『教育』2021.3号を読む 「ジェンダー平等教育をすすめるために」3

 多くのひとにとっては、既に解決済みの問題だろうが、自分の考えを整理するために、もう少し続ける。今回は、ジェンダー問題のひとつである選択的夫婦別姓をとりあげる。前にもとりあげたが、今回は、反対の論理の検討に絞って考えてみる。対象は、国会に提出された「選択的夫婦別姓の法制化反対に関する請願」である。実際に、参議院のホームページに掲載されている。
 まず請願書の要約をそのまま引用する。 
 
選択的夫婦別姓の法制化反対に関する請願
要旨
 家族が同じ姓を名乗る日本の一体感ある家庭を守り、子供たちの健全な育成を願う。
 ついては、民法改正による選択的夫婦別姓制度の導入に反対されたい。

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「コロナに負けた証としてのオリンピック」をするのか

 森会長が橋本聖子会長に交代して、新たな動きが始まったように見える。しかし、問題解消という方向に動いているとは、あまり見えない。
 橋本新会長が最初にやっていることは、女性理事を文科省に言われている40%まで引き上げるということだ。それ自体はいいことのように思えるが、なんと、割合を40%にするために、ただ女性を増やしているだけだ。こんなこと許されるのだろうか。理事には多額の報酬か支払われるはずである。理事だから、おそらく最も高いか2番目くらいだろう。任期がいつまでかはわからないが、5カ月程度だとしても、軽く億を越える人件費の増加となる。女性理事が増えたからといって、これまでの作業が各段に飛躍・向上するとも思えない。理事は実働部隊ではなく、方針決定にかかわるひとたちだから、人数が増えれば、それだけ議論が錯綜する。もちろん、これから準備をするという段階なら、それは必要なことだが、今は、そういう時期だろうか。一体橋本会長は、この増員に何を実質的に期待しているのだろうか。あるいは必要としているのだろうか。数字合わせ以外に何かあるのか。
 昨日(3.3)オリンピック5者協議が開かれたが、海外の観客は受けいれない方向に、だいたいの合意かできつつあるような報道がされている。まだ、無観客の確認まではいっていないようだが、とにかく、観客は大幅に制限するということなのだろう。

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『教育』2021.3号を読む 「ジェンダーの平等教育をすすめるために」(続き)

 前回は、婚姻の形態は文化によって異なることを書いた。しかし、婚姻によって生じる利益は、それほど違いはないように思われる。LGBTsの婚姻を、当事者たちが何故認めてほしいと思うかは、社会が認めている婚姻による利益を、LGBTsが共同生活をしている場合には、認められないからである。では、一般的に、婚姻によってえられるものとは何なのか。同性婚によるメリットの一覧表は、いくつかのサイトで見ることができるが、https://lgbt-life.com/topics/superally18/ で上げられているものを確認しておこう。これは、要するに、現在認められている婚姻によってえられるメリットのことである。
・遺産相続
・配偶者控除
・養子
・離婚における慰謝料、財産分与
・病院での面会
・福利厚生
・配偶者ビザ
・企業内の処遇
 サイトによって項目は異なっているが、要するに、婚姻が法的に成立した場合に、社会的なシステムとして、さまざまなメリットがあるのが実情である。LGBTsに限らず、事実婚の場合には、こうしたメリットがかなり限定され、LGBTsの婚姻は、当然、現在のシステムでは大きく制限されることになる。しかし、ともに生活し、継続していこうと考えているカップルであれば、こうしたメリットを最大限保障していくことが、望ましいことはごく当然のことと思われる。男女のカップルのみに認めるというのは、合理的であるとは思えない。

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「鬼平犯科帳」 作者の衰え?

