菅首相は、オリンピック開催について質問されると、なんとかの一つ覚えのように、「国民の安全と安心」といっているし、また、首相の役割は国民の命を守ることが第一だとも言っている。しかし、昨今、国民の命など、どうでもいいと思っているのではないかと考えざるをえない事態が次々に起こっている。
そのひとつが、JOC経理部長の自殺だ。こうしたことは、ニュース番組だけではなく、ワイドショーなどでも大々的に扱われるものだが、この件は、あまり扱われていない。おそらく、メディアに対する、報道しないように働きかけがあるのではないかと推測する。更に、東スポの記事によると、「これには山下会長だけでなく多くの関係者が疑問を感じ、中には「あの報道は絶対に許されない」と激怒する職員もいた。また、最も印象的だったのは男性の死を悼んで涙していた女性職員だった。オフィスを去る際、目を真っ赤に腫らし、本紙の取材を完全にシャットアウトした。」https://news.yahoo.co.jp/articles/65c8d07e94da1bfaab0911dd11e519cb5472e486などと、ニュース報道に対して、JOCは怒りを向けているようだ。激怒している対象は、実名をだしたということらしいが、自殺事例で実名を報道することは、珍しくない。確かに実名を報道する意味があるかどうかは、私も疑問だが、ただし、JOCの経理部長であることは、しっかりと報道する必要がある。だから、JOCの怒りは、本当のところ、身分が明らかにされたことなのではないか。youtubeで、JOCのホームページで何も触れられていないと語られていたので、実際に確認してみたが、確かに、私のみた限りなんら触れていなかった。経理部長といえば、重要な役職であり、そのひとが、オリンピック開催の直前ともいうべき時期に自殺するとなれば、社会的な影響は大きいし、組織としても、調査をして、見解を公表すべきものだろう。それが社会的責任というものだ。そして、普通は、哀悼の意を表し、冥福を祈る文章を掲げるものではないだろうか。しかし、JOCがやっていることは、それとはまったく逆である。組織を支える重要な人材が亡くなっているのに、抹殺である。これは、命を大切にしている組織のやり方とは思えない。
推測するしかないが、おそらく、オリンピックが終了すれば、竹田前会長の汚職問題が、フランス司法当局によって、捜査が動きだすと言われている。当然、経理を扱っていた部長は、そうした金の流れを知っており、フランス司法の捜査対象になっているはずである。そのことの重みに耐えられなくなった、と考えるのが、もっとも可能性が高いだろう。軽々しくいうべきことではないが、当事者たちが、一切無視している以上想像せざるをえないのである。
命の軽視と思わざるをえないもうひとつは、パブリック・ビューイングである。
常識的に考えれば、海外客の観戦を中止し、国内客も無観客という国民の意識が強いなかで、観客をどうしてもいれたいということにあわせて、パブリック・ビューイングを行う計画が着々と進んでいる。東京都は、2カ所の予定のうち、1カ所を取りやめたが、もうひとつの井の頭公園のほうは、実施するとしている。全国各地で、まだ実施予定のところが多数あるに違いない。
パブリック・ビューイングは、実際の競技場と違って、観客、それもほとんど日本人だけの観客がいるだけだ。周知のように、選手や大会関係者は手厚く守る体制が敷かれるようだが、ボランティアや観客は、無防備なのだ。パブリック・ビューイングが行われれば、まったく無防備なひとたちが集まることになる。そこで感染者が出たとしても、それは日本人市民だけのことで、選手や大会関係者などはいないのだ。
そして、パブリック・ビューイングを実施せよと、一番強行なのがIOCだという。これは、あるテレビ番組で、スポーツ記者が語っていたことだ。もちろん、事実かどうかはわからないが、おそらく、パブリック・ビューイングは入場料を払うわけでもなく、経済効果はあまり期待できない。飲食を許可すれば、それこそ、感染の危険が高まることにもなる。では、なぜIOCが、パブリック・ビューイングに熱心なのか。それは、オリンピックやパラリンピックが全国で熱気をもって迎えられているという雰囲気をだすために必要だと、IOCは認識しているらしいのだ。つまり、オリンピックの成功感を演出するための道具なのである。
多くの国民は、オリンピックそのもので感染が拡大することを危惧しているし、それは、実際に開催されれば、ほぼ確実に起きるだろう。まして、パブリック・ビューイングなどを実施したら、感染拡大が更に加速するとしか考えられない。IOCにとっては、日本人の感染拡大を心配することより、オリンピックの成功感をだすことのほうが重要だということだ。
実際にパブリック・ビューイングが行われ、感染が拡大したとしても、それは勝手にそんなところにいった当人の自己責任だということになるのだろうか。
幸いにも、千葉県知事が、千葉県内で予定されていたパブリック・ビューイングをすべて中止すると発表したようだ。この知事は、自民党ではない知事であることが、こういうことにも表れているのかも知れない。知事としては当然のことだが、他のパブリック・ビューイングも、自治体として早急にやらないことを決定すべきだろう。