トランプのツイッター永久停止

 
 アメリカの騒動は、日本でも大きな議論を巻き起こしている。そのひとつが、トランプ大統領のアカウントを、ツイッター社が永久停止したことに、否定的な議論が起きていることだ。そのひとつとして、DIAMOND online 2021.1.15の岸博幸氏「コロナとトランプ政権で明らかになったマスメディアとSNSの偏向」がある。
 岸氏は、ツイッターなどの大手SNSは、内容について責任をとる必要がなく、訴訟から解放されているが故に、今回の措置は不当であると主張している。

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韓国の慰安婦訴訟判決について4

 判決と政治過程について、どう考えるか。
 まず判決内容については、やはり、支持することはできないだろう。長期的にみて、国家免除が制限されていくとしても、現在は、国際慣習法として存在していると、国際司法裁判所は認めており、日本政府に対して、政府が関与したとして、賠償を求めているのだから、政府としての主権行為に対する請求ということになる。それは、人道に反する行為である故に、主権行為であるとしても国家免除から除外されるという判決の論理は、論理的に矛盾している。
 ただし、日本政府としては、現時点での慣習法としての国家免除に甘んじることなく、やはり、国家が個人の権利を侵害したときには、免除が制限されるという方向性を志向する必要があるのではないだろうか。

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韓国の慰安婦訴訟判決について3

 慰安婦訴訟は、もちろん単なる法律論ではなく、その政治過程こそが重要である。
 最近は、あまり触れられることがないが、慰安婦問題が国際社会で大きな問題となったのは、1990年代になってからであって、1970年代までは、実は日本の保守的なひと達は、慰安婦の存在を別に隠していなかったのである。むしろ、自慢げに話すような対談が残っている。慰安婦を問題として扱う人がいなかったわけではなく、少数ながら、告発的な本は存在していた。(千田夏光『従軍慰安婦』1973年)1980年代になると、その後大きなスキャンダルともなる吉田清治の著作や告白(実際には虚偽であることがわかった。)がなされるようになり、社会的に慰安婦が大きく扱われるようになった。
 つまり、ここで大きな流れの変化があったといえる。
 それまでは、日本人の発言の多くは、慰安婦は当時の公娼制度が海外でも行われたことであって、特に問題はないという前提でなされていた。韓国では、慰安婦であったひとたちは、その前歴をひたすら隠す必要を感じていて、声をあげることがなかった。

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トランプのアカウント削除と支持者のファシスト化

 ドイツのメルケル首相が、トランプの行動を非難しながらも、ツイッター社がトランプのアカウントを永久停止したことを批判している。
 
 「ザイベルト氏は、うそや暴力の扇動も「非常に問題だ」としつつも、これらへの対応は国家が法的規制の枠組みを策定することでなされるべきだと言明。アカウントを停止し完全に投稿を見られなくするのは、行き過ぎだと述べた。ただし、虚偽の主張に警告を表示するSNS各社のここ数か月の対応には支持を表明した。
 トランプ氏の支持者による連邦議会議事堂への乱入について、メルケル首相はこれまで「激しい怒りと悲しみ」を覚えたと明らかにしている。」AFPBB News 2021.1.12
 ザイベルト氏はメルケル首相の報道官である。
 しかし、メルケル氏の批判は、あまり説得的ではない。というのは、メルケル氏の論によれば、国家がツイッター社に対して、法的規制の枠組みを策定するということになる。それこそ、国家による私企業に対する言論規制ではないのだろうか。言論のプラットフォームを提供しているだけのツイッターやラインなどと、出版社とは明らかに異なり、ツイッターなどの投稿内容に対する責任はずっと軽い。しかし、まったく責任を負わないというものではない。今回の議事堂襲撃事件で、自ら突入して銃撃された人、襲撃した人に暴行をうけて亡くなった警官は、トランプ大統領と、その言動を拡散することを許したツイッター社を訴える可能性がある。訴訟の結果、ツイッター社の責任が認定される可能性は低いと思うが、ゼロではないに違いない。
 また、いかにプラットフォームを提供しているだけとはいえ、かならず言論に関する守るべきルールを定めている。そして、そのルールに継続的に抵触しているとすれば、アカウントを停止ないし廃止することを決めており、それを受諾した上で利用しているはずである。メルケルの論理でいうと、そのルールを定めることすら否定されてしまう可能性がある。
 ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、トランプ派が、大統領就任式をはじめ、武装襲撃する計画がネットを使って密かに勧められている可能性があるという。そして、そういう呼びかけには、武器を帯同するようにという内容もあるそうだ。6日の議事堂襲撃の映像を見ると、そうした呼びかけが、決して、単なる憶測とは思われないのが、深刻なことだ。

