日本は本当に韓国より優れているのか もう少しバランス感覚が必要ではないか

 歴史上最悪の日韓関係と言われているが、多少の改善の兆しはあるものの、安心という雰囲気にはほど遠い。そして、韓国人の反日は、以前からのもとしても、それほど反韓ではなかった日本人のなかに、反韓感情か急速に高まっている。そして、報道は韓国の経済が悪化しているとか、文政権によって、韓国は崩壊の危機にあるとか、日本は安定しているのに、韓国は経済も政治を悪化しているという報道一色である。しかし、それは本当なのか。もちろん、多くの点で日本は韓国に勝っていることは確かだろう。しかし、韓国か勝っている点も少なくない。少なくとも、日本の電化製品は、既に20年も前に、国際市場では、韓国勢に押し退けられている。表現の自由のランク付けでは、日本は韓国の下位にある。
 考えねばならないのは、韓国と日本の状況を客観的に見ようという姿勢ではなく、日本が文句なく優れていると思い込んでいる日本人が多いことである。あるいは、そうでないことを知っているが故に、不安からそう思い込みたいということなのだろうか。「子どもを生まない女性は生産的でない」と書いて顰蹙をかった、自民党の女性議員は、「主戦場」という映画のなかで、韓国は、電気製品などすべての点で劣っているから、慰安婦問題などを持ち出すのだ、とイタビューで答えていたが、笑いをとっているわけではなく、そう思い込んでいたようだ。
 かつて、ビル・ゲイツが、「アメリカで一番よかった時代はいつですか?」と質問されて、それは1980年代であると答えていた。その理由を聞かれて、当時アメリカの経済は落ち込み、日本に追い上げられ、自信を失っていたが、懸命に這い上がろうとしていた、それがよかったと述べていた。こういう考えかたこそ、学ぶべきである。
 さて、今、韓国では、文政権の主要な担い手たちに対して、どんどん捜査の手を広げている。チョ・グク氏が渦中の人になったとき、たまねぎ男などと揶揄して、盛んに文政権の腐敗ぶりを、日本のメディアはとりあげて、散々な言い方をしていた。しかし、それは、検察がきちんと機能しているということである。他方、日本の状況はどうか。
 森友問題では、疑惑の国有財産の払い下げが起きた。そして、その経過を記した文書を改竄するという公文書偽造という問題が起きた。これはいずれも刑事罰の対象である。しかし、その実行者や指示した者は、一切裁かれることがなかった。そして、日本の政治的疑獄事件では、お決まりというべきか、責任者よりも下位の公務員が亡くなっている。今問題になっている「桜を見る会」においても、公職選挙法違反の疑いがあるにもかかわらず、そうした捜査が行われているという微かな兆候すらない。首相近辺は安心しきっている。
 民主主義の基本原則に、三権分立がある。これは中学生でも知っていることだ。立法と行政の関係には、大統領制と議院内閣制というふたつの形態があり、議院内閣制は、立法と行政がかならずしも分立していないが、いずれの形態も、司法の独立は重視されている。検察は、司法そのものではないが、やはり、政府からは独立して捜査・起訴することができなければならない。検察が政府のいいなりになれば、権力の腐敗をとどめることはできない。韓国の検察は、日本より検察として機能していると思わざるをえない。
 メディアでいえば、安倍内閣に批判的なことを述べる番組の担当者が下ろされたのは、ひとつやふたつではない。近いところでは、ラジオなので、あまり大きな話題にはならなかったが、TBSの「荒川強啓デイ・キャッチ」が不可解な終わりかたをして、少なくともラジオ界では話題になった。この番組、安倍内閣の政策に、歯に衣着せぬ批判をしていたことで人気があり、視聴率は高かった。番組が消えないとしても、批判的なコメンテーターが降板した例もたくさんある。
 メディアが政府批判をしなくなったら、社会全体が不健全になっていく。権力は腐敗するというのは、政治学の基本的な理解であり、だからこそ、メディアが腐敗しないように監視する必要がある。そして、独裁政権は、必ずメディアを統制下に置く。メディアの自由な批判を許すかどうかは、民主主義的政治の根幹なのである。
 もうひとつ例をあげよう。
 韓国経済はまったく停滞しており、その要因が、最低賃金をあげたことになるという日本の経済分析者が多い。しかし、最低賃金をあげることは、労働者にとっては、必要なことである。他方で、韓国経済を批判する者は、財閥によって支配されていることを指摘する。当然、財閥は労働者を最大限低賃金で雇用しているはずであるから、労働者の取り分をより多く要求することは、決して不当なことではない。そのことによって、経済が悪化したというのならば、一方で財閥批判をしている意味が薄れてしまう。
 日本はどうか。既に、日本の賃金水準は、先進国ではかなり下位にあるし、年金等の水準も同様になっていると指摘されている。このような日本の立ち位置から、韓国経済の停滞を批判しても、説得力を感じないのである。
 こうしたことは、対韓国だけのことではなく、一般的に、日本は素晴らしいと繰り返すひと達が多く、更に、メディアの報道が国際的視野を欠いているのは、21世紀に入ってからの一貫した傾向である。例えば、アメリカ大リーグの試合をニュースで取り上げるとき、ほとんどは日本人選手の活躍しか報じない。日本のメディアだから、日本人中心の報道になることは自然であるが、大リーグで高く評価されたプレーや、首位争いをしている試合などを同時に報道すれば、日本人の視野を広くするに違いない。
 ビル・ゲイツのような見方が、必要なのではないか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です