天皇のオリンピック発言は、憲法にそったものだ

 あいかわらず、憲法学者の何人かから、24日の西村宮内庁長官を通して発せられた天皇の気持ちに対して、越権行為であるという意見が寄せられている。例えば、次のように報道されている。
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 今回の発言について、憲法学者からは厳しい見方も出ている。横田耕一・九州大名誉教授は「宮内庁長官が政治に絡む天皇の思いを公にするのは、問題で越権行為だ。『感染拡大を心配している』との発言は『こんな時に開催するのはけしからん』という意味を持ってくる。五輪に反対する人たちが天皇の意見として都合のいいように利用する状況が生まれかねない」と警鐘を鳴らした。
 百地章・国士舘大特任教授は「陛下の思いは、開催した場合に感染拡大が起きないようにしてほしいということだろう」と指摘。そのうえで、「仮にそういう趣旨の思いを感じ取っても、西村氏は公にするのは控えるべきだった」と語った。
 しかし、憲法学者としては、情けない発言である。憲法に則して、考えてみよう。厳密に、そして、条文に則して考えるために、天皇の章を全文確認しよう。

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天皇のオリンピック発言

  天皇のオリンピック・パラリンピックによる感染拡大の危惧に関する発言が、大きな議論を呼んでいる。非常に興味深いことは、この発言が西村長官によって紹介された早い時期には、ヤフコメは、天皇の発言が、憲法で禁止されている政治的行為であるという前提で議論するコメントが多かったのだが、次第に、当然のことを語ったのであって、政治的発言とはいえないというコメントが多くなっていることだ。例えば、九州大学法学部の南野森氏は、昨日「宮内庁長官の発言に対しては、憲法学の立場からはノーと言わねばなりません。良い悪い・好き嫌いは別にして、現憲法では天皇に国政に関する権能はなく、国政に関する思いを明らかにすることは認められていません。宮内庁長官という、天皇に最も近い場所にいる公務員が、「拝察」という、あくまでも自身の考えにすぎないという体裁をとったとしても、その実質は同じです。これを長官の個人的な想像と理解する人は普通はいないでしょう。」と書いている。https://news.yahoo.co.jp/articles/6e6f550e9c783c729b9ee7f3388d33230c905e2d/comments
 他にも、天皇の政治的発言をかわすために、加藤官房長官は、西村長官の個人的意見と述べたことは正しいとするコメントも多数ある。しかし、日が改まって、今日(25日)になると、憲法で禁止された発言かどうかを問題としないコメントがほとんどになっている。つまり、天皇の発言は当然だという支持である。
 この天皇発言は、非常に難しい問題をいくつか含んでいるように思われるのである。

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選択的夫婦別姓の最高裁合憲判決は疑問

 6月23日、夫婦がどちらかの姓を選択しなければならない民法と戸籍法の規定が、憲法に違反しないかどうかが争われた裁判で、最高裁が合憲の判決をだした。
 この問題は、ずっと争われてきており、最高裁の判断も今回が二度目だ。前回は、15人中5人が違憲の判断をしたが、今回は4人だったと、毎日新聞が報道している。選択的夫婦別姓を押し進めるという立場からすると、最高裁はこの6年間に後退したことになる。
 現実問題として、夫婦になると、姓を変更しなければならない者は、社会生活上大きな不都合を強いられることがある。夫が働き、妻が家庭を守り、育児に専念するというような家庭であれば、それほど、現実的な不都合はないだろうが、現在は、夫婦共働きが多く、結婚する時点で、既に、自分の名前で社会的な活動をして、名前が変わるとそれまでの活動評価が浸透しにくいことになるひとたちだ。代表的な例としては、研究者が既に論文を何本をだしているような場合である。
 こうした不都合を解消するために、旧姓を「通称」として使用することを認める対策が、少しずつとられてきており、最高裁も「家族の呼称として、姓を一つに定めることには合理性がある。女性側が不利益を受けることが多いとしても、通称使用の広がりで緩和される」(毎日新聞6月23日)として、通称によって、解消できるという立場をとっている。
 しかし、通称を認めるかどうかは、職場によって異なるし、また、認めたとしても、すべての処理を通称で通すことはできない。役所が関わる書類は、戸籍名でなければ認められないからである。