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韓国の慰安婦訴訟判決について2

 
 判決の内容については、被告である日本政府が応訴していないので、原告の主張通りの判決が出ることは、100%予想されていた。注目の判決が出ると書いていた人たちもいたが、注目すべきは、判決後の進展具合である。日本政府が敗訴したからといって、判決にしたがって、賠償金を払うことはありえない。無視するか、国際司法裁判所に提訴するか、あるいは、何か報復措置をとるのか。国際司法裁判所に提訴するとしたら、緻密な論理が必要となるだろう。ここでは、そのときにどのような論になるのか、考えてみることにしよう。
 
 まず前提的に必要なことを確認しておこう。
 
 日韓条約の「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」において、以下のことが決められた。
・日本は無償で3億ドル、有償で2億ドル韓国政府に支払う。
・両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。
 韓国人の個人に対する補償は、日本政府が支払ったなかから、韓国政府が行うことは、協定には書かれていないが、条約締結の過程で約束された。(両政府がその後確認している。しかし、日本から支払われた資金で、韓国政府は経済発展のための資金として投入し、個人補償はごくわずかしかなされなかった。)

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韓国の慰安婦訴訟判決について1

 韓国で、日本政府に慰安婦への賠償請求を認める判決がでて、またまた物議を醸している。日本の報道は、ほぼ韓国非難で、唯一の例外が日本共産党と思われる。ただし、共産党も、判決を支持しているわけではなく、日本政府は韓国とよく協議すべきであるとの主張に留まっている。私自身は、もちろん、今回の判決を支持するものではないし、酷いと思うのだが、日本政府の反論を見ると、必ずしも説得力があるものではないのだ。ここは、冷静に考える必要がある。国際世論は、日本に味方すると思い込んでいるのか、それほど詳細な反論など必要ないと思っているのか、徴用工訴訟判決のときもそうだったが、単に「遺憾である」とか「認めない」などというだけでは、韓国はもちろん、国際社会が日本の立場を認めるかどうかは、不明だと私は思っている。日本政府の主張は、一貫しているようで、実は、揺れもあるからだ。
 今回の判決に対して、日本政府は、「国及びその財産の裁判権からの免除に関する国際連合条約」を根拠に、政府は外国人からの民事訴訟については、免除されていると主張して、この判決が国際条約違反であると、単純にいっているように感じられる。つまり、裁判そのものが成立しないという立場をとっているようだ。だから裁判は完全に無視してきた。では、その条約はどんなものなのか。

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トランプの2024年はなくなった

 昨日はテレビに釘付けだったが、無事、バイデンの当選の確認がなされて、世界中の多くの人々は安心しただろう。私自身は、もっと酷い状況も想定していたが、さすがに、そこまではいかなかったようだ。日本のトランプ支持者たちのなかには、戒厳令が布かれて、議事堂が軍隊によって管理されるというようなことをいう者までいた。そして、彼等の何人かは、いまでも、「今度の」作戦なるものを吹聴している。それによると、トランプは、既に6日の夜に、テキサス州アビリーン国防司令部に、Boeing E-4 という、核攻撃されたときに使う飛行機で移動したというのである。そして、20日のバイデン新大統領の就任式前に、軍事行動をおこすような口ぶりである。そして、そのyoutubeには、多くの賛同コメントが書かれ、他のyoutubeにも引用されている。そうしたコメントによると、中共によって組織された過激派が、暴動をおこしたのであって、トランプはそれを静めようとしていたということのようだ。彼等によれば、トランプは完全に被害者らしい。カルトとはこういう人たちのことなのだろう。

