国が信頼されるということ コロナ克服に必要なこと

 
 
 フィンランドでは、強力な自粛政策が取られていない。そして、経済活動や学校なども平常通りに行われているというニュースが流れていた。マスクなどもあまりしていない。何故か。
 その最大の秘訣は、ソーシャル・ディスタンスをとっていることと、アプリをほとんどの人がいれていて、距離をとっている。アプリとは、日本でいう「接触確認アプリ」だ。接触確認アプリにもいろいろあるので、機能の詳細はわからないが、国民のほとんどの人がこのアプリをいれていて、感染者が近くにいると、それが感知され、距離をとることで、感染を防いでいると、そのニュースでは言っていた。
 では、日本ではどうなっているのか。日本では、厚労省が開発したアプリ(COCOA)があり、厚労省のホームページによると、11月20日現在で、2024万人が登録しているそうだ。公表当初の登録数は、極めて少なかったので、ほとんど有効性がないと言われていたが、数の上では、多少は延びていたというところだろう。しかし、20日現在、登録されている陽性者は2777人というから、陽性者のごく一部しか登録されていないことになる。これでは、実際に登録されていない陽性者が、近くにいても、まったく警告がならないことになる。

 それよりも、この接触確認アプリが、国民の支持をなかなかえられないのは、登録者に、接触確認の知らせが来たので、保健所にPCR検査を依頼したら、断られたという事例が多数発生したことによると思われる。日経(2020.8.22)によると、8割の人が検査を受けられなかったというのだ。何のためのアプリなのだろう。これは決して、縦割り行政の弊害ではない。アプリ作成も保健所の管轄も、そして、コロナ対策の省庁も厚労省なのだから、所轄の連絡不備という理由は成り立たない。要するに、機能したらかなりの効力を発揮するはずのシステムが、そもそも重要な部分で機能しなかったら、システムそのものを受け入れる意味がなくなってしまうし、その結果、目標が達成されることが困難になる。そんなものは、いれても仕方ないということになる。つまり、本気でどのようにしたら有効で、何が実効性をもたせるために必要で、何をしてはならないか、ということが、システム全体として考慮されていないということだろう。政府のコロナ対策チームをみていると、そういう統括主体が存在しないのかも知れない。
 接触確認アプリといっても、国によってその方式が異なる。もっとも大きな相違は、GPSを使用して、陽性者の位置確認ができるようにする、つまり、追跡ができるようにするかどうかである。追跡システムは、ロックダウンをして、確実に実行させるためには必要になるだろうし、中国や韓国のように、厳格に外出禁止を実行させるためにも有効になる。韓国は、入国外国人には、強制的にインストールをさせていたらしい。中国の場合には、接触だけではなく、健康状況も入力させることで、発症状況の把握を集中管理する手段ともなっていたとされている。
 ヨーロッパの場合には、さすがにフライバシーへの配慮を求める国民なので、中国や韓国のような徹底管理のために活用できるシステムを採用しているところは少なく、ドイツでは、当初中央のサーバにデータを集中させる方式から、分離型にすることで落ち着いたという。国民的議論にかけたようで、そのためか、公開初日に600万人がインストールしたという。https://japan.cnet.com/article/35155527/
 
 要するに、こうしたシステムが普及し、実効性をもつかどうかは、やはり国民の政府に対する信頼によるのだといえる。もちろん、中国や韓国で、国民が政府を信頼しているのかどうかは、確信をもってはいえないが、少なくとも、こうしたアプリが新型コロナウィルスとの闘いに必要であり、政府がそのために活用しようとしているのだということを、消極的にせよ疑ってはいないとまではいえるだろう。事実、中国と韓国は、当初感染が爆発したにもかかわらず、かなりの小さな被害で留めている。
 日本では、新型コロナウィルス対策だけに限っても、政府は国民を裏切ったり、あるいは失望させることを、たくさんしてきた。
 PCR検査を拡充するといいつつ、いまだにごく小規模な検査体勢にしかなっていない。アベノマスクなどという、ほとんど無意味なことに多大の費用をかけた。文科省にすら相談することなく、突然全国の小中学校と高校を休校にさせた。コロナがおさまったら実施するというGO TOキャンペーンを、まだ感染が多数いる段階で強行した。医療現場が、経営困難になることが必死であるにもかかわらず、補正予算で医療機関のための保障を十分にしなかった。そのために、経営難に陥った病院、給与カットなどをせざるをえない病院が多数出た。この問題を国会で議論していたときのやりとりをずっと聞いていたが、やがて病院の経営危機が訪れることが確実である、だから、予算として医療機関への支援を含まねばならないという追求に、政府はついに首をたてに振らなかった。この接触確認アプリで、陽性者に接触したと通知されたのに、PCR検査を拒否したのも、こうした例のひとつに過ぎない。だから、機能すれば効果があるはずのシステムが、国民によって受け入れられていないのである。信頼がないからだ。
 
 このようなことは、原発にもある。今、原発の核のゴミ処理の受け入れ先が問題になっているが、首長が調査の受け入れを提案しても、住民の反対運動が直ぐに起きる。日本のどこかに作らねばならないことは明らかなのだが、ずっと調査すら開始できないまま現在に至っている。調査受け入れるかもしれない自治体があるが、あくまでも調査受け入れに過ぎない。世界で、核のゴミ処理場が決まり、工事が進んでいる国はたったひとつである。それはフィンランドだ。フィンランドには、原発は一カ所しかなく、そこに会社の本部があるのだ。どんなに原発は安全だと、公表しても、現在の日本のように、発電所が、会社の本部がある場所から遠く離れていれば、危険だと会社が認識していると、認めるようなものだ。きちんと状況を認識できる人なら、絶対に騙されないことなのだ。本当に安全だと示すには、本社を原発の側に作り、そこに会社の主な役員を含む従業員が常駐することだ。それならば、決して、工事や運転に、安全を軽く扱うことはしないという、安心感を住民に与えることができるだろう。しかし、日本の電力会社は、おそらくそういうことは決してしないだろう。だから、必要な措置を住民が了承することが、なかなかできないのである。
 
 国家的な困難を乗り越えるためには、国民が納得して、安心して政策を受け入れることが、絶対的な条件だろう。それなしに、権力のごり押しが進めば、衰退していくだけである。安倍内閣で進行したように。そのために、何よりも最初に必要なことは、きちんと説明することである。これまでのところ菅首相は、説明する姿勢を示しているようには思えない。
 
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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