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オリンピック強行が、戦前に似ているというが

 オリンピックに、一時的に批判的な意見を載せ始めた大手メディアも、このところ、すっかりオリンピック推進的な論調に変化していると言われる。そして、どんなに状況が悪くても、そういう客観情勢を見ずに、決めたことに猛進していくというのが、戦前、太平洋戦争に突入していったときとよく似ている、翼賛体制になっているという批判が、多く公表されている。
 しかし、決定的に違うところがある。戦前のメディアは、大手の新聞やわずかな雑誌しかなかった。そして、新聞にしても、雑誌にしても、検閲という強力な国家監視・管理システムの下にあった。もちろん言論の自由などは、なかったわけである。そういうなかで、新聞や雑誌も、戦争体制に飲み込まれていったし、積極的に国家への協力体制を進めていった。 

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静岡知事選川勝氏の勝利 リニア新幹線は20世紀の発想だ

 静岡県知事選で現職の川勝氏が当選した。当然のことだと思う。最大の争点は、リニア新幹線に対する姿勢で、川勝氏は、環境を守ることを優先し、環境を守られない限りは許可しない姿勢でやってきた。それに対して、岩井氏は、「工事は地域住民の合意、協力なしに進めない。地域住民の話を聞き、科学的根拠に基づいて議論する」といっていた。ここまで進展した段階で、自分の主張をださず、住民の合意とか科学的根拠などといっているのは、要するに、実際に問題になっている環境破壊について、積極的な対応をしないといっているに等しい。
 おそらく、リニア新幹線をどうするか、というのは、21世紀の日本をどのように形成していくのかという問題とつながっているように思うのである。
 私は、リニア新幹線は、20世紀的な発想に基づく過去の遺物的存在であり、過去の発想で未来を開けるという錯覚に基づいた建設物であると思っている。東海道新幹線が東京オリンピックを契機として建設されたことは、よく知られているが、その延長上なのだ。とにかく、速い速度の交通網を構築して、ひとの移動を速め、物流を盛んにするという発想だろう。そして、その建築に関わる技術を乗って、技術革新を進めるというものだ。

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早速のルール破り 安全安心な対策など絵に描いた餅だ

 昨日、今後オリンピック関係で、どんどんこれまで言っていたことや、ルールが破られることが起きるだろうと書いたら、もう早速第一号がおきた。ウガンダの選手団の扱いが、組織委員会が明言していることとは、まったく違うし、このひとたちから感染が拡大する危険性は、十分にある。まずは、事実を記事で確認しておこう。
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東京五輪・パラリンピックに出場する東アフリカ・ウガンダの選手団9人が19日夕、成田空港に到着。このうちの1人が、空港での新型コロナウイルスのPCR検査で陽性だったことがわかった。内閣官房が明らかにした。来日した海外の五輪選手団で陽性が判明したのは初めて。 【画像】空港に到着したウガンダ選手団  来日したのはボクシングや重量挙げ、水泳の選手とコーチら。内閣官房によると、全員が出国前にアストラゼネカ社製のワクチンを2回接種。出国96時間以内に2回のPCR検査を受け、陰性証明書を持っていたという。
  選手団は19日午後6時すぎ、一般客約80人が降りた後、マスク姿で1列になって到着ゲートに姿を見せた。その後、空港検疫で唾液(だえき)による抗原検査を受けたが、1人は結果が出なかったためPCR検査を受けたところ、陽性だとわかった。残りの選手らは20日未明、事前合宿地の大阪府泉佐野市へ夜行の貸し切りバスで移動を始めた。https://news.yahoo.co.jp/articles/a7e3bde53830d9d55c38835eddd83009e5764aab?tokyo2020(朝日新聞)
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 選手団の事前のPCR検査は、72時間以内だったのではないか。ここがまず第一のルール破りで、当然、検疫では、もっと厳重な措置をとるべきだったはず。

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嘘つきは泥棒の始まりというが 嘘にまみれた五輪で今後いいそうなこと