 自分自身が、高齢になってきたために、有名人の高齢になったからの活動について、否応でも考えることがある。「鬼平犯科帳」の作者池波正太郎は、当初長く連載するつもりではなかったらしいが、あまりの評判に、どんどん続編を書いていって、結局、死によって中断された。最後の特別長編「誘拐」のなかの「浪人・神谷勝平」の途中で終り、(作者逝去のため未完)という断りが書かれている。おそらく、前の話で、荒神のお夏を裏切ったために、おまさは、お夏復讐されることを覚悟しているが、お夏一味が、おまさを誘拐しようとしていることに、あえてのっかるという筋書きで進行し、実際に、誘拐される形をとろうとするのだが、それを見張るための同心や密偵が撒かれて、本当に誘拐されてしまうようなところでお終りになっている。
 この最終巻24巻の「誘拐」は、どうも話の進行が、スムーズではなく、また、長谷川平蔵の動きも、どこか鈍いのである。やはり作者の体力の衰え、あるいは病気の進行を考えてしまう。

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『教育』2021.3号を読む ジェンダーの平等

 『教育』2021年3月号の第二特集は「ジェンダー平等教育をすすめるため」で、理論的な論文2つと実践記録がいくつか掲載されている。実践記録は、私としては学ぶ材料なので、特別な場合を除いてコメントすることはない。この特集については、論文的な文章について、若干の疑問を感じる。その点を、羅列的になるが、書いておきたい。
 この特集で、最も不満なのは「ジェンダーの平等」とは何かという点について、コンセンサスがあるという前提があるように思われることである。そして、その前に、実は、特集名を知らされて原稿依頼がなされているはずであるが、必ずしも、ジェンダーに関する文章ばかりではない。性教育やセクシュアリティに関する文章もある。
 私が学生時代や若いころには、sex gender sexuality などを区別して議論するとはいうことはなかったが、いまでは、gender を性についての社会的現象(男らしさ、女らしさ)、sexを生物学的な性、sexuality を性的指向性というように区別して議論するようになっている。ただし、私はそうした専門家ではないので、その使い方が広範囲に受けいれられているかについては、自信がない。とりあえず、上記の意味区分に従っておくことにする。

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オランダ留学記1992~93 4 オランダの大学

 私の海外研修の主たる目的は、自分の子どもをオランダの現地校にいれて、オランダの教育を生で知ることだったから、調査の主力はそちらだったが、当然大学から派遣されて、大学で学んでいるのだから、大学の在り方には注意を払った。ただ、大学というのは、日本でも同様だが、非常に大きく、かつ多様な組織だ。働いているひとは数百しかいなくても、学生は一万を越える場合が少なくないし、領域が広い。
 私が所属していたのは、オランダで最も古いライデン大学で、日本学科にいたが、いろいろなところから、留学生が来ている、実に国際色豊かなところだった。留学生の部屋にいたのだが、地域の政治状況を反映して、国内の対立が持ち込まれて、激しい喧嘩が起きることなどもあった。とくに中国人留学生に、そうした争いが目立った。政治的な弾圧から逃れてきたひとと、体制に忠実な学生が同居しているわけだから、争いごとも当然なわけだった。
 さて、「大学」といっても、日本とヨーロッパでは、その意味するところが異なる。ヨーロッパで「大学」というときには、基本的に修士課程までを含むことが多く、卒業によって修士となる。オランダはその典型である。それに対して、日本の四年制大学は、オランダでは高等専門学校と呼ばれていて、職業的な専門教育を行うところである。小学校の教師養成は、高等専門学校で行われている。つまり、高等教育機関として、修士を取得させる大学と、学士を取得させる高等専門学校があり、その入学資格も異なる。
 このことでわかるように、オランダの大学はエリート教育機関である。当時の進学率は、まだ10%程度であった。それでもかなり増加していたくらいだ。そして、学生には全員給付制の奨学金が支給されていた。何故、全員に支給されているのかは、説がふたつあるようで、実際のところはわからない。あるとき力関係でそうなったので、継続しているという側面もあるだろう。

