最近ウクライナ情報が少なくなった。そして、ロシア軍が弾薬切れで勢いを失っている、人的損傷を気にせず無理な攻撃をして多数の戦死者をだしている、というような、ウクライナ支援の側からすると、楽観的な情報が多くなっている。全体としての動静はそれに近いのだろうが、ウクライナも大きな困難に直面していることは間違いない。専門家として情勢を分析しているわけではないが、さまざまな情報を冷静にみれば、決して、ことがウクライナに都合よく進んでいるのではないし、ロシア軍が愚かな攻撃ばかりしているわけでもないことがわかる。
ロシア軍の将校たちが多く戦士して、軍隊の統制をとるのが難しくなっていると、よく指摘されているが、それはウクライナ軍も同様の面がある。あるイギリスの情報によれば