羽田新ルートの問題 着陸の安全性は?

 新型コロナウィルス問題があまりに大きくなって、もうすぐ始まる、羽田着陸の新ルート問題は、あまり取り上げられていない。「全国新聞ネット」(2020.3.2)に「羽田都心新ルート、これだけある危険な理由 落下物や騒音だけじゃない深刻リスク パイロットには恐怖の空港に」という元パイロットで航空評論家の杉江弘氏の文章が載っている。これは、映像によるインタビューとして掲載されていた内容と基本的に同じで、その後文章化されたものだ。(ただし後述するように、重大なことが削除された内容になっている。)昨年末か、新年早々かは忘れてしまったが、この新ルートの実験的飛行が開始されるという記事があった。私の親しい人物が、ちょうどそのルートの下に住んでいるので注目した。実験後の記事も少しだけ見たが、かなりの騒音だったという。
 それより問題なのは、杉江氏の指摘する安全性だろう。
 杉江氏の主張を紹介する前に、国交省の主張をみよう。国交省のホームページに、羽田新ルールと解説がある。ぜひ参照してほしいが、そこでは、新ルートが、南風の日の15時から19時の間に使うもので、埼玉から羽田に降下していくルートのことである。これで、年間39000便の増加が可能になるのだそうだ。
 国交省のページでは、指摘されている問題として、騒音と落下物に関しての説明をしている。
 騒音対策として、8つ実行するとしている。  
・時間帯の限定
・着陸料金の改訂(軽い飛行機を優先、音が小さい)  
・川崎方面への離陸する航空機の制限(音の産出量を基準)
・着陸経路の高度をより高くする
・着陸前の高度を上げるために、着陸地点を移設(海側まで伸ばす)
・着陸時の降下角の引き上げ
・西向きに制限  距離機材の制限
・防音工事の助成  
・騒音測定局を設置 ホームページで公開 24時間
 そして、落下物対策としては、
・防止対策の義務化 
・抜き打ちチェック
・落下物の情報収集の強化
・部品の欠落があったときの報告制度の充実
・落下物の原因分析を徹底的に行う
・処分
・被害者への補償
 そして、これらの内容を綜合パッケージとして各航空会社に配布しているのだそうだ。
 さて、杉江氏は、これらの対策の中に、最大の問題があるという。つまり、騒音対策として、高度をあげて進入し、着陸するわけだが、長年のパイロット経験から、着陸の際の降下角度を上げると、段違いに着陸が難しくなるというのだ。現在の多くの空港では、3度を採用しているのだそうだ。それを3.4度にするという。しかも、夏の暑い日には、3.7度くらいになってしまう。杉江氏の今回の文章には書かれていないが、映像では、実際にパイロットの訓練に使うシミュレーターで実験したところ、ほとんどのパイロットは、3.4度の降下角度では、滑走路が大きな壁のように見え、恐怖を感じたという。この時間帯の羽田着を拒否する航空会社も既にでていると映像では語っていた。
 そして、実際に1月に行われた確認フライトで、エアカナダとデルタのパイロットは、安全上の確認が必要であるということで、その進入実験を拒否したそうだ。
 さて、では、なぜ高度を上げる必要があるのか。国交省は、騒音対策であるとするが、羽田近くになれば、たいした違いはない。そして、通常の空港のように、もっと前から高度を下げていけばいいわけである。降下角度があがれば、それだけ急な着陸になるから、それだけパイロットの技術が難しくなることは、素人にも充分わかる。失敗したときの被害は甚大でもある。
 映像での杉江氏の説明では、高度を上げる理由は、横田空域問題であるというのだが、今回の杉江氏の文章には、その点については触れていない。圧力がかかったのだろうか。日本の軍事基地問題に関心がある人には周知のことだが、東京の空の管轄は米軍が行っているのであって、日本の航空機は、日本政府の許可によって飛ぶことはできないわけだ。つまり、横田空域を避けるためには、制限された空域よりも上を飛ぶ必要があり、そのために、高度を上げなければならない。高度を上げるから騒音対策に配慮しているというのが、国交省の説明だが、杉江氏は、長いパイロットの経験から、高度を上げることによって、飛行が極めて危険なものになると警告しているわけである。
 このようなはっきりと見解が対立しているときには、一方が重要な論点について触れない場合、触れるとまずいからであり、触れているほうが正しいと考えるのが、妥当である。高度があがることによる安全性の低下について、国交省ホームページは何も触れていない。
 さて、何故、こうまでして新ルートを設定するのか。それは、国交省も杉江氏も同じ見方をしている。つまり、都心に近い便利な羽田を国際空港として活用することで、海外からの観光客を惹きつけたいということだ。しかし、杉江氏は、危険を冒してまでそうする必要はなく、従来、成田を国際空港として育てる政策だったのだから、成田の活用をより便利にする方向が正しいという。確かに、成田より、羽田のほうが都心に近い。しかし、成田が著しく不便だということはない。鉄道も高速道路も整備されており、世界の代表的な国際空港から都市の中心部へ移動する点で、劣っているとは、私は感じない。
 少なくとも、飛行機の利用に関して、安全性とアクセスの利便性を比較すれば、絶対的に安全性が重要である。
 この新ルートの採用で、増便できる部分は、成田は、現状で吸収できるのだそうだ。世界の航空会社が、羽田を拒否して、成田に移る可能性もあるだろう。今後私は成田を利用する。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です