犯罪者名の報道、検索、忘れられる権利について

 成人年齢が変更になり、かつては少年だった年齢が成人になる。18歳と19歳は成人として扱われると、これまで犯罪の容疑者になっても、実名報道されなかったが、今後はされることになる。明確な基準は、まだ定まっていないようだが、今後具体的な事例で問題になっていくだろう。そして、それに関連して、過去の犯罪に関して報道された名前を消してほしいという要望が、話題になっているが、この点を少し考えてみたいと思う。
 この問題は、犯罪に関わって実名を報道・公表することと、それをあとになって活用すること、削除することという3つの別の問題に分けて考える必要がある。
 
 まず実名報道の問題については、私は、原則匿名にすべきであると考えている。それは少年だけではなく、成人に対しても同様である。そもそも実名報道することに、何か意味があるのだろうか。人は、「知る権利」「報道の自由」があるという。しかし、勘違いしてはならないことは、この場合「報道の自由」が検討されるべきであって、「知る権利」とは無関係だということだ。「報道がなされて知る」のであれば、それは知る権利とはいえない。もちろん、個人が、自分の足で調べて知る権利はある。そうした調べる自由はある。だが、本人が調べるのではなく、報道によって知るのであれば、そして、ほぼすべての事例にわたって、個人にとっては、報道によって知ることになると考えられる。もし、報道が、実名を報道すべきであるという理由として、「知る権利」をあげるならば、もう報道しなかったら、「知る権利を侵す」ことになり、報道の自由ではなく、報道の義務があることになってしまう。それはまったくおかしな論理なのだ。 

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ロシアが未成年を戦場に送るのか

 ウクライナ政府が、「ロシアの少年少女団体であるユナルミヤの17歳18歳の未成年を、戦争に動員する決定がされた」と公表した、という報道がなされている。
 ユナルミヤという組織は、初めて知ったが、2016年に設立された、ロシアの青少年に愛国心を育てるための組織であり、当初は数千名の参加者だったが、現在では80万ともいわれている。(急速に増えているためか、記事によって数字がかなり異なる。)軍事的な訓練も含まれる。
 西側では、ヒトラーユーゲントに近いと批判しているようだが、それに対してロシアは反発をしているそうだ。確かに、ヒトラーユーゲントと似ていると批判するのは、なんとなくわかるが、私がいくつかのサイトでみた限りでは、あまりヒトラーユーゲントには似ていない。ヒトラーユーゲントは、明らかに将来の親衛隊育成の基礎過程のような部分があったことと、基本的に全員参加であり、放課後の活動を大きく拘束していた。そして、援農などの奉仕活動と、スポーツを含む軍事訓練が中心的な活動であった。最初から戦時体制を前提にしたような組織だったのである。

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アゾフ大隊は玉砕の決意か

 マリウポリで最後まで抵抗を続けているウクライナ兵士に対して、ロシアが降伏を勧め、降伏すれば、生命は保障すると呼びかけているが、ウクライナ首相が、アメリカの報道のインタビューに対して、あくまでも闘う意志を表明したと伝えられている。先に降伏した部隊が、本当に降伏したのかどうかは定かでないが、現在残っている部隊が、降伏しないであろうことは、前から予想している。最後はどうなるかわからないが、いまのところ降伏の意志はないと思われる。理由は簡単だ。現在残されている部隊は、アゾフ大隊とされており、ロシアが、「ナチ」と呼んでいる中心的な部隊であり、ウクライナ側で最も強硬なひとたちであるとされている。しかも、正規軍ではなく、内務省管轄の国土防衛隊という、特殊部隊である。国際法的にも、捕虜として扱う義務がない考えられる。更に2014年以降続いているドンパス地方におけるロシア系住民とウクライナ人の対立、軍事衝突において、最も過激に闘ってきたのが、アゾフ大隊であり、住民に反人権的な行為もしてきたとされる。

