相模原障害者施設殺傷事件(やまゆり園事件)等、責任能力をめぐる難しい事件が少なくない。何度か、このブログでも書いた内容だが、再度論じたい。きっかけは、小坂井敏晶『増補 責任という虚構』(筑摩書房)を読んだことだ。読書ノートにしなかったのは、ざっと通読しただけで、まだ精密に読んでいないからだ。精密に読み直すかどうかはわからない。重要な、あるいは過去、多くの人によって詳細に議論されてきた主題を扱っているのだが、しかし、肝心の結論が書かれいない。「結論に代えて」という章があることでもわかる。それが読後感として一番の不満だ。
私が、この本を読み始めたのは、犯罪の責任に関して、多く触れているからである。犯罪を罰するのは、自由な判断が可能な人間が、意図的に犯した行為、社会にとって禁止され、犯罪とされる行為を行ったときである。自由な判断が可能である場合に、責任が生じるという論理に支えられている。だから、判断ができない子どもや、精神疾患の人間は、罪に問われないという構造になっている。 “主体・責任を考える 小坂井敏晶「責任という虚構」をを読む” の続きを読む
カテゴリー: 時事問題
違法な措置でなった検事総長が、違法行為を裁けるのか
毎日新聞(2020.2.23)によると、岸田文雄自民党政調会長が、NHKの番組に出演して、黒川東京高検検事長の定年延長問題に関して、政府の説明が変化しているところがあり、検察への信頼を取り戻すために、しっかりと説明をする必要があるという趣旨のことを述べたという。説明の変化は、国会で議論されている中で、森法務大臣の説明が混乱していることをさしているのだろう。しかし、はっきりいって、「しっかりした説明」など不可能だろう。何故なら、いくら言い繕っても、違法行為に間違いないのだから。森法務大臣は、弁護士である。弁護士であるならば、黒川氏の定年延長を決めた閣議決定が、違法行為であるこは、充分にわかっているはずである。最も、カルロス・ゴーンの逃亡に際しての記者会見で、とんでもない間違いをしてしまったことを考えれば、本当に分かっていないという可能性もないではないが、常識的には、分かっているが故の、説明の揺れだろう。あるいは、下手な答弁をすることで、閣議決定に抵抗しているのかも知れない。皮肉ではあるが。
そして、AERA.dotによると、2月19日に開かれた、全国の法務・検察幹部が集まる「検察長官合同」で、神村検事正が、かなり明確な批判を行ったという。 “違法な措置でなった検事総長が、違法行為を裁けるのか” の続きを読む
新型コロナウィルス、岩田健太郎氏の映像をめぐって
感染症の専門家である岩田健太郎氏が、ダイアモンド・プリンセス号に乗船して、あまりの惨状にショックを受けたという映像をアップした。要点は、ダイアモンド・プリンセス号では、レッドゾーンとグリーンゾーンが厳密に分かれておらず、過去、エボラ出血熱やSARS対策に外国で従事したときよりも、恐怖を感じたというものだ。それが世界中に広がった一方、日本では、大きなバッシングも起き、その映像を削除されたとする。しかし、多数の人がシェアしていたので、もちろんまだ見ることができる。他方、削除に至る重要な要因になったと思われる高山義治医師のfacebookの当該記事も削除されている。昨日コメントをずっと読んでいたのだが、まだ全部は読んでいないうちに削除されてしまったのが残念だ。
更に、厚労省副大臣の橋本岳氏がツイッターで、岩田氏を批判したことが、炎上している。高山氏のfacebookはかなりの書き込みがあり、ほとんどが岩田氏を批判し、高山氏を擁護するものだった。別のツイッターでは岩田氏を卑怯者と罵るものも多数あるようだ。 “新型コロナウィルス、岩田健太郎氏の映像をめぐって” の続きを読む
新型コロナウィルスの適切な対策か、オリンピック中止か
