東京福祉大学の総長人事

 東京福祉大学の総長人事が話題になっている。10年前に、猥褻罪で有罪になった人物が、実刑を受け、10年経過したので、法的に復職可能ということで、総長に復帰したという人事だ。単なる猥褻罪ではなく、総長としての地位を利用している点が、更に問題となる。調べれば調べるほど、問題の大きな大学だ。
 この話題の人物、中島恒雄という人は、江戸時代の商人として有名な茶屋家の子孫で、いろいろな学園を創設し、東京福祉大学の創設者でもある。学習院大学を卒業し、小室圭で日本でも話題となっているフォーダム大学の大学院で教育学博士を取得したとウィキペディアに書かれている。この経歴をみると、今回の復職の理由がなんとなく感じられる。つまり、東京福祉大学は、この中島氏が創った大学であり、そういう意味で絶大な権力をもっているということだろう。人物識見が優れていて、他に代わる者がいない、などという説明がなされているようだが、創立者であること以外の理由は、眉唾だといえるだろう。
 総長の地位を利用して猥褻をする人間のどこが、人物識見が優れているといえるのか。
 この大学の問題は多岐にわたる。

 まず総長の猥褻問題だが、刑期を終えても大学としては雇用しないと表明していたのに、実際には、事務局のトップの地位についていたようだ。そして、10年経てば、通常に復帰できるという法的規定があるが、総長にはしないという計画書を文科省に提出していたとされる。その約束を破ったわけだ。
 留学生の蒸発事件は、記憶に新しい。学園として絶対にやってはならない、定員の膨大な水増しが発端であり、そのためにまともな教育ができず、留学生たちが他にいってしまったということだろう。他の教育機関に落ち着いたのならば、問題は少ないが、悲惨な境遇に陥ったり、あるいは犯罪すれすれの行為をしている可能性もある。とするならば、この学園のおこなった行為は、本当に許せないものであり、しかも、そういう基盤を形成したのが、中島総長であったわけだ。問題が発覚した時点では、役職についていなかったとしても、そういう経営方針をとったのは、中島氏であるはずだからだ。したがって、経営者としての資質にも大きな問題があるということだ。
 大学は7年ごとに、認定評価を受けなければならないが、一度保留になったことがあるそうだ。認定評価は、単純な評価ではなく、けっこう長い期間をとって、大学と評価機関がやりとりをしながら進むので、改善点があれば、結論の出るまえに改善することも可能だから、保留というのは滅多にない。それに加えて、経済学部などの学部新設が認められなかったこともあったとされる。これも非常に例が少ない。
 つまり、東京福祉大学というのは、問題が山積しているのである。
 大学というのは、最終的には、「評判」が最も大事な安定要因である。評判の中身は、就職率、学生の満足度、教員の質など、いろいろあるとしても、悪い評判がたったら、学生応募は確実に減少する。とりわけ近年は、教職員のわいせつ行為には、世間の目が厳しい。しかも、猥褻罪で実刑まで受けた人物が、総長をしている大学の評判が高くなるはずがない。もともと評判が悪いから、評判など耳に入らない外国人留学生の安易な募集拡大に走ったのだろう。外国人留学生の入学に、当然規制がかかるだろうから、中島氏が陣頭指揮をとっている限り、大学の評判がますます悪くなることは避けられないはずだ。
 率直な疑問だが、東京福祉大学は、そんなに人材がいないのだろうか。
 では、文科省が、この人事を潰すのが妥当なのか。
 原則的に、文科省に、私立大学の学長や理事長の任命権はないのだから、通常であれば、この人事を許可しないということはできないはずである。ただし、再び中島氏を総長にはしないという約束を文科省にしたことで、その約束を理由に総長人事の撤回を求めることは可能だろう。
 身近に東京福祉大学の関係者がいないので、リアルにはわからないが、ホームページで見る限り、これが大学だろうかという疑問か沸くことは否定できない。学力入試は定員の4分の1程度で、4分の3は学力試験を含まない入試だ。しかも、2科目受験と1科目受験ばかりで、3科目受験のコースはない。3科目受験で済む私立大学の方式も問題あるが、2科目受験で、「教育学部」つまり、教師を養成していることになる。3科目受験にしたら、受験生が集まらないということなのだろう。しかし、2科目や1科目の試験しかないのであれば、逆の意味で意欲のある学生は集まりにくいだろう。だから、経営のために、留学生の卵をしっかりした教育体制がないにもかかわらず、たくさん入学させていたに違いない。
 私自身は、厳しい見方になるが、率直にいって、こういう大学が生き延びていく価値があるとは思えない。違反事項もあるわけだから、東京福祉大学への補助を巣へきではない。それには、これまでの経緯からみて、十分な理由がある。その結果、大学を閉鎖することになったとしても、それは仕方ないのではないか。もちろん、在校生は卒業まで責任をもって教育をして送り出す必要があるが。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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