トルストイ「戦争と平和」からウクライナ・イラン戦争を考える2

 現在、世界の多くのひとたちが気にかけていることは、イラン戦争がいつまで続くのかという点だろう。この戦争は、石油の問題として、世界中に多大な悪影響をあたえる。だから、はやく終結してほしいと、ごく一部のひとたちを除いて願っているはずだ。一部のひとたちとは、アメリカの軍需産業、石油産業、そして、ロシアのプーチンだ。とりあえず、そうした一部のひとたちのことは無視して、終結を願う立場から問題を考えてみよう。
 昨日との続きでいえば、トランプが終結を決断すれば、戦争は終わるのかという問題となる。トルストイはそうではないというだろうが、では、世界中の大多数の人びとが願っているのに、何故、トランプは早期に、つまり、最初の言明とはちがって、今のところ拡大しているようにみえる状況を作り出しているのか。
 終結のパターンは限られている。トランプが「勝利宣言」をして、攻撃をやめるか、アメリカが地上軍を派遣して、イランを占領し、アメリカに忠実な政権を打ち立てて、退却するか、この二つしかないように思われる。しかし、どちらにしても、多くの壁がある。後者は、さすがにアメリカ国民が許容しないだろう。つまり、徹底的にトランプの支持率がさがり、中間選挙の敗北が確実になるような状況となるから、トランプとしては採用できない戦術だろう。
 第一も極めて困難な問題がある。
 まず、「勝利」とは何かである。戦闘行為としては、アメリカが完全に勝利していることは間違いない。しかし、この状態でアメリカが撤退するわけにはいかないことも自明である。イラン政府は存在しているし、徹底抗戦の姿勢を崩していない。アメリカ軍が撤退すれば、イランはアメリカが求める状況を何一つ実現しないままとなるし、今後アメリカが抑止しようとしたことを、さっそくやり始めるだろう。それが困難な課題だとしても、それを潰すためには、アメリカは再度攻撃しなければならなくなる。それでは、「勝利」とはとうていいえない。
 次の問題は、イスラエルとアメリカ、言い換えれば、ネタニエフとトランプの思惑の相違である。ネタニエフは明らかにイラン体制転換をめざしている。イスラム原理主義の政府を倒して、より世俗的な政府が樹立されないと、イスラエルとしての安全がはかれないと信じているだろう。しかし、アメリカにとっては、そこまでを求める必要もない。当初は、アメリカも体制転換を主張していたが、その困難さを悟ったのか、最近では方向転換をしたようだ。
 ここで考えたいのは、戦争勝利国が反戦国の体制変換を実現することの困難さである。私が知る限りでは、それに成功した事例は、第二次大戦後のアメリカによる日本だけだった。戦前と戦後で日本は、質的な変化が起きたことは間違いがない。全部がアメリカの政策だったわけではないし、また、戦前と戦後はかなりの面で連続してもいる。だが、戦前の超国家主義体制から、とりあえず民主主義国家にかわり、憲法は基本的人権を軸として、平和主義を表明している。事実、戦後日本はまったく戦争をしていない。
 それに対して、アメリカがかかわったベトナム、イラク、アフガニスタンは、いずれも、アメリカの欲する体制に展開することはなく、むしろ、アメリカにとって敵対的な体制になっている。おそらく、これら失敗した国家と日本とで、アメリカとの対比をみると、イデオロギー的側面が異なっていることがわかる。
 ベトナムでは、共産主義国家との闘いであり、アフガニスタンとイラクでは、宗教的な国家(イスラム教)との闘いであった。イラクは比較的世俗的要素の強い国家であるとされていたが、イスラム教が主要な宗教であったことは間違いない。それに対して、日本は、外から見ると神道国家のようにみえたかも知れないが、基本的には世俗的国家であり、社会は発展した資本主義国家だった。そして、当時の日本支配層が、アメリカに対する敗北を選択したともいえる状況があった。日本がしぶっていた無条件降伏を受諾した最大の理由が、おそらくソ連の参戦だった。ソ連(やはりイデオロギー性の強い国家だった)が日本を占領する前に、アメリカに運命を委ねたほうがよい、と考えたのであろう。したがって、アメリカの要求は、日本にとって受け入れ可能なものと予測したろうし、また、アメリカも日本を、以前のような植民地にする気はなかった。事実、戦争協力者の追放は実施したが、不徹底なものだったし、それも比較的早く解除した。そして、内務省は解体したが、ほとんどの官僚機構は温存し、官僚たちも追放されることはなかった。こうした事情がかさなり、日本は、アメリカの属国といえるほど、忠実な国家になったわけである。
 さて、イランはどうか。周知のように、イランは国家自体がイスラム原理主義のような国家である。しかも、シーア派という点でも、非妥協的な面が強く感じられる。そういう国だからこそ、アメリカと徹底的に対立してきたし、今回も引くことなく戦闘を持続している。アメリカが地上軍を派遣して、何年もかけて体制転換を実現しようとしても、不可能と考えるのが妥当だろう。またアメリカ国民がそれを許して支持し続けるとはとうてい思えない。しかし、地上軍を派遣しなければ、体制転換は実現できないことは、当然のこととされている。おそらくそうだろう。
 つまり、アメリカがイランを体制転換させることは不可能なのである。これは断定できる。
 イスラエルはそれを強く望んでいるだろう。ここまでイランに打撃をあたえ、指導層を殺害したのだから、イランとしてもひくことはできない。しかし、イスラエルはアメリカ抜きに単独で、イランと戦争を継続できない。だから、アメリカをなんとかして脱落しないように手を尽くすにちがいない。トランプという人物は、これまでの行動をみると、結局、だれかに引きずられて決断する人間なのであろう。ウクライナ戦争ではプーチンに引きずられ、イラン戦争ではネタニエフに引きずられている。そして先に何がおきるかの判断ができない人物でもある。ウクライナ戦争は24時間で終わらせる、などと豪語していたことは、本人は忘れてしまっているかも知れないが。
 強力にトランプを引きずって、イラン戦争を終わらせる人物はでないのだろうか。高市首相がそれをしたら、私でも高く評価する。もっともトランプがそう決意しても、歴史を自由に動かすことはできないのだが。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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