コロナ対策に罰則導入?

 新型インフルエンザ対策特別措置法(以下特措法)の改正として、罰則の導入と施設制限に伴う補償規定の導入が検討されている。実際の具体的規定については、議論が進行中で、変化しつつあるようだが、これら導入を前提として議論かなされている。
 できるだけ多くの人が声をあげることが必要だと思うので、意見を書いておきたい。
 まず、前提的認識に疑問がある。
 例えば、検査を拒否した場合とか、あるいは入院指定があったのに拒否した場合、罰するというのである。大きな罰則としては懲役一年という案もあるそうだ。それが実際に決まることはないだろうが、刑事罰を科すという案が検討されていることは間違いない。刑事罰の場合には、法律で規定する必要があり、政令とか省令ではだめだから、かなり綿密な検討が必要であるが、どうも拙速の印象がある。まったく新しい刑事罰を創設するのだから、かなり慎重な議論が必要だ。最大の問題は、PCR検査を拒否するといっても、そもそもこの一年間、PCR検査を拡大せよという要求がかなりあったにもかかわらず、それを実現してこなかった政治がある。安倍首相が拡大を約束したにもかかわらず、実現していない。多少は増えてきたが、現実には、かなり症状が出ているにもかかわらず、PCR検査を受けさせてもらえないひとたちが、かなり多数いることが報道されている。しかも、そういう状況下で死亡する例もでているのである。

 PCR検査については、否定的な議論もあるが、それは、この一年間の状況をみれば、誤っていることは明らかである。何故、首相が拡大を国会で約束しているのに、拡大しないことについては、原因について諸説あった。PCR検査をして養成が増えたら、全員入院という法令上の規定から、病院がパンクする、すべて公費扱いだから、財政的に無理だ、PCR検査は精度が悪い、等々。しかし、全員入院という規定は、自宅隔離や施設での隔離などの運用の変更がされている。PCR検査が不十分であるとしても、しないことによって、感染者が放置されることに比較すれば、その弊害は小さいものであるし、医療に携わっている医師たちの見解としては、かなり高い精度であるという説明もある。費用の点にかかわるが、かなり早い時期に、全自動で一挙に多数の検査ができる機械を、日本の企業が発明し、外国では使用が始まっていると報道された。しかし、日本では、その導入は遅々として進まないとも。最近はその機械を導入するところも、少しずつ出てきているが、この機械の導入には、PCR検査技師の猛反対があったのだという。結局、政治がそうした反対を押し切ることができず、当然行うべき機械の導入を怠ったということだろう。広範囲な検査をせず、クラスター追跡に絞って対応していたつけは、現在、保健所が仕事を十分に行えないほどに、感染が拡大し、かつ、病院での医療崩壊が現実化しているという結果となっているのである。
 そうした事態を招いているにもかかわらず、PCR検査を拒否してものを罰するというのが、私にはどうしても理解できない。
 また入院拒否にしても、現実に進行している事態は、入院拒否の深刻さよりは、入院する必要があるのに、病床がなくて入院できない人が多数いること、そして、新型コロナウィルス対策に資源をとられて、一般病棟や一般の救急診療、手術等に支障が生じていることだろう。こうしたことの対策のほうが緊急性がある。
 補助金の問題も同様である。何故自粛要請に応えないのか。それは、経営上苦境に陥ることが目に見えているからだろう。もし、罰則を導入するならば、経営上苦境に陥ることがない額を、早急にだすことが必要であり、それが実現していれば、だれだって自粛に応じるに違いない。
 補償を不十分にして、罰則を導入するのは、政治のつけを個々の経営体に転化しているだけだ。
 政府が何かやろうとすると、私権の制限などといいだす輩がいる、と非難するひとたちもいるが、まずは、政府がやるべきことをやることのほうが重要ではないだろうか。私権の制限をしなくても、感染を抑えることができた、と安倍首相は自慢したのではなかったのか。
 現在の感染の拡大は、私権の制限をともなう強行措置がとれないからではなく、感染の拡大を後押しするような無謀な政策( GOTO)を強行し、感染の再度の拡大が確実視されていたにもかかわらず、その有効な対応をさぼっていたからに他ならない。もちろん、十分な対策をとっていたとしても、気候の関係である程度の感染拡大は生じただろう。しかし、医療崩壊に困難早期に陥ることはなかったに違いない。私権制限、罰則導入をするにせよ、政治が行うべきことを、きちんとやってからの話ではないか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です