読書ノート『ある小学校長の回想』金沢嘉市2

 金沢氏が、教育の世界で有名になったのは、校長としての活動によることが、続く部分で理解できる。
 最初の祖師谷小学校での実践で目立つのは、中学受験のための補習が行われていることを知って、それをやめるように指導したことだ。本書の記述では、校長としての権限行使として、かなり強権的に行われた印象を受ける。職員会議では、廃止すると宣言し、父母会を開催して説明する。もちろん、不満な親もいるわけだが、それについては、戦前の経験を話して、納得させる。すると、補習を望む親から、間接的に要望書が提出される事態になるが、頑として許さない。
 戦前の経験では、補習をした場合としなかった場合とで、合格率にほとんど差がなかったというが、今回の場合には、その実績は書かれていない。おそらく低下したのではないだろうか。差がなければ書くはずである。あるいは、そうした子どもたちは、一斉に塾に通いだしたのかも知れない。

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東京福祉大学の総長人事

 東京福祉大学の総長人事が話題になっている。10年前に、猥褻罪で有罪になった人物が、実刑を受け、10年経過したので、法的に復職可能ということで、総長に復帰したという人事だ。単なる猥褻罪ではなく、総長としての地位を利用している点が、更に問題となる。調べれば調べるほど、問題の大きな大学だ。
 この話題の人物、中島恒雄という人は、江戸時代の商人として有名な茶屋家の子孫で、いろいろな学園を創設し、東京福祉大学の創設者でもある。学習院大学を卒業し、小室圭で日本でも話題となっているフォーダム大学の大学院で教育学博士を取得したとウィキペディアに書かれている。この経歴をみると、今回の復職の理由がなんとなく感じられる。つまり、東京福祉大学は、この中島氏が創った大学であり、そういう意味で絶大な権力をもっているということだろう。人物識見が優れていて、他に代わる者がいない、などという説明がなされているようだが、創立者であること以外の理由は、眉唾だといえるだろう。
 総長の地位を利用して猥褻をする人間のどこが、人物識見が優れているといえるのか。
 この大学の問題は多岐にわたる。

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youtubeと表現の自由

 最近youtubeを見ていくと、閉鎖されたと述べているのが多い。閉鎖されたというのに、何故見られるのかがよく分からないのだが、武田邦彦氏もさかんに閉鎖されたと語っている。確かに最近の武田氏のyoutubeは、顔が写っていない。しかし、声は明らかに武田氏のものだから、違うアカウントをとったということなのか。あるいは過去のものが消されたということなのか。私はyoutubeを自分ではやっていないので、詳細はわからないのだが、武田氏がさかんに表現の自由の問題として取り上げているので、疑問を呈しておきたい。
 武田氏の攻撃はふたつの対象があり、ひとつは、閉鎖したということに対して、そして、それに抗議をしていないというリベラルに対してである。私が見たときの武田氏のyoutubeは、ほとんどがリベラルに対して向けられていた。つまり、普段表現の自由を主張しているくせに、こうしたyoutubeへの弾圧に対して何も言わないのか、おかしいではないかということだ。何故、そうした批判がリベラルに対してだけ向けられ、保守派やネトウヨたちには向けられないのか、理解に苦しむところだが、それはここでは論じる対象にはしない。
 憲法で規定されている表現の自由とは何か。youtubeでの表現は、憲法の表現の自由と同じなのか、そして、武田氏の主張は妥当かを検討する。
 憲法上の表現の自由とは、当たり前のことだが、第一義的には、私人が表現することについて、国家が干渉しないということだ。干渉しないといっても、他人の権利を侵害する不法行為にあたる表現については、被害者からの訴えがあれば、裁判所が干渉することになる。

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いまだにトランプの勝利を叫ぶ人がいる

12月14日は、アメリカ大統領選挙で選出された選挙人が投票する日である。これにどれだけの意味があるのか、極めて疑問だが、既に選挙管理当局による正式発表がなされているから、公式にバイデンの当選が確定しているといえるのだが、自分が任命した判事が複数いる連邦最高裁が、トランプの訴えを退けているにもかかわらず、いまだにトランプは自分が勝ったと主張しており、また、逆転がおきるといっている人もいる。しかも、日本人のなかにもいるのが驚きだ。youtubeをみていると、そのうちに票が計算されなおされるか、バイデンの不正が暴かれて、トランプが逆転勝利すると声高に主張しているのが、多数ある。トランプが起こした訴訟では、いずれも証拠がないといって却下されているにもかかわらず、トランプは、証拠を裁判所か認定しないと怒っている。提出していないから「ない」と判断していると考えるのが、常識であり、ないものの認定ができるわけがない。もし、不当に裁判所が提出した証拠を「ない」といっているのならば、その証拠を国民の前にさらけ出せばいいだけのことだ。しかし、国民の前に出せというと、訴訟だから出せないというのでは、なにをかいわんやだ。 

