「コロナに負けた証としてのオリンピック」をするのか

 森会長が橋本聖子会長に交代して、新たな動きが始まったように見える。しかし、問題解消という方向に動いているとは、あまり見えない。
 橋本新会長が最初にやっていることは、女性理事を文科省に言われている40%まで引き上げるということだ。それ自体はいいことのように思えるが、なんと、割合を40%にするために、ただ女性を増やしているだけだ。こんなこと許されるのだろうか。理事には多額の報酬か支払われるはずである。理事だから、おそらく最も高いか2番目くらいだろう。任期がいつまでかはわからないが、5カ月程度だとしても、軽く億を越える人件費の増加となる。女性理事が増えたからといって、これまでの作業が各段に飛躍・向上するとも思えない。理事は実働部隊ではなく、方針決定にかかわるひとたちだから、人数が増えれば、それだけ議論が錯綜する。もちろん、これから準備をするという段階なら、それは必要なことだが、今は、そういう時期だろうか。一体橋本会長は、この増員に何を実質的に期待しているのだろうか。あるいは必要としているのだろうか。数字合わせ以外に何かあるのか。
 昨日(3.3)オリンピック5者協議が開かれたが、海外の観客は受けいれない方向に、だいたいの合意かできつつあるような報道がされている。まだ、無観客の確認まではいっていないようだが、とにかく、観客は大幅に制限するということなのだろう。

 しかし、これには、大きな反対がでるはずであり、また、これまでいってきたことの瓦解を意味することでもある。
 反対論は、当然インバウンド経済効果を期待しているひとたちから出てくるだろう。そのためにこそ、オリンピックを支持してきたのだ。それが期待できないとしたら、これまでの投資は何だったのかということになる。更に、海外からの観客をいれないということは、当然、コロナの感染拡大の不安があるからだ。つまり、コロナに打ち勝っていないという「証明」になってしまう。「コロナに打ち勝った証としてのオリンピック」という命題が崩れることを意味している。菅首相は、海外客受けいれなしを支持できるのか。「コロナに打ち勝てなかった証としての海外観客禁止のオリンピック」になるわけだから。
 組織委員会のコロナ対策の文書、プレーブックは、かなりお粗末なものであることは、前に指摘した。橋本会長の下、実効性のある改善バージョンがでるかどうかは、今後のことなので、注意して見守るしかない。
 そして、コロナ対策だ。菅首相は、1都3県の緊急事態宣言延長を決意したという。正式発表は明日というが、専門家の意見は延長が多数だから、確実にそうなるのだろう。どうやら、オリンピックを確実に実行できるように、聖火リレーの前に感染状況を圧倒的に改善したいという思惑があると考えられている。しかし、ごく普通に考えれば、現在の緊急事態宣言での対策で、感染が確実に減少する保証などまったくない。現在減っている、最も大きな要因は季節的なものだろう。飲食店などは、努力させられているが、一般のひとたちは、以前のような行動制限をしていない。夜の飲み会が減ったことはあるだろうが。ただし、これからは、いかに制限しようとも、人出の多い行動は激増するはずである。
 コロナ対策として、有効性が確実なことは、いくつかある。
 効果的な薬(開業医が処方すれば入手できる保険適用の薬のこと)、ワクチン、検査、そして、医療体制の完備である。
 もしこれらがきちんとあれば、インフルエンザと同じように対応しても、差し支えない。インフルエンザは、これらがすべて揃っている。事前にワクチンを接種することができるし、症状が出たら医者にいって検査、結果はその場でわかる。感染していたら薬をもらって、自宅で療養すればよい。ところが、新型コロナウィルスは、薬もワクチンもこれまでなかった。もちろん、様々な薬はあり、入院すれば、病院の判断で使用することができる。しかし、自宅療養や施設隔離の段階では、自分で薬を飲んで対処することはできないのである。ワクチンも、やっとごくわずかな量がはいってきただけで、国民一般が接種できるのは、おそらくオリンピック以降だろう。
 そうすると、一般国民にとって可能なのは、検査をして、陽性なら隔離する以外の、有効な対処法は存在しないのだ。ところがこれまで行政は、ずっと検査の外国並みの拡大をさぼってきた。ネットでは、いまだに、検査しても感染者は減らないなどという無責任なことを言ったり、書いたりしているひとが少なくない。逆だ。薬とワクチンがない以上、検査をして、陽性者を隔離すること以外に、有効な対処法は存在しないのだ。ある元厚生省医務官のひとが、重症者対策だけしていればいいのだ、などという驚くべきことをいっていたが、その前の対策をしなければ、どんどん重症者が増大するのだ。
 つまり、政府は、唯一可能な有効な検査拡充と、隔離施設の確保をやってこなかったのが、第三波の大拡大を招いたのである。そして、それは現在でも続いている。そうであれば、安全で安心なオリンピックなど、開催不可能であることは、子どもでもわかる。季節性という要因を考えれば、夏に再び拡大することは、ごく当然のこととして予想されるのである。
 検査の拡大を怠った理由は、だいたい明らかになっている。外国で使用されている一度に1000人以上の検査を、しかも自動でできる機械があるが、それは日本の企業が制作しているものなのだ。ところが、この導入をPCR検査技師たちが猛烈に反対して、結局、保健所のかかわる検査は、検査技師たちによる主動で行われているようだ。国民のための政治ではなく、ある特定のひとたちのための政治といわれても仕方ないだろう。この程度の突破すらできない政治家が、オリンピックの安全・安心を実現できるはずがない。
 こうした事態が、突然飛躍的に改善されるとは思えない。突然、大量のワクチンが入荷したり、あるいは有効な特効薬が突然でてきて、感染しても自宅での療養で治癒できるというような事態が、オリンピック前に訪れると考えるひとはいないだろう。
 国民への感染を許してはならない、ということを考えれば、オリンピックは中止以外にないのだ。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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