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ドイツは批判されるべきなのか

 最近、ゼレンスキーは、支援を思うようにしてくれない国に対して、批判する姿勢を強めている。その最大のターゲットがドイツだ。私の目からみると、ドイツは、これまでの姿勢をかなり変えて、ロシアとの対決を厭わず、ウクライナを支援する姿勢を見せているように思われるが、ゼレンスキーには不十分に見えるのだろうか。
 しかし、これまでの流れを、少し前に遡って考えてみれば、現在の状況だけでドイツを批判することには、大きな疑問が残る。
 ドイツが批判されている背景には、ロシアとの経済的結びつきを強めていたことがある。ドイツはエネルギーの半分近くをロシアに依存する状態になっていたために、ロシアに対する経済制裁を、他国に比較すると不徹底になっている。更に、ウクライナのNATO加盟に反対したということも、もうひとつの大きな理由と言われている。このことによって、ドイツを批判するひとたちは、ネットでも散見される。なぜ、ロシアなどと友好的になったのか、というわけだ。確かに、現在のロシア、プーチンの所業をみれば、批判したくなる気持ちもわかるが、しかし、大局的にみれば、ドイツのとった政策を適切なものと評価することも可能である。ドイツを一方的に批判するのではなく、もう少し歴史をふり返っておくことも必要なのではないかと思う。

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小室圭氏が不合格、それよりも重大なことは

 ニューヨークで新婚生活を楽しんでいる小室圭氏が、2月に受験したニューヨーク州の司法試験に不合格になったことが、一斉にメディアによって報道された。宮内庁とニューヨーク領事館との協定なのか、圧力なのか、小室夫妻の私生活について報道しないことになっていたようだが、この試験結果だけは、例外なのだろうか。あるいは、だれでも確認できるウェブ上での発表なので、どうせネットのひとたちに知れ渡るからというので、報道したのか、むしろそこに興味をもったほどだ。というのは、ネット上では、2月の受験のこともかなり多くのyoutuberによって取り上げられていたが、大手メディアは一切報道していなかった。せいぜい憶測記事だけだったのだから、今回は、NHKまでニュースで取り上げたのは、不思議な現象だった。

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ウクライナ侵攻はなぜ起こったか トルストイ流に考える4 マクロンと旧東欧

マクロン
 フランスという国家が、私には、非常に遠い国になってしまった。フランスのニュースといえば、同時多発テロでの被害だったり、あるいはワクチン義務化をめぐる騒動だったり、とにかく、騒乱が主なニュースになってしまった感じが強い。日本との関連でいえば、日産におけるカルロス・ゴン騒動が、フランスのルノーと関わっているから、大きなニュースになったが、とにかく、いいニュースがあまり記憶にない。
 ロシアのウクライナ侵攻に関しては、マクロンがいち早くモスクワに飛び、プーチンと差しで談話をしたが、長いテーブルの端に座った対談で、とうてい何か有益な結果が残せる雰囲気ではなかった。マクロンとプーチンの「遠い距離」が目立った会談となり、その後も、何度か電話会談をしたが、成果があがったという話は聞かない。当初は、プーチンに話をつけられる大統領ということで、支持率があがったそうだが、今では前に戻ったとされる。そして、フランスでも、間もなく大統領選挙があり、国民連合のル・ペンに追い上げられており、最新の調査によれば、決戦投票になった場合の予想投票率は、誤差の範囲だという。つまり、ル・ペン当選の可能性も出てきたのだ。

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ウクライナ侵攻はなぜ起こったか トルストイ流に考える3 中東産油国とドイツ

中東産油国
 日本人からみると、あれだけ不当なロシアのウクライナ侵略は、北朝鮮や中国、そしてシリアのような超独裁国家、しかも、かなり非人道的な独裁国家しか支持していないのは当然として、他の国はロシアとの交流など断って、制裁を加える側にたつと思われるが、実際には、非難決議には賛成しても、実際に経済制裁をせず、あるいはウクライナに、様々な援助をすることを拒む国家も少なくないことは、不思議な感じがする。しかし、国際的にみれば、民主主義国家よりは、独裁的な国家のほうが多いことは、忘れるべきではないし、中国やロシアの経済的影響を受けている国は多いのである。
 だから、中東産油国が、反ロシアの実際行動をとっていないことは、意外ではないのかも知れない。しかし、私が認識していた以上に、中東産油国のアメリカ離れは進んでいた。