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世界一豪華な刑務所 ハルデン刑務所

 イギリスのドキュメントで「世界一豪華な刑務所」というのを見た。非常に面白かった。国内の刑務所を100カ所以上見たという、イギリス人のジャーリストが、ノルウェーにあるハルデン刑務所を取材に訪れ、3日間丁寧な取材をするというものだ。当初は、刑務所とは犯罪者を罰して、懲らしめるための場なので、厳重に管理し、自由を剥奪して、二度と犯罪をしないという決意を固めさせるようなものでなければならない、という信念をもっていた。そして、ハルデン刑務所を見学し、説明を受け、かつ囚人たちと話し合うなかで、信念を捨てたわけではないようだが、考えなおす必要を感じている。私自身、刑務所を実際に見たことはないのだが、矯正機関であるから、興味をもって調べてはいる。オランダに滞在したときに、シリーズの刑務所ドキュメントがあったので、録画してきたし、また、デンマークにいったときには、刑務所に関する質問を市民にしてみた。スウェーデンの刑務所に関しては、大宅映子氏によるドキュメントがあった。
 まずは、この映像で、彼女が驚いたことを列挙しておこう。
・刑務所につきものといえる鉄格子がほとんどない。囚人のいる場は、もちろん厳重に管理されているが、行動はかなり自由である。
・囚人の住む部屋は、普通のアパートのようで、バスルームやテレビがある。

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高齢者への詐欺メールが増えているそうだ

 「NEWSポストセブン」というサイトに「シニアのネットトラブル増 コロナ禍で悪質通販の被害拡大も」という記事が出ている。高齢者である私にも、詐欺メールは頻繁に来る。正確にいうと、来ていると思われる。というのは、私は、メールを直接パソコンに読み込んでから読む、というスタイルをとっておらず、メールサーバーで題名と送信者だけをみて、明らかに必要なメール以外はすべてその場で削除していまう。だから、別に詐欺メールでない宣伝メールなども、ほとんど受信しないまま捨ててしまう。そして、そのなかには、あきらかにスパムメールや詐欺メールだと思われるものも少なくない。特に最近増えている気がする。
 この記事に紹介されている事例は、
1 コロナ禍で外出が少なくなったので、ネット通販を利用することが多くなり、かなりの量を買い込んでしまう。
2 アダルト系・出会い系で騙されて、お金を払ってしまうが、恥ずかしいので相談できない。
3 健康食品などで、一回きりのつもりが、定期購入になっていて、どうキャンセルしたらいいのかわからずに買い続けてしまう。
 このような事例で、シニア層は、パソコンの使い方は慣れている人が多いが、スマホはあまり慣れておらず、こうした間違いをすることが多いと書かれている。

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国が信頼されるということ コロナ克服に必要なこと

 
 
 フィンランドでは、強力な自粛政策が取られていない。そして、経済活動や学校なども平常通りに行われているというニュースが流れていた。マスクなどもあまりしていない。何故か。
 その最大の秘訣は、ソーシャル・ディスタンスをとっていることと、アプリをほとんどの人がいれていて、距離をとっている。アプリとは、日本でいう「接触確認アプリ」だ。接触確認アプリにもいろいろあるので、機能の詳細はわからないが、国民のほとんどの人がこのアプリをいれていて、感染者が近くにいると、それが感知され、距離をとることで、感染を防いでいると、そのニュースでは言っていた。
 では、日本ではどうなっているのか。日本では、厚労省が開発したアプリ(COCOA)があり、厚労省のホームページによると、11月20日現在で、2024万人が登録しているそうだ。公表当初の登録数は、極めて少なかったので、ほとんど有効性がないと言われていたが、数の上では、多少は延びていたというところだろう。しかし、20日現在、登録されている陽性者は2777人というから、陽性者のごく一部しか登録されていないことになる。これでは、実際に登録されていない陽性者が、近くにいても、まったく警告がならないことになる。

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トランプはアメリカ・ファーストではない トランプ・ファーストだ