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トランプ大統領のクーデター未遂か

 今日は朝から、アメリカの様子に釘付けになっていた。日本でも、1月6日にアメリカで「何か」がおきると、盛んに言われていたし、バイデン当選を否定する動きを支持するようなyoutubeチャンネルも少なくなかったから、実際にアメリカで起きたことに、それほど驚きはなかった。しかし、展開は興味深いものだ。
 日本の選挙制度では考えられないことだが、11月3日に行われた大統領選挙が、正式に結果が認定されるのが、1月6日の両院での確認の協議となっている。それまでに、結果の集計、選挙人による投票という手続があり、最終が1月6日だ。そして、そのときに、両院議会で、異議申し立てがあれば、議員が意見を述べ、そのあと、上院議長による確認という「儀式」になるというのだ。しかし、トランプが、上院議長であり、かつ副大統領であるペンスに、結果を承認するなという圧力をかけていたということだ。また、共和党議員に対して、意義申したてを行うように働きかけていた。

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日本人は集団免疫を獲得したのか

 これまで私自身はあまり注目してこなかったのだが、上久保靖彦という京大の特定教授が、ネット上ではけっこう支持されているらしい仮説を提示している。検索していると、確かに納得している人も少なくないのだが、専門家のコメントがほとんど見当たらないのだ。テレビで専門家との議論があったが、質問責めにされ、それにきちんと回答したのに、回答部分が放映のときにカットされたとも、本人がyoutubeで述べている。それが、専門家との討論としては、ほぼ唯一の機会だったのだろうか。
 本当らしくもあり、そうでない感じもするので、当人の発言や文書を検討してみた。
 
 その前に、新型コロナウィルスについては、まだ解明されていないことかけっこうあるようだ。あくまでも素人としての疑問をあげておきたい。
ア 欧米では死者や感染者数が、日本より圧倒的に多い。東アジアでは、日本人は悪いほうだが、国際的には、目立って少ない。この理由は何か。
イ 新型コロナウィルスは、これまでのコロナウィルスやインフルエンザと比較して、重い病気なのか、単なる風邪の一種なのか。
ウ 専門家会議は、発症前に感染させるとか、あるいは感染しても、他人に感染させるのは2割だけだというが、それは本当か、また本当だとしたら何故なのか。
 
 さて、この上久保論は、主にアに対しての仮説を与えたものだといってよい。他にも、BCG説、日本人の生活習慣説などがあるが、上久保氏は、日本人には集団免疫が形成されているからだと主張している。その議論の骨格を私なりにまとめてみる。

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一年を振り返って 政治

 政治の世界は大きな変動のあった一年だった。国際的には、トランプが敗北した。トランプの盟友だった安倍首相も退陣した。そして、世界中がコロナ対策に明け暮れた年だった。
 日本の政治は、特に与党政治家の劣化が否定しようがないことが明らかになったといえる。コロナ対策は、仕方ない側面もあった。最初の対応が、外国籍のクルーズ船で、乗客に日本人が多かったためだろうが、入港を断れない状況になり、しかも、患者が船内で発生するという、大変難しい状況であったことは間違いない。しかし、日本政府の対応で目立ったことは、本当の感染症対策専門家が中心となるのではなく、専門家とはいえないひとたちが取り仕切ったことである。そのことが、岩田健太郎氏によって指摘されると、「頑張っているひとたちに何をいっているのか」という批判が、岩田氏に向けられるという、本末転倒なことが起きた。これは、日本の行政の象徴的な出来事だと感じるのである。
 それでも、政策担当者の愚作が目立った。アベノマスクは、権力の中枢にいるひとたちが、いかにリアルな感覚をもっていないかをしめした。

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