楽器を弾く室内の湿度を確認してみた。実は、部屋に置いてあった電波時計には湿度表示がなかったので、別の表示のある電波時計と交換したところ、実に20%程度しかなかった。youtubeのちゃんねるの話によると、弦楽器にとっての最適湿度は40~50%というのだ。そして、乾燥しすぎていると、楽器の鳴りが悪くなり、かつ弦を巻いているペグがうまく止まらなくなるという。そうか、楽器の鳴りが悪くなったのは乾燥のせいなのかとまず思ったわけだ。
そして、ペグのことは、すぐに思い知らされることになった。
この翌日に、オーケストラの練習があり、夜帰ったきたのだが、どういうわけか、玄関に楽器をおいたままにしてしまった。もちろん、普段は部屋に入れるのだが。玄関なので、当然外気と同じ程度の温度になり、0度に近いわけだ。そういう場所に、一晩おいたために、弦が2本ほど、ペグが緩んで外れたも同然の状態になってしまった。ところが、ペグをいくら巻いてもすぐに戻ってしまい、正しくとまってくれないのだ。
これはやはり湿度を高めるしかないと考え、使っていない加湿器をだしてもらい、それからせっせと湿度をあげていった。単に40%を超えただけでは、だめで、それなら一晩じっくり適度な湿度のなかにおいて、翌日にしようと考えて、それを実行したところ、今度はペグがちゃんととまってくれた。そして、音も、それなりによくなったように感じたのである。
弦楽器をやっている者は、日本は湿気が高いので楽器の鳴りがよくなく、ヨーロッパは乾燥しているので、同じ楽器をもっていっても、鳴りがよくなる、というような話をよく聞かされたに違いない。だから、冬の乾燥は、楽器にとって好ましい環境だとばかり思っていた。ひどい勘違いだった。適度な湿度というのがあり、それ以上でも以下でもよくない。かつて生物であった木で作られているのだから、当然かも知れない。
やはり、正確な知識が必要だと実感した経験だった。そして、youtubeというのは、とても役立つと確認した。