新型コロナウィルスが原因で、大がかりなイベントが次々に中止されている。東京マラソンの一般参加部分の中止がスポーツとしては、大きなものだろう。この中止に際して、主催者側の姿勢が極めて象徴的である。一般参加者は、参加できないが、既に支払った参加料を返金しないというのだ。テレビでインタビューに応じている一般参加者は、残念がっているが、あまり怒っていないにようにみえるのが、いかにも不自然だ。主催者の都合で参加をさせないのだから、参加料を返金するのは当然だろう。テレビでは怒っているインタビュアの映像は意図的にカットしたのだろうか。
感染症の拡大と国際化は、表裏一体である。日本で極めて国際交流の盛んだった奈良時代には、権力の中枢にいた藤原四兄弟が相次いで天然痘で死去している。当時の国際化は支配層に限定されていたから、感染症の拡大も比較的上層部に限定されていたが、今や、国際化は幅広い層に浸透しており、オリンピックなどのスポーツ大会は、もっとも短期的には大規模な人の移動が起きる。世界中で発生している新型コロナウィルスを念頭に、対策と、もしもの場合の開催の是非について、真剣に検討しなければならない状況だろう。
既にサッカーはシーズン入りしているし、間もなくプロ野球ではオープン選が始まる。 “新型コロナウィルスの適切な対策か、オリンピック中止か” の続きを読む
新型コロナウィルス対策への疑問 費用負担をめぐって
先の日曜日の朝、本の少しだけ日テレのニュース解説番組を見たら、ある人が「これだけ新型コロナウィルス問題の解決が急がれているとき、いつまで「桜」のことをやっているんでしょうね。」と野党の国会での活動に疑問を呈していた。野党のやり方が賢いとは思わないが、桜問題と、最近つとに国際的に非難されるに至っている新型コロナウィルス対策の不十分性とは、「同じ根」なのである。だから、このふたつは、同時に追求する必要がある。その番組では、次に東京検事長の定年延期が閣議で決定されたことについて、少しだけ話題が飛び、「閣議で決めたのだから、正しいのでしょうが」などと、間の抜けたコメントをある人がしていた。閣議で決めたのならば、なんでも正しいのか。近年、閣議でひどく違法なことを決める回数が増えている。そして、自民党や検察庁においても、このことにはふれたくないという雰囲気があるという。あれほど明確な違法行為は、滅多にないと思うのだが。
こういうことには、ほぼ一貫した安倍内閣の姿勢かあるといえる。それは端的にいえば、自分に近い人、支持してくれる人には、極めて厚く待遇するが、そうでない人に対しては、それがたとえ、大きな災害であったとしても、非常に冷遇するということである。 “新型コロナウィルス対策への疑問 費用負担をめぐって” の続きを読む
信号機の除去で事故 環状交差点の拡大を
2月8日の京都新聞に、「12月に信号撤去、軽トラ同士が衝突し重体 市道の交差点」という記事が出ていた。滋賀県、見通しのよい道路で、それまで設置していた点滅式の信号を撤去してすぐの事故だったという。滋賀県では、2017年から、順次信号を撤去しており、これまでに70基を撤去しているという。
こんな感じの道路になっているという。(京都新聞掲載)事故が起きた時間帯が記事には書かれていないのだが、注意深く運転すれば、確かに事故は起きにくい道路であるとは思う。左右前後の見通しはとてもよい。にもかかわらず出会い頭の事故が起きた。それは、優先順位が一瞬あいまいになったのだろう。もちろ、「止まれ」のない方が優先道路であり、「止まれ」がある方は、その場合絶対に止まって、相手側が通ってから交差点にはいらなければならない。しかし、「止まれ」の信号は、普段の運転では見過ごされがちなものだ。とくにそれまで信号があったとすれば、とくにそうだろう。 “信号機の除去で事故 環状交差点の拡大を” の続きを読む
検察への違法な政府の介入
黒川東京高検検事長の定年延長を閣議決定した件が、法曹界で大問題になっている。多数のコメントが出ているので、特に新しい見解をだすことではないが、批判の数を増やす意味もあるだろうと、考えをまとめてみる。
安倍内閣に関わる不祥事を、検察がもみ消したと思われる事実は少なくない。どこまで黒川氏が関与していたかは、もちろんわからないが、報道によれば、安倍内閣に極めて近く、逮捕起訴されてもおかしくない事件で、緩い対応だった事例がいくつかあるそうだ。そして、定年延長は、明後日の2月7日に定年退職する黒川氏を、本年8月に定年退職する稲田検事総長の後任にするためであると、多くの報道機関によって伝えられている。もちろん、先に定年退職している人を検事総長に昇格させることはできないからとった措置であろう。