 トランプの悪あがきがまだ続いている。盛んに不正が行われたという発信を続いているようだが、そのほとんどが根拠が全くないと言われている。ところが、日本でも、ヤフコメなどをみると、トランプ陣営が流すデマを信じきったような書き込みがたくさんみられる。フジテレビの「上席」解説委員である平井文夫氏などすら、意図的としかいいようがないジュリアーニ元ニューヨーク市長のデマをそのまま流したらしい。(朝日新聞2020.11.12)少し考えれば、まるでおかしなデマが多数みられる。
 例えば、ある州では、有権者登録が住民総数よりもずっと多く、しかも、そのなかには死亡者が多数含まれていた。だから、民主党が不正投票をした、というのがある。有権者登録名簿や住民総数をきちんと把握しての発信とは、到底思えないということはさておき、有権者登録のなかに死亡者がいることは、ありうるだろう。州によって違うようだが、有権者登録は多くが一端すれば、そのまま有効なのだそうだ。引っ越しや死亡で、抹消する手続をする必要があるだろうが、それをしないまま放置されることもあるだろう。孤独死すれば、だれも抹消手続をしないかも知れない。しかし、死亡者が名簿にあるからといって、死者が選挙にいくわけではない。死者が名簿にあることを知り、その死者を装って投票するには、当然本人確認をパスしなければならない。かなり困難なはずである。そして、それが稀に可能であったとしても、民主党支持者だけがやるとも思えない。常識的に考えれば、世論調査で常に不利であったトランプ陣営のほうが、あせりがあるはずである。もちろん、共和党支持者が不正をしたなどというつもりはないが、不正があったとしても、それは双方にありうるのであって、ただちに民主党の票が不正だなどということにはならないのである。更に、アメリカには、住民登録制度が存在しないのだから、「住民数」と比較してなどということ自体が成立しないはずである。

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『教育』2020.12号を読む 佐藤広美「優生思想をこえる教育思想」

 『教育』という教育科学研究会の機関誌の巻頭論文が担う役割とは何だろうか。私は、『教育』の読者としては永いが、教科研に入会したばかりであり、そのようなことを述べるのは僣越かも知れない。しかし、ここ数年の『教育』を読み続けているが、どうしても、不満が残るのである。今月号の特集1は、やまゆり園事件の判決が出たことをきっかけにして、「優生思想」を克服することを目的としている。優生思想を論じるのではなく、克服するのだから、優生思想をもっている人たちに、優生思想の間違いを自覚させ、正しい思想的在り方を提示することが目的となるはずである。『教育』を熱心に読んでいる人のなかで、優生思想を信望している人がいるとは思えない。だから、優生思想は間違っている、事件を起こした植松の考えはおかしいと、繰り返し述べる必要はない。もちろん、確認のため必要だろうが、『教育』の読者が、優生思想の人たちと議論をして、間違いに気づいてもらうための「理論」を提示することがなければ、結局、同じ価値観をもつ人たちの「相槌」に留まるのではないか。それでは、「克服」することにならない。『教育』の読者で、植松に共感している人は、おそらくほぼ皆無だろうが、世の中には共感する人は少なくない。SNSには、植松の考えがわかるという表明が多数あるようだ。植松はトランプを信奉していたようだが、トランプの支持者はアメリカの半数近く存在するのだ。植松は何故、あのような考えをもつに至ったのか、そして、考えをもったことから実行に至る過程で何があったのか、植松に共感する人は、何故なのか、そして、彼等を変えるためには、どんな論理が有効なのか。それを提示することが、特集全体の課題でなければならないはずである。そして、巻頭論文は、そのための理論的課題の整理が必要だろう。それはなされているだろうか。

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杉田水脈氏は「発言」を認めたが

 自民党のお騒がせ議員である杉田水脈氏が、また物議を醸した。性的被害者の相談窓口を設けるための施策を議論する場所で、「女は平気で嘘をつく」と発言したということが、漏れてきて、非難轟々となったわけだ。これまでの話題に欠かない人だから驚きはしないが、その後の対応も相変わらずというところだろう。
 一応非公開の会合ということなので、詳細はわからないが、相談窓口に民間の施設をあてるということだったことに対して、民間でやっているだけでは、「女は平気で嘘をつく」から、もっと厳格に取り調べをする警察がやるべきだというのが、彼女のいいたいことだったようだ。また、これには、全く別の推測をする人もいて、それによると、民間の施設であれば、当然それを後押しする議員がいるわけで、一種の利権が絡んでいる。だから、利権派が、民間施設という利権を守るために、杉田氏の発言をリークしたというのである。真相はわからないが、いずれにせよ、そこに、一部の真相があるとしても、発言そのものの不当性は変わらない。

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