『週刊ポスト』韓国特集 嫌韓を煽っているようには思えない

 小学館の『週刊ポスト』9.13号の韓国特集を読んでみた。吊り広告をみて、流石に買う気がしなかったのだが、T-Magazine に週刊ポストが入っているので、早速加入して、そこで読んだ次第。「韓国は要らない」というような刺激的な見出しがついているので、何人かの常連寄稿者が、執筆拒否を宣言したことで騒がれた。二回連続の韓国特集で、第一回が「韓国要らない」で、ふたつの記事からなる。第一は「厄介な隣人にサヨウナラ 韓国なんて要らない」という題で、日韓両国のメリット・デメリットを徹底調査するという記事になっている。 
 しかし、すべてが日本が得するという内容で、
・GSOMIA破棄なら半島が危機になり、ソウルが金正恩に占領される悪夢となる
・サムスンのスマホ、LGのテレビ、現代の自動車が作れなくなる
・東京オリンピックボイコットなら、日本のメダルは2桁増
・韓国人旅行客が日本で使うお金は米中の3分の1。だから、たいした損ではない
・韓流グループは、日本市場がないと食べていけない
という見出しで、説明文がつくが、確かにそうだと思うのは、オリンピックを韓国がボイコットすれば、それは日本のメダルが増えるということくらいで、他の記事は、あまりに日本を買いかぶり、韓国の力を過小評価しているように思えてならない。サムスンがスマホを作れなくなることが、本当にそうかは私には納得しきれない部分があるが、仮にそうだとして、世界最大の半導体メーカーにとって、死活となる素材を日本に頼っているのだとしたら、その素材を作っている日本のメーカーにとっても、サムスンがスマホを作れなくなったから、相当な打撃を受けることになるはずである。日本部品の代わりはない、と記事は書いているが、短期的にはそうであっても、長い目でみれば、代わりを製造するところは必ずでてくるものだ。このような奢りこそ、こわいと感じる。
 韓流にしても、同じような構造がある。以前は、韓国は日本の芸能を輸入禁止にしていた。それが解禁になっているわけだが、逆に日本は韓国の芸能を遮断したことは、たぶんない。流行になったのは、比較的最近だが、かなり強固なファンがいる。そして、日本の韓流ファンは、日韓の争いなど無関係なように、韓流を相変わらず愉しんでいる。貿易管理を厳しくすることは可能でも、韓流ドラマやKポップスを、日本が禁止することはできないだろう。嫌韓の人たちが「要らない」と叫んでも、政治的にストップすることは、ありえない。まさか、韓国にかなり怒っているらしい安倍首相だって、そんな暴挙はしないだろう。とすれば、韓流グループが、日本市場を失うことは、ほとんどないのだ。
 第二の記事が、強く非難されたもので「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」と題するものだ。この記事は、大韓神経精神医学会」が2015年にだしたレポートを紹介したものである。それによると、「韓国成人の半分以上が憤怒調節に困難を感じており、10人に1人は治療が必要なほどの高危険群である」というものだそうだ。そして、「憤怒調整障害」と名付けたという。(診断名は「間欠性爆発性障害」)日本の精神医学者による解説になり、片田氏によると「自身の感情をコントロールできない衝動制御障害のひとつで、怒りを抑えられず暴言や暴力で相手を傷つけたり、ものを壊したりする。すぐキレる人、癇癪持ちのひとに当てはまる」そうだ。そのあと、韓国のそうした激しいやり方、特に反日運動のなかの行為について紹介し、韓国特有とされる「火病」の説明がある。もっとも、DSM診断に以前は取り入れられていたが、今は削除されているということで、怒りや恨みが身体症状にあらわれ、更にパニック障害や適応障害になるという。
 そして、最後に「韓国社会の行動を理解した上で、改めてつきあい方を考える必要があるのかも知れない」と結んでいる。
日韓の政治家の暗躍
 次は9.20/27号で、表紙では、「韓国の『反日』を膨らませた日本の『親韓政治家』たち」、「国交正常化で動いた巨額のカネ・『日韓協力委員会』とは何か」「韓国歴代大統領『対日外交術』の54年史」という3つの記事があることになっているが、実際の記事としては、真ん中の記事は見当たらない。週刊誌というのは、ずいぶんと気楽な売り物なのだろう。おそらく、表紙を作成している部署と、記事を書いている部署の連絡がうまく取れていないに違いない。
 それはさておき、最初の、日本の親韓政治家たちの記事は、とても興味深いものだ。どこまで資料的裏付けがあるのかは、明確ではないが、日韓関係の裏舞台について整理されている。
 私が普段疑問に思っていた、韓国が日本に個人請求権があると主張するなら、日本だって、韓国に残してきた個人資産の請求権が消滅していないと主張すればいいではないか、という点について、岸信介首相兼外相が、日韓の正常化のために、いくつかの譲歩をしたのだと書かれている。
・戦前に日本が韓国に残していた資産の保障を求める請求権の主張を撤回。
・日本で罪を犯して強制退去処分を受けた韓国人を送還せず、日本に残ることを認める
