アルバイト募集やアパートを借りるなどで、ベトナム人お断りが増えているそうだ。特に、豚の大量窃盗のあと、ベトナム人が豚を解体していて逮捕されたという報道によって、増幅したらしい。私自身、数年前から、日本に滞在するベトナム人による犯罪が目立つことが気になっていた。私のイメージでは、ベトナム人は概してまじめな人たちが多いというものだったからだ。なんといっても、私たちの世代は、青年期にベトナム戦争が進行しており、あのアメリカの不当な侵略戦争に屈せず、断固として闘い抜いたベトナム人の印象がある。アメリカがベトナム戦争に敗北し、撤退したあと、南ベトナムの住民が大量に、ボートピープルと化し、各地に亡命していった。そして、日本も大量のベトナム難民を受け入れたわけだ。日本がこうした大量の外国人の難民を受け入れたのは、初めてのことだった。ベトナム人は日本社会に溶けこんでいったと思っている。
そして、ベトナム人による犯罪の増加だ。何故だろうと、ずっと疑問に思っていた。豚の窃盗事件があったとき、ベトナム人かも知れないと思ったのは、私だけではないだろう。そして、解体して食べたというベトナム人の逮捕だ。実際に盗んだ犯人ではなかったようだが、ベトナム人コミュニティのなかで、盗品が売られていたと報道されている。(産経新聞2020.12.20)
しかし、ベトナム人の犯罪が続いたからといって、ベトナム人全体をバイトやアパートから締め出すというのは、同意できないし、また、日本社会のためにもよくないのではないかと思わざるをえない。
日本は、安い外国人労働力をいれるために、昔から、実習生とか研修生という名目で、外国人の単純労働者を認めてきた。もちろん、法律上は、単純労働で外国人が日本で働くことはできない。しかし、日本人は3Kを低賃金で働いてくれないから、外国人に頼る。そこで、実際には実習でもないし、研修などしていなくても、そういう名目をつけてきた。そして、酷い労働条件で働かされた外国人が少なくない状況が生まれ、それに対する対策として、「特定技能」をもった人などというカテゴリーをつくったわけだ。しかし、そのカテゴリーに当てはまる人たちは、あまり集まらず、以前のような名目ではいってきて、不安定な低賃金労働に従事する外国人が継続した。その多くがベトナム人である。以前から、あまりに酷い労働条件に耐えきれなくなって、逃亡するベトナム人の研修生や実習生がたくさんいることが問題になっていた。これは、決して彼らがいいかげんだからではない。
ところが、今年のコロナ騒動で、更に酷い状況が生まれた。解雇され、しかも、様々な事情で帰国もできない。そうしてこまった彼等のなかから、窃盗をする人たちが出たということだろう。だから、犯罪を許すということではないが、日本の受け入れの問題を改善することなしに、彼等を非難するだけでは、今後も同様なことがおきるに違いない。
ベトナム人で日本にくる人たちには、大きくふたつのグループがあるという。ひとつは、ベトナム社会のなかで、比較的恵まれた人たちで、留学生、そして卒業後日本で正規に就職する人たちで、もうひとつは、貧しいベトナム社会から、名目は研修生だが、安い賃金労働者として、来日する人たちである。後者は、悪徳ブローカーがいて、だまして日本に送り出してくることが多いという。そして、日本社会とベトナム社会の違いなどは、全く教えることなく、そのまま厳しい肉体労働に放り込まれるのだそうだ。ベトナムの農村では、余剰の農産物などは、だまってとってしまうことが珍しくなく、特に非難もされないというのだが、日本では、たとえ落ちているものでも、だまってとったら、窃盗になる。もちろん、きちんと建物のなかで飼育している豚を盗むことは、犯罪であることはわかっているだろうが、ベトナム社会の感覚でいえば、その境が多少あいまいなのかもしれない。だから、雇う日本側でも、きちんとした条件整備が必要なのではないだろうか。
労働条件を改善すること、そして、日本語の教育や、日本社会の習慣・規律を教えることなどは、必須のことだろう。また、一部のベトナム人が犯罪をしているとしても、ほとんどのベトナム人はまじめに、誠実に生活していることは、間違いない。ベトナム人は、こつこつと働く点において、日本人と比較的似ているとされる。排他的な扱いが改善されることを望む。