最近youtubeを見ていくと、閉鎖されたと述べているのが多い。閉鎖されたというのに、何故見られるのかがよく分からないのだが、武田邦彦氏もさかんに閉鎖されたと語っている。確かに最近の武田氏のyoutubeは、顔が写っていない。しかし、声は明らかに武田氏のものだから、違うアカウントをとったということなのか。あるいは過去のものが消されたということなのか。私はyoutubeを自分ではやっていないので、詳細はわからないのだが、武田氏がさかんに表現の自由の問題として取り上げているので、疑問を呈しておきたい。
武田氏の攻撃はふたつの対象があり、ひとつは、閉鎖したということに対して、そして、それに抗議をしていないというリベラルに対してである。私が見たときの武田氏のyoutubeは、ほとんどがリベラルに対して向けられていた。つまり、普段表現の自由を主張しているくせに、こうしたyoutubeへの弾圧に対して何も言わないのか、おかしいではないかということだ。何故、そうした批判がリベラルに対してだけ向けられ、保守派やネトウヨたちには向けられないのか、理解に苦しむところだが、それはここでは論じる対象にはしない。
憲法で規定されている表現の自由とは何か。youtubeでの表現は、憲法の表現の自由と同じなのか、そして、武田氏の主張は妥当かを検討する。
憲法上の表現の自由とは、当たり前のことだが、第一義的には、私人が表現することについて、国家が干渉しないということだ。干渉しないといっても、他人の権利を侵害する不法行為にあたる表現については、被害者からの訴えがあれば、裁判所が干渉することになる。
新聞とか雑誌などの、出版物では、編集者が書かれたものについて訂正などをすることは、普通に行われている。もちろん、筆者との了解によってなされるものだろうが、とにかく、筆者の表現の自由が、完全に通用するわけではない。そして、その訂正するというシステム自体について、執筆者が異議を唱えてもしかたない。表現による人権侵害に関しては、執筆者だけではなく、出版社や編集者も、責任を負うのだから、執筆者の意志に反する訂正がなされることはありうる。
逆に、読者側が、出版社や執筆者に対して、正当な批判を逸脱して、不当な圧力をかけることは、当然許されない。脅迫状を郵送することなどである。
では、youtubeで映像をアップして公開することは、どうなのだろうか。もちろん、出版社や放送局が著作物を扱うように、youtube側が内容に関して、詳細に関与することはないとされている。しかし、youtubeには、コミュニティガイドラインがあり、コンテンツに対して許されないことが書かれていて、それに同意した上で、映像をアップするわけである。やはり、様々な抗議がyoutube管理者に対して寄せられる可能性があるからだ。したがって、明らかにガイドラインに反する内容であれば、youtube側が削除しても構わないことになる。もちろん、その場合でも、ガイドラインの内容がそもそも禁止されるようなことでない場合には、訴訟で争うことはできるだろう。しかし、ガイドラインが不当な内容でない限りは、手続きを踏んだ上で削除したとしても、表現の自由を侵害したことにはならない。
武田氏のyoutubeが閉鎖されたのが、どのような理由かは分からないが、視聴者として想像するのは、新型コロナウィルスに関するガイドラインに抵触したのではないかという点だ。カイドラインには、WHOや各国保健機関の示していることに、著しく反するもの、治療や診断に悪影響を与えるようなコンテンツは、認めない方針が示されている。武田氏は、新型コロナの流行初期から、一貫して、単なる風邪でたいしたことないとyoutubeで主張してきた。もちろん、トランプのように、マスクもいらない、3密問題ない、などという酷いことをいっていたわけではないが、とにかく、武漢風邪だとずっといっていた。しかし、アメリカでは、まだ流行が始まってから1年も経過していないのに、太平洋戦争での死者数を上回った死者をだしているのである。これがたいしたことない風邪というには、あまりに被害が大きい病気だ。完全に、武田氏のいっていることは間違っていると思うし、また、人々の行動に対して悪影響があるといえる。したがって、この点で武田氏のyoutubeをとめたとしたら、それほど不当な圧力とはいえないだろう。少なくとも、youtubeに映像を公開する上で、ガイドラインを守ることを同意してアップするのだから、違反だと認定されたら、覆すには、提訴するしかない。youtubeは国家権力ではないし、公的な機関でもない。表現の場を無償で提供しているのであって、そこで、不当な権利侵害が行われれば、youtubeも責任を問われる可能性がある。そうした危険を予め排除することは、運営者としてなすべきことでもある。
もし、無料で使える表現の場で、どんな表現でも許されるべきだ、と主張しているのなら、それは我が儘という他ないだろう。
では、武田氏は、新型コロナは単なる風邪だ、という主張が、絶対に正しいと確信しているとき、表現手段はないのか。それは自分でサーバーを開設するか、レンタルサーバーを使えば簡単にできることだ。レンタルサーバーでも、もちろん、他人の権利を侵害するようなコンテンツが許されるわけではないが、規制ははるかに緩いし、ほとんどの場合、被害者からの訴訟が提起されない限り、削除が現実化することはない。つまり、レンタルサーバーであれば、最も確実な「表現の自由」がえられるのである。しかも、今ではレンタルサーバーはそれほど費用もかからない。
結論をいえば、少なくとも武田氏のyoutube閉鎖が、日本国憲法の表現の自由の侵害だとは思わない。むしろ、これだけ世界的な被害を生んでいる新型コロナに対して、単なる風邪だと主張して、人々に誤った観念を広めたことを大いに反省すべきではないか。
自由には、責任があるというが、youtubeを活発に活用している人は、経済的利益を求めているはずである。武田氏がそうかどうかはわからないが、無料の場を活用して、金儲けをしようと利用している人が、何もいおうと自由で、閉鎖などけしからん、と主張することこそ、甘えであるように、私には感じられる。本当に、制限のない自由な表現をしたいなら、自分で責任をもてるサーバーを使うべきである。
ただし、ガイドラインには書かれていないにもかかわらず、皇室批判のyoutubeが削除されることが比較的多いらしいことには、疑問を感じる。天皇は国民の総意に基づくという憲法の規定からすれば、皇室への批判は、「総意」を測る意味でも重要である。