報道によれば、同期の林真琴名古屋高検検事長と黒川氏が長年のライバルで、どちらかが検事総長になると、前から予想されていた関係なのだそうだ。しかし、定年の関係で、黒川氏はなることができず、自然に林氏になると考えられていた。黒川氏が安倍寄りのスタンスであるのに対して、林氏はニュートラールな姿勢だということで、法曹界では、その点でも林氏を支持する声が多いという。安倍内閣は、稲田検事総長を、定年前に辞めさて、黒川氏にバトンタッチさせたかったが、稲田氏が自発的な辞任を拒んだために、黒川氏の定年延長という、違法行為にでたということだ。 “検察への違法な政府の介入” の続きを読む
隔離施設の受け入れに益はないのか
新型コロナウィルスの感染者、あるいは感染の可能性がある人の隔離が問題となっている。韓国では、受け入れ拒否のために、バリケードを築いている地域とか、あるいは説明会に出てきた説明員に暴力を働く事例などがあると報道されている。日本でも、受け入れた自治体に住民から抗議の電話があるそうだ。それに対して、アメリカは軍の施設に隔離しているという。軍の施設は、一般住民の住む地位からはかなり離れているのが普通だから、住民の反対運動などは、おそらく起きようがないだろう。しかし、日本には、そんな軍の施設など存在しないはずだから、結局ホテルなどを借りることになっている。深刻なのは、受け入れた施設で働く人の子どもなどが、学校でいじめを受けているという状況だ。
日本でも、かつては、いわゆる「迷惑施設」、たとえば、刑務所、ごみ焼却場、精神病院、原発などが建設されようとすると、住民の反対運動がかなり激しく行われたものだ。しかし、最近だいぶ雰囲気が変わってきたように感じる。 “隔離施設の受け入れに益はないのか” の続きを読む
大阪の青少年保護条例改正案 「真剣」とは何か
読売新聞2020.2.2に、「18歳未満との交際、「真剣」以外はすべて違反に…大阪府が条例改正案」という記事が出ている。記事は以下のように報じている。
「大阪府が、2月議会に提出する府青少年健全育成条例の改正案の全容がわかった。条例は18歳未満とのわいせつ行為を禁じているが、現行では、脅したり、ウソをついたりしていなければ、処罰の対象外だった。改正案では、性的欲望を満たすことだけを目的としたわいせつ行為を禁じ、真剣交際以外はすべて違反となる。」
インターネットで検索できる条例は、おそらく以下のものだろう。
第三十九条 何人も、次に掲げる行為を行ってはならない。
二 専ら性的欲望を満足させる目的で、青少年を威迫し、欺き、又は困惑させて、当該青少年に対し性行為又はわいせつな行為を行うこと。
三 性行為又はわいせつな行為を行うことの周旋を受け、青少年に対し当該周旋に係る性行為又はわいせつな行為を行うこと。
この条文によれば、「威迫、欺き、困惑」させる行為が罰する必要要件になっているということだ。 “大阪の青少年保護条例改正案 「真剣」とは何か” の続きを読む
イギリスのEU脱退
世の中では、コロナウィルスの話題一色だが、私にとっては、明日のイギリスEU脱退のほうが、より関心がある。メイ元首相が実現しようとして、議会に阻まれてきたブレクジットを、ついに議会承認に漕ぎ着けたということで、その手腕を評価されているようだが、実は、メイがしてはならないことと禁じ手にしていたことを、ジョンソンはあえてやったことによって、議会承認をとりつけたのだ。それが今後のイギリスによい結果をもたらすかは不明だ。つまり、事実上、北アイルランドはEUに残留するのと同じような措置にしたことは、連合王国を分裂させる危険性が高いわけだ。だから、メイ元首相はその道を選ばなかった。
そもそも、連合王国としてのまとまりをとりながら、ブレクジットを実現することは、論理的にほとんど不可能だった。 “イギリスのEU脱退” の続きを読む