理系博士課程院生への支援の外国人廃除は疑問

 外国人への規制を強める雰囲気の一環として出てきたかどうかは不明だが、国が特定の自然科学系の大学院博士課程の院生に対して行っている補助金を、外国人の留学生にはださないという方針がだされ、外国人留学生が当然のように抗議をしている。この問題はとても難しく、簡単には解答がだせないのだが、いくつかの点で考えてみたい。
 まず、外国人留学生の大学教育の授業料について、三つのパターンがある。
 第一は、当該国民と外国人を平等に扱うタイプ、第二は、外国人留学生を優遇するタイプ、そして第三は、外国人に余分の負担を課すタイプである。
 第一のタイプは主にヨーロッパの大学である。ヨーロッパの大学がすべてそうであるとはいえないかも知れないが、授業料を課すにせよ、無償であるにせよ、外国人も国内人と同様に扱っている。大学教育が古くからの伝統によって運営され、とくに中世は学生が自由に国境を超えて入学していたという歴史が反映しているかも知れない。
 日本は第二のタイプである。私が勤めていた大学でも、授業料等の優遇はなかったが、学内奨学金の扱いで、外国人は日本人よりも有利であるように、私には思われた。このタイプは、後発的な国に多く、優秀な外国人留学生を確保するために、有利な条件を設定するわけである。
 第三のタイプはアメリカやカナダである。とくにアメリカでは、大学は有力な産業であるといわれているように、多数の留学生を受け入れ、そして、留学生はアメリカ人よりも多額の授業を負担する。アメリカでもカナダでも、州立大学は、州内に住むアメリカ・カナダ人、州外のアメリカ・カナダ人、そして、外国人という順で授業料が高くなるのである。アメリカは、大量の留学生を受け入れ、そのなかから優秀な人がアメリカの科学技術の発展に貢献するという意味で、「有力な産業」というだけではなく、多額の授業料をもたらすという意味でもそうなのである。
 ところが、トランプは、このアメリカの大学にとって、あるいはアメリカ社会にとって非常に大きな経済的プラスをもたらす外国人留学生の締め出しを諮っている。これは、大学の経営にとってマイナスであるし、またアメリカの知的優位を脅かす危険性すらある。トランプとしてのいいわけはあるが、中国人留学生がもつ問題を意識しているならば、それに対する対応をとればいいことであって、アメリカの大学のシステムがもっているアメリカにとっての重要性を解消させてしまうようなことは、長期的にマイナスであることは、明らかである。
 今後トランプ自身がどうなるかわからないし、このアメリカの留学生政策がこのまま継続されるのかもわからないが、動向いかんによっては、アメリカの将来に少なからぬ影響を与えると予想される。

 では、日本で留学生への優遇策を減少させる政策はどうなるのだろうか。ただ上記の問題は、留学生に特別な有利な点をやめるというのではなく、日本人と留学生に平等に与えていた援助を、外国人に対してやめるということだから、全体的な留学生政策のなかでは、特別な位置をもっている。つまり、この側面だけは、ヨーロッパ型なのである。そして、それをアメリカ型に近い意味合いをもたせるということだろう。トランプと緊密にやろうとしている高市首相の政策というのではなく、むしろ、前回の参院選で明確になった外国人への規制強化という政策から出てきただろう。
 こうした政策は、私は賛成しがたい。一般的に留学生を優遇するという日本の留学生政策からすれば、むしろ、この博士課程院生への支援は、日本人と平等な扱いにするという点で、ヨーロッパ型に近いものだった。つまり、外国人に有利なものではなかったのである。それをさらに不利にする必要はない。博士課程院生は、通常であれば働いて給料をえている時期であり、とくに優秀な院生であれば、研究という仕事をしていると考えることができるのであって、給与の一種であるともいえる。日本の科学技術を発展させる観点でいえば、必要なことでもある。
 ただし、それは、学位取得後の働き場所を整備する、つまり、大学院の教授スタッフの拡充とあわせて行う必要がある。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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