という大幅譲歩をしたのだとされる。そして、岸氏は、首相退陣後も、日韓外交に深く関わったと。次の池田内閣が、日韓条約を結ぶわけだが、朴大統領が、韓国経済を建て直すために、日本からの賠償金がほしいと事情があり、結ばれたが、その際に、「(竹島は)解決せざるをもって解決したと見なす」という密約がなされたと書かれている。週刊ポストは、唯一竹島を取り戻す機会だったのに、それを逃してしまったのだと批判しているわけである。結ばれた日韓条約による経済協力は、現金ではなく、日本政府が日本企業から援助物資を買い上げ、韓国政府がそれを配分するという形をとったという。つまり、韓国ではインフラが整備されていくが、その建設に伴う経済的利益は、主に日本企業が得たという構図である。ちなみに、これは、日本の政府による援助の、多くの事例に当てはまるやり方になる。
 こうした経済オンリーの関係だったのが、1982年の教科書問題を契機に、謝罪外交になっていくとポストは分析する。つまり、韓国は、日本に謝罪を要求し、日本は経済支援を見返りとして行うという図式である。特に、謝罪と援助の区分を中曽根首相が取り払ってしまうことで、謝罪を繰り返す仕組みを作ってしまった。つまり、中曽根首相が、全斗煥大統領を国賓として招待し、宮中晩餐会で天皇に「不幸な過去」発言をさせたことが、歴代大統領が、天皇の謝罪要求をするようになったきっかけを作ったというのである。その後の経過も説明されているが、結論として、「補償金の利権化という日韓の政治家たちの打算に基づくものだったとすれば、こと政治家同士による外交に真の友好関係が成り立っていたのかどうか。むしろそれが現在の「戦後最悪の関係」の原因になっているとさえ見えてくる」と結んでいる。
 第二の記事については省略する。
 こうして読んでみると、執筆拒否した人たちがいうように、嫌韓を煽るような記事というよりは、むしろ、日韓関係を蝕んでいる、日韓双方の強欲政治家たちの「欲の満たし方」を指摘した記事である。もちろん、ごく簡単な記述なので、詳細は専門的な書物を読むべきだろうが、実は、日韓関係や、韓国の歴史に関する、冷静に分析した書物は、日本語文献では極めて少ないのだ。やはり、感情的な嫌韓本が圧倒的に多いように思われる。

半島と島
 さて、ここで指摘されている韓国大統領のある種の「利権要求」であるが、もうひとつの特質である退任したあと、ほとんどが罰せられたり、自殺したりという不幸な結果となることに対して、多くの日本人が感じる「韓国への違和感」なのではないだろうか。これは、朝鮮半島の長い歴史的背景があると考えられ、そのことを理解することが必要だと思う。半島の歴史と日本の歴史は、隣国でありながら、極めて異なる。
 半島は、常に北と西の大国に攻められる危険があり、実際に侵入されて闘ってきた歴史である。そして、平和が保たれていた時期のほとんどは、中国の王朝に朝貢していた時期である。半島は李王朝までは、分裂していた時期が多かったから、内部対立を抱えている時期も長かったといえる。この外部からの侵略への対抗、内部抗争、中国への朝貢という歴史的事実は、日本がほとんど経験しなかったことである。外部からの侵略は元寇のときだけであるし、中国への朝貢も短期的にあったが、政権が継続的に行ったことはない。近代になり、西欧列強がやってくると、内部抗争が統一国家のなかに、常に存在するようになり、それぞれが外部勢力と繋がって権力を獲得しようとするスタイルになっていった。日本の植民地になるまでの期間、清派、日本派、ロシア派が争い、それぞれが応援を頼むような形となっていた。そして、それが日清戦争、日露戦争を引き起こしていく。日清戦争とか、日露戦争といっても、実際の中心的な戦闘は朝鮮半島で行われている。現代では、アメリカ派と北朝鮮派が争っている構図といえるだろう。
 このように外部勢力との結びつきを軸とする争いは、勢力関係が交代すると、相手を徹底的に打ちのめす必要があるし、また、相手の功績は、異なる外国勢力との合意だから、これも徹底的に否定する必要がある。文政権が、朴政権の実施した日本との協定を破るのは、こういう政治力学によるものなのだろう。
 しかし、こうした社会的背景で生きてきた半島の政治家は、強い姿勢をとる一方、極めて高い外交能力をもっている。国際的に孤立していた北朝鮮が、したたかに国際社会を振り回しているのは、やはり、高い外交力によるものだろう。
 それに比較して、日本は、ほとんど完全にいっていいほど、韓国に国際的情報戦で負けている。島国で侵略されて経験がほとんどない日本には、外交が不要な時代が圧倒的に長かったからである。もし、もう少しまともな外交感覚と、情報収集能力があれば、元寇は防げたとも考えられる。
 半島の人々が外部勢力と闘ってきた歴史だとしたら、日本人は、自然災害と闘ってきたのである。自然には逆らえない。だから我慢強い。
 姿は非常ににているが、韓国人と日本人は、その基本的性質が、やはり、違っている。そのことをふまえて、相手を理解する必要がある。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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