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総務省接待問題 山田真貴子とは何者か

 菅首相長男による総務省官僚接待問題は、当初予想されたよりは、ずっと長引き、深刻な度合いを強めている。現在は、内閣広報官の山田真貴子氏の問題に焦点が移っているように見える。山田氏の場合は、長男との関係よりは、直接的に菅首相との関係という点において問題が深いように思われる。別に汚職とかそういうレベルではないが。
 私が、名前はともかく、山田氏の存在に強く印象づけられたのは、首相の記者会見を仕切っている姿だった。首相の当初の説明が終わって、記者からの質問になったときに、山田氏がすべて、記者の所属名と名前を言った上で、質問者を指定したのである。そんなやり方を、私は初めてみた。普通は、「最初に所属と名前をいってから質問をしてください」というものだ。だから、強烈な印象だったのである。「このひとは、会見に出ている記者の所属と名前を全部知っているのか」という驚きだ。もちろん、全員の名前を知っているのか、あるいは、知っている人と知らない人がいるのか、それはわからない。全員知っているとすれば、内閣広報官が、記者会見に臨む記者たちを全員掌握しているということになる。すごい、というよりは恐ろしいという感じだ。もちろん、記者クラブは決まった部屋をもっていて、そこに詰めている記者は、決まっているわけだから、知っていてもおかしくはないが、普段から話したり、あるいは飲み会をもったりしていなければ、全員の名前は、記者会見でとっさに指名するほどに記憶しないのではないだろうか。全員は知っていないとすれば、記者会見で指名してもらえるのは、名前を覚えてもらっている記者だけだということになる。それはそれで言論統制だ。とにかく、短い質問時間しかなかったが、山田氏が指名した記者は、全員所属と名前を、山田氏が言っていた。そして、「時間です」と言って、さっさと終りにしてしまう、その冷淡というか、冷静なやり方にも驚いたものだ。

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オリンピック準備のずぶずぶと世論操作の強化

 日本人は組織力があり、大きな大会の開催は得意だと、みずから誇っているようなところがあるが、現在のオリンピック開催への準備は、あまりに酷い。外国からも、それをあからさまに指摘されている始末である。バイデンアメリカ大統領やファウチ新型コロナウィルス対策責任者は、科学的な判断が必要だと表明して、暗に、現在の日本の準備が、科学的なものになっていないことを批判している。
 またオーストラリアの感染専門家は、4点の問題を指摘している。
 ①日本で流行の第3波が続き多数の陽性患者が出ている②検査比率が主要国中では著しく低い③感染防止対策の多くが国民の自主性に任されている④ワクチン接種が始まっていない(「公衆衛生の論理無視」豪の疫学専門家、東京五輪に懸念 森氏発言も批判 毎日新聞2021.2.26)
 海外の専門家には、東京オリンピックの感染対策は、まったく不合格なのである。具体的にみてみよう。

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総務省接待問題は、自民党内の権力闘争ではないか

 メディアでは、連日、菅首相の長男による、総務省官僚への接待問題を扱っている。処分もなされたので、利害関係者による接待は、禁止されており、倫理規定に違反しているということで、処分がなされたが、そもそもこの事件の本当の問題については、あまり納得のいく説明がされていない。もちろん、皆無ではないが。
 官僚が禁止されている接待を受けるのは、もちろん、承知の上だろうが、では何故そんな危険なことをしたのか。あるいは、処分されたら、本当に将来に大きなマイナスなのか。
 そもそも、官僚になる人たちの多くは、権力の中枢に自分が位置を占めたいと思っているに違いない。そのなかには、単に権力を振るいたいというひとや、自分の理想とする政策を実現するために、権力の中枢にいることが必要だと考えるひともいるだろう。そのために、有力政治家と近づきになり、とくに昔は姻戚関係になるのが普通だった。現在でいえば、加藤官房長官は、その代表的な存在であろう。姻戚関係までいかなくても、近しい関係になることによって、有力政治家に引き立てられ、事務次官になったり、あるいは、政治家に転身したりする。だから、新人のころはまだしも、ある程度の地位についたころからは、どの政治家につくのか、難しい選択になるようだ。ついた政治家が失脚すれば、自分の地位も危うくなるからだ。

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メディアの告発がかえって煽りになっていないか 自転車の煽り運転報道

 今日(2月24日)の羽鳥モーニングショーでは、自転車の煽り運転の映像がかなりしつこく流され、こうした運転の危険性と責任について扱われていた。先週も事例は異なるが、同じテーマの放送があった。だいたい、私の印象では、テレビ朝日はこの手の告発ものが好きというか、得意というか、よく扱う。しかし、みていて、確かにこうした問題を扱う必要はあると思うが、扱い方にどうも疑問を感じるのである。映像をこれでもか、というほど繰り返しみせるのだが、これを見て「俺もやってみようか」というような気持ちを起こすような若者が、出てもおかしくないと感じてしまうのだ。そんなことは、どんな番組でも起きる可能性がある、といえば、確かにそうだが、扱いかたによって、程度の差は出てくると思うし、だいたいにおいてテレ朝の扱いかたは、まねするひとが出ることを、最大限防止しようという姿勢をあまり感じないのである。

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