最近話題の成田祐輔氏が、あちこちで「高齢者の集団自決」が必要だという主張をしているということを、その批判文で知った。特別に話題になったのは今年かららしいが、以前からの主張のようだ。最初に読んだのは、内田樹「『高齢者の集団自決』の提言 日本の国運の衰退の解決にはならない」〈AERA〉
であり、驚いて他の文章も探し、「成田悠輔氏「高齢者は集団自決」発言を“例え話”と笑っていられない理由」窪田順生を読んだ。
いずれも、ヒトラーとユダヤ人撲滅などとひっかけて批判したものだ。
では、本人はどう言っているのかと探したところ、abemaTVで語っていることが多いらしいが、youtubeにも出ているので、次のものをみた。
私は、成田氏を著書と羽鳥モーニングショーにでているときしか知らないので、こうした過激な主張は知らなかったので、少々驚いた。
この番組では、最初にこの話題を振られているのだが、あまり詳しく語っているわけではなく、私の理解した範囲で要点をまとめると次のようだ。全体として、世代交代を主張しているのだが
・世代交代が進んでいない。滑舌が悪く、コミュニケーションができない老人が、引退せずに力を振るっている。
・高齢者は同世代としか交流しない。
・安楽死の選択が必要。将来的には安楽死の強制を考えねばならない。
少々短すぎるかも知れない要約であるが、成田氏自身が詳細に語っているわけではない。
しかし、高齢者当事者として、成田氏の主張は、あまりに無責任であるように思うし、むしろ問題は若者世代にあるような気がしてくる。滑舌が悪く、何を言っているか分からない、あるいは非常識な発言を繰りかえすような老人、例えば麻生副総理などが、いまだに権力を振るっている。何故、退陣しないのか。若者世代に交代すべきである、という、この点ではお定まりの論を主張しているわけである。
だが、考えてみよう。権力者が簡単に権力を手放すわけないではないか。もし、若者が、あの老人権力者は存在すべきでない、と考えるのならば、若者が反抗して、麻生氏を権力の座から引きずり落とせばよい。権力者に、引き下がってくださいなどとお願いするのは、みっともないというべきである。武田信玄は、父親を追いやって、自ら権力の座についた。
若者が、権力者を追い落とさずに、従っているとしたら、それはその若者にはそれが利益であり、権力者の保護によって、自分の地位を守っているのではないだろうか。二階氏などは、確かに滑舌が悪く、何を言っているかわからない。しかし、彼を派閥の長から退かせる若い政治家がいないだけではないか。そういう意味で、高齢者よりも、若者の力不足を感じざるをえないのである。
よく言われる「働かないおじさん」問題は、ここでは語られていなかったが、これは、高齢者問題ではないように思う。むしろ、中年後期のひとたちの問題だろう。いわゆる高齢者は、既に定年退職しているから、働く能力があるのに「働きたくても働けない」存在である人も少なくない。
安楽死については、誤解もあるようだ。
そもそも、安楽死は「高齢者問題」ではない。若い者でも、苦痛を伴う不治の病にかかれば、安楽死を望む者がいるだろう。高齢者でも、生命はなるに任せるとして、安楽死を望まない者が多数いるに違いない。安楽死や尊厳死を、年齢と絡めて論じるのは、勘違いが甚だしいといわざるをえない。
また、日本では、安楽死がまったく禁止されているわけではないことを理解していないようだ。日本は、世界で最初に、安楽死の違法性阻却事由を判決で提示した国である。そして、それ以来、ある条件を満たせば、安楽死は違法ではないとの判決を積み重ねてきている。最高裁までいった例はないが、継承されてきた条件を否定した判決はない。ただ、そうした条件を満たした上での安楽死を実行した事例がほとんどないから、ほとんどの安楽死は実行者が罰せられているに過ぎない。
日本では金持ちが、オランダなどにいって安楽死できる、裕福な者にのみ可能になっていると批判していたが、オランダなど、ほとんどの安楽死を合法にしている国家は、外国人の安楽死は認めていない。認めているのは、おそらくスイスのみであり、それもかなり厳しい条件が課せられている。
驚いたのは、この番組で、成田氏が、将来は安楽死の強制が必要になるかも知れない、と述べたことである。その先は、障害者も安楽死を強制しよう、などということになる可能性はないのだろうか。
話題つくりの極端な提起は、成田氏本人のためにならないように思うが。