親を自宅で看取ることの「覚悟」とは

「『呼吸が止まっても救急車を呼ばない』親を自宅で看取る側の覚悟」という「女性セブン」の記事が掲載されている。https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200317-00000005-moneypost-bus_all
 ずっと以前から、ボケても病院にいれないで、と何度もいわれていた娘が、在宅医療を利用して、自宅で看取ったという話である。ただ、記事によれば、在宅医療を知って、大学病院を退院し、自宅に連れ帰ったとあるから、それまでは入院していたのだろう。
 そして、25年間在宅医療に携わってきた院長が、「最後まで治療する大学病院よりも、在宅は圧倒的に平穏死を迎えやすい。終末期には食べられなくなるのが自然だが、病院では点滴をするので苦しくなる」と語っている。
 もっとも、誰でも平穏死を迎えられるわけではなく、いざというとき、親族が救急車を呼んでしまうこともあるという。そして、よい在宅医を探すことが重要という結論になっている。
 このようなことは、もちろん確かだろう。しかし、いかにも予定調和的な文章で、そうはいかない場合も少なくないことを、きちんと書き、多様なあり方のなかで、普段からとるべき道を考え、そのために何をする必要があるのかを準備する必要があるとしなければならない。
 まず、なんといっても、見てくれる家族がいればいいが、高齢者一人という場合も多い。独居老人にとっての在宅死は、孤独死になってしまう。それならば、施設での死のほうが、平穏死の可能性が高いのではないか。施設でも、看取りをしてくれるところもある。
 また、家族がいたとしても、死を迎えつつある高齢者を自宅で介護するのは、ヘルパーさんたちに多くを任せたとしても、かなり大変なことだ。また、介護する者が、高齢者であるといっても、介護保険を充分に使えない場合もある。平穏死の前に、介護者の疲労が蓄積してしまうケースも多い。そうして事件になるケースがときどき報道される。
 また、在宅医がうまく見つけられない場合には、在宅の看取りはある種の危険を伴うことになる。在宅死を迎えたときに、不審死であると解釈されて、警察の捜査がはいることがあるからだ。「普通に死ぬのもなかなか難しい」http://wakei-education.sakura.ne.jp/otazemiblog/?p=1063 に書いたように、救急車がかけつけたときに、既に死んでいると、ほぼ確実に警察が介入するそうだ。私の父は、施設の医師が死亡確認することになっていたのに、それを知らなかった(あるいはとっさに思い出さなかった)介護士が、呼吸をしていない父を夜中の巡回で見つけて、救急車を呼んでしまった。そして、私たちは、真夜中に、呼び出されて、高速道路を飛ばして、病院と警察に出向くはめになった。施設のひとたちも急遽呼び出されて事情聴取などされ、大変だった。
 こうしたことは、義母のときにも充分に注意されていたので、そのときには、かかりつけの医師が早朝に駆けつけてくれて、死亡の診断をしてくれたために、何事もなかったのであるが、ものごとの順序や内容が予定と狂うと、こうした羽目に陥ることになるのだ。  
 在宅医を探すのも、かなり地域によっては難しい。私がまだ子どものころは、東京でも医者は普通に往診してくれた。しかし、大学生くらいになると、つまり1970年代くらいになると、往診しない医院が増えた。病院にいける者は、自分でいきなさい、それが無理なら救急車を呼びなさい、ということになったのだろう。しかし、こうした終末医療では、救急車を呼ぶことは、救命措置をすることだから、救命措置は受けたくないという人にとって、救急車は呼べない。しかし、適切な在宅医の措置を受けられないと、不審死扱いされることになる。終末医療は病院で受け、様々な医療器具につながれるということへの忌避感情が大きくなっているのだが、こうした矛盾がまだまだ未解決なのである。「かかりつけ医」がこの問題を、自動的に解決してくれるわけでもない。かかりつけ医は、自分で適宜決められるが、在宅医でなければ、自宅まできてくれるわけではないからだ。そして、まだまだ在宅医は少ない。記事が書いているように、かかりつけ医師が在宅医を紹介してくれれば幸運だろうが、まだまだ日本の状況では、地域を網羅しているわけではない。そういう場合どうすればいいのか。ひとつのパターンを絶対視すると、その条件が欠けている場合、どうすればよいか困ってしまうだろう。やはり、様々な状況があり、そのなかで可能な選択を広げていく施策を考えるべきだろう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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