 「100万円プレミア五輪チケットがセレブ向けに『大売出し』の怪」という記事が目についた。NEWSポストセブン(2021.6.18)の記事である。豪華お食事付きのチケットは、既にかなり売られているらしいが、キャンセルできなくてこまっているという内容から始まり、新たにそうしたチケットが売られているというのだ。今売られているものの値段はわからないが、かつて売られていたこの手のチケットの最高額は、635万円だそうだ。チケット販売の窓口に確認したところ、売り出していることは間違いないとのこと。
 感染症の専門家たちが、やることに反対し、しかし、どうしてもやるなら無観客でといっていたことを考えれば、こうした豪華食事、パーティ的もてなし付きのチケットを、今現在実際に売り出しているというのは、まったく驚きだ。私は、そのうち、海外の客もやはり、例外的に認めようといいだすのではないかとさえ疑っている。

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ワクチン雑感2 職場接種はプライバシーか

 ワクチンの職場での接種の準備が進んでいる。そうして、計画段階から危惧されていたことが、実際に起きてしまった。大阪のある市で、余ったワクチンを職員に接種することにして、希望を募った。そして接種希望者と非希望者の名簿が、管理職に流れたということだ。https://news.livedoor.com/article/detail/20378539/
 これはプライバシーの侵害であり、とくに、希望しない者に対する差別が起きないか、問題だというコメントがメディアでは主流だ。
 しかし、そんなに単純な問題だろうか。
 自治体として接種に使用していたワクチンが余り、それを職員に接種することにした。そして、希望をとって、希望者に接種することになったわけである。その接種した、しないは、プライバシーかという問題だ。プライバシーというのは、私生活に関することで、当人が秘匿したいことである。

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ワクチン雑感 いくつかの疑問

 私自身、先週2回目のワクチンを接種し終えた。まったく副作用はなく、肩の痛みすらなかった。しかし、けっこう副作用に苦しんでいるひとも知っている。全身がだるく、筋肉痛、蕁麻疹など。しかも、接種してから、けっこう日時が経過してから出てきている。まだまだ、わからないことの多いワクチンなのかも知れない。なんといっても、人類はじめての方式によるワクチンなのだから。
 逆に、なんの副作用もないと、本当にこれは効果があるのかと、多少不安になることも事実だ。効果や副作用については、これから明らかになることだろうから、そのくらいにして、接種に関して、考えたことを整理しておきたい。
 今回の接種手続きで、一番疑問に思ったのは、接種券なるものだ。これは、郵便で送られてくる。しかし、なぜこんなものが必要なのか、私には、理解できない。しかも、全国民一人一人に郵便で送るという大層なものだ。なぜ、マイナンバーを使わないのか。接種券の一番重要な機能は、国民一人一人の番号が全部違い、確実に接種したかどうかが記録できるということにあるのだろう。そして、他人が成り済まして接種することも防ぐ。しかし、それはマイナンバーを確認すれば、同じことができるはずである。しかも、わざわざ郵送する必要がない。当日マイナンバーの証明書(カードか通知書面)をもっていけば済む。あとは、予約にかかわる通知だけがなされればいい。これは、新聞、ラジオ、テレビなどを使い、また、町内会による回覧板でも可能である。このほうが、ずっと安上がりであり、かつ迅速に進むのではないだろうか。

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トイレに行った運転手 鉄道の時間の正確さを考える

 新幹線の運転手が、どうしてもトイレを我慢できなくなって、車掌にまかせて3分ほど客車のトイレにいって用を済ませたということがあった。大分話題になり、運転手は処分された。このようなときには、中央の管制センターに連絡して、列車をとめるのがルールなのだそうだ。しかし、新幹線をとめたら、相当な遅れが生じるだけではなく、他の列車にも影響するために、なかなかそこには踏み切れないということのようだ。停車駅が近ければ、そこで運転手を交代するようなこともできるし、停車時間が長ければ、用をたすことも可能かも知れない。しかし、そういう余裕はなかったということだ。
 在来線でも、けっこう深刻な問題だろうが、新幹線の場合には、もっと大変だ。遅れによる損失、あるいはマイナス評価、停車駅の間隔の長さ、ひとつの新幹線が止まれば、数分でも他の新幹線にも影響する可能性、そして、新幹線は運転技術が高度なので、免許をもっていない車掌が、在来線よりも多いという。従って、運転を交代してもらうことができないことが多い。