毎日新聞(2020.12.7)によると、川勝静岡県知事が、環境問題の解決抜きには、リニア整備認めないと明言したとされる。本会議で「リニアに長く関わり、賛成してきた。現在も推進すべきだとの考えに変わりない」とする一方「大井川の水や南アルプスの自然環境に悪影響を及ぼすなら、認めることはできない」と述べた。水資源の問題だけではなく、有害物質を含む掘削土が発生する可能説、大井川上流で取水して山梨県側の富士川水系に放流する田代ダムに対する点では、田代ダムの取水口付近の河川流量は確実に減って、水利権者に影響が及ぶ可能性があるとしている。
こうした環境悪化の問題だけではなく、工事が行われている地域では、さまざまな使用制限がかけられ、自然を活用した教育を行っている学校や幼稚園などの活動が阻害されているという話を聞いたことがある。様々な悪影響が指摘されている。もし、そうした悪影響を帳消しにするほどの、社会的なプラスの側面があるならば、作るのもよいのだろう。
しかし、これまででも指摘されている、利用者はどれほどいるのかという問題が、コロナによって、より大きくクローズアップされてくるはずである。現在でも、東京・名古屋・大阪と結ぶ線は、飛行機と新幹線で争っている。高速道路もある。日本は人口減少社会であるにもかかわらず、そこにリニアが参入して、客を奪い合うことになる。これまでは、便利になることによって、日帰り出張などがしやすくなり、この都市間の移動が多くなるだろうという想定があった。しかし、コロナは、それを根本的に変えてしまうことになるはずである。わざわざ主張しなくても、オンラインでの会議や相談で済む仕事が増えてくる。そうすれば、出張そのものが減少していくわけだ。今は、まだまだ対面会議のほうが効率的だというような意見があるが、ICTを活用した企業が生き残っていくことは自明のことであり、可能な限りネットを活用した仕事のスタイルに変化していくだろう。そうすれば、仕事のための人の移動は、現在よりも確実に減少するのである。では、観光のための利用者が増えるのかどうか。これも大いに疑問だ。観光のために、ほとんど地下を走るリニアに好んで乗るだろうか。かなり味気ないとはいえ、新幹線のほうがまだよい。京都に着くのに1時間程度早くなるだけで、高い料金と、味気ないトンネルの移動をとる人が多数でるとは思えないのである。(出発が品川なので、東京からの時間で考えると、それほどの短縮ではないと言われている。)
そう考えると、リニアは完成したとしても、最初から大幅に赤字となり、決して黒字化しないとも考えられるのである。これまでは引きかえそうとしても、走り出した以上、簡単にとめられない事情はあったかも知れないが、コロナ禍による生活や仕事のスタイルの大きな変化は、ますますリニアの成功を困難にすることになることが、明確になってきたのではないか。
念のためにリニアの採算がどのように考えられているのか、ネットでチェックしてみると、ふたつの見解があることがわかる。ひとつは、新幹線や飛行機の客がリニアに転換するので、黒字になるのは時間がかかるが、必ず採算がとれるようになるという見方である。しかし、この見方は、コロナ禍による仕事の方法の変化によって、やはり無理になるのではないだろうか。
第二の見方は、採算はとれなくてもいいのだ、むしろ、災害時に、ふたつの鉄道路線があることで、一方が利用不可能になっても、他方で補完する関係になり、そのために建設しているのだというものだ。また、新幹線が建設されたから半世紀以上も経過しているので、大規模な改修工事が必要となり、そのためには、第二の路線が必要となる、そのために建設しているというのである。本当だろうかといずれも、あまり納得できない。そういう代替物として建設するには、あまりに巨額な費用がかかるのではないだろうか。
東名高速は確かに部分的に第二東名が建設されているが、あれは交通量が多いから緩和のためだろうし、改修のためではないはずだ。東名高速も新幹線と同じころに建設され、かなりの補修工事をしているから、新幹線が代替路線がないとできないというものではないと思われるのだが。