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ウクライナ侵攻はなぜ起こったか トルストイ流に考える2

ゼレンスキー
 ゼレンスキーにとっての、ロシアによるウクライナ侵攻を考察するのは、非常に難しい。誤算はプーチンにだけではなく、ゼレンスキーにもあったと考えられるし、また、大統領になってから、かなりスタンスが変化したことも考えなければならない。
 ゼレンスキーは、周知のように、喜劇役者だったが、国立大学で法学の学位をとっている。だから、日本のような,あまり学校にもいかず、芸能界で生きてきたタレントとは異なる。大学卒業時に、喜劇役者として生きていくか、あるいは大卒のひとが一般的に歩む道に進むか、迷った末の選択だった。しかも、単なる役者ではなく、自らドラマを作成するクリエーターでもあり、かつ、ITを駆使することもできた。
 そうして、有名になった大統領役をしたドラマも、自ら制作したものであり、たまたま、そうした企画で採用された一俳優ではなかった。だから、政治経験がなかったとしても、そうしたドラマ制作を通じて、政治や行政、そして社会全般の問題について、相当勉強し、考えたに違いない。
 ゼレンスキーの経歴を見ると、ロシア語の環境で育っており、東部出身だから、ロシア人との交流もあり、ロシアで仕事をしたこともあるようだ。だから、ロシアとは、元来敵対的ではなく、ドネツク、ルガンスクの「自治共和国」についても、強権的な対応を当初からとっていたわけでもなかった。

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ウクライナ侵攻はなぜ起こったか トルストイ流に考える1

 トルストイは、『戦争と平和』のなかで、何度も、戦争はなぜ起きるのかを考察している。小説であるのに、その部分は論文調なので、退屈に思うひとも多いのだが、私はなかなか面白いと思って読んでいる。しかし、結局は、トルストイにとっても、その答は明確ではないようだ。巷間言われている説、ナポレオンの征服欲が原因だ、とか、ロシア皇帝がナポレオンの要求を受け入れなかったからだ、とか、あるいはより地位の低いひとたちの意志などを、様々にあげながら、しかし、それらのひとつが原因なのではなく、全体の複合によって、必然的に戦争へと人々は導かれていった、というような考えなのだろう。しかし、それでも、100万人を越えるような人々の殺し合いを引き起こした要因は、確かにひとつではなにせよ、いくつかの主要なものは想定できるのではないだろうか。そして、確かに、ある時点で、誰かが別の行動をとったら、ナポレオンはロシアに侵入しなかったというようなことは、確かにあるのかも知れない。また、ナポレオンの侵入後にしても、ロシア軍がボロジノでも闘わず、退却していたらとか、ナポレオンがモスクワにとどまることなく、皇帝のいるペテルブルグに進軍していたら、など、ひとが決断できる行動だから、別の決断にすることは不可能だったわけではないはずだ。だから、違う結果が起きた可能性を否定することはできない。結局、明確な、万人が納得できる理由を提示することは、不可能かも知れないが、様々な立場から考察してみることは、理解を深めることになるに違いない。

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ネトレプコがウクライナ侵攻に反対 ゲルギエフは?

 世界でトップクラスのソプラノ歌手アンナ・ネトレプコが、ロシアのウクライナ侵攻を非難する声明を出した。ロシア出身で、プーチンと親しいとされていた彼女は、ウクライナ侵攻が始まったとき、反対するように求められながら、「平和を望んでいる」と述べつつも、ウクライナ侵攻そのものには反対意見を述べず、芸術家に政治的発言を強要するのは間違っていると主張。欧米での重要な出演をキャンセルされていた。しかし、態度を変えたようだ。「ネトレプコがロシアのウクライナ侵略に反対、プーチン大統領との関係を否定する声明」という記事がそれを紹介している。
・ウクライナの戦争を明確に非難し、犠牲者と家族に思いを馳せる。
・いかなる政党のメンバーでもなく、ロシアの指導者と手を結んでいない。
・過去の言動に後妻される可能性があったことを認め、反省している。
・プーチンとは授賞式などで会ったことがあるだけで、ロシア政府から金銭的支援を受けていない。
・オーストリアに居住し、納税者でもある。
 以上のような内容の記事である。

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