ワクチン雑感2 職場接種はプライバシーか

 ワクチンの職場での接種の準備が進んでいる。そうして、計画段階から危惧されていたことが、実際に起きてしまった。大阪のある市で、余ったワクチンを職員に接種することにして、希望を募った。そして接種希望者と非希望者の名簿が、管理職に流れたということだ。https://news.livedoor.com/article/detail/20378539/
 これはプライバシーの侵害であり、とくに、希望しない者に対する差別が起きないか、問題だというコメントがメディアでは主流だ。
 しかし、そんなに単純な問題だろうか。
 自治体として接種に使用していたワクチンが余り、それを職員に接種することにした。そして、希望をとって、希望者に接種することになったわけである。その接種した、しないは、プライバシーかという問題だ。プライバシーというのは、私生活に関することで、当人が秘匿したいことである。

 しかし、職場で、ワクチンを接種したか、しないかは、私生活の範疇だろうか。かなり疑問である。コロナは感染症であり、ワクチンは感染を防いだり、重症化を防ぐためのものだから、接種をしたひとにとっては、職場の同僚が接種したかどうかは、気になるとこではないだろうか。仕事内容にもよるが、かなり近接した位置で協働作業をするとしたら、接種した者は、まだ接種をしていないひとと一緒にやりたくないという気持ちは、起きたとしても、それが差別意識と断定はできない。少なくとも、接種していない人と一緒に仕事をすることになれば、より深く注意したいと考えるだろう。もちろん、いかなる人と仕事するにしても、最大限の注意をすべきである、それならば、相手が接種していても、いなくても同じだという理屈は成立するが、人間いつまでも、最大限の注意が可能とは思えない。
 スポーツのレスリングや柔道などでも、相手の接種については気になるのではないだろうか。もちろん、競技に参加するためには、ワクチン接種が義務であるとするかどうかは、また別の問題であるが、ワクチン接種しても感染するのだから、ワクチン接種していない相手から、感染させられたら、ワクチン接種した選手にとっては、相手を訴えたい気持ちになるかも知れない。
 これは、職場でも同様ではないかとも思うのである。
 もちろん、だから、全員義務とすべきであると、考えているわけではない。副作用を恐れる気持ちも、また十分に根拠があるのだから、強制はできないだろう。従って、ワクチンをしない権利と、自分が協働する相手がワクチン接種をしているかどうかを知る権利と、どちらも否定できないのではないか。ワクチンをしない権利を認めたら、当然、コロナ感染状況では、協働作業をするひとたちの間の感染防止を徹底する必要があり、防止のひとつとして、相手の接種状況を知ることもあるのではないかと思うのである。
 だから、単純に、今回の事例を、プライバシーの侵害という形で処理するのは、大いに疑問である。もちろん、それは職場における「状況を知る必要」という観点からいえることである。ただし、今回の大阪のように、勝手に接種希望と非希望の名簿を作成して、管理職に配布してしまうというやり方は、大いに問題があることは間違いない。もっと、職場における議論を通じて、どのように、接種情報を扱うかのコンセンサスを形成する必要があると思う。また、一般社会においては、あの人は接種したとか、していないとか、そういうことが公然に漏れてしまうことは、絶対に避けなければならない。それはプライバシーとして保護される必要がある。
 では、教育機関はどうなのだろうか。小学生は、現時点では接種の対象ではないの考慮の外だが、大学生となるとどうだろう。また、教職員はどうだろう。
 一般的に健康診断は、法的義務はないが、特定の職業については、健康診断が法的に義務付けられている。教員はそこに該当する。だから、私は健康診断は受けたくなかったし、大学で行っている診断は、いつも時間的にあわなかったので受けなかったのだが、仕方ないので、街の医院で受けていた。それは、多人数に教える以上、特に結核などの感染症に罹患していないことを証明する必要があるからだ。
 では、ワクチンはどうなのか。もちろん、健康診断は、そのことによる副作用などはありえないから、義務化することも可能だが、やはり、ワクチンを義務とすることはできないと思うし、またすべきでもない。しかし、接種状況は、学校という場のなかで、秘匿しなければならない個人情報なのだろうか。それとも、一緒に仕事をする以上、それは相互に知っておく必要があることなのだろうか。
 退職してしまった私には、考えることが難しくなっている。サークル内などでは、サークル員のなかで合意することはありうるだろうが、大教室での講義などでは、そういうコンセンサスをえることは無理である。そして、若い人ほど副作用が強いとされているから、大学生などは、接種しない人も多くなるのではないかとも思われる。
 この点については、私自身への宿題としたい。
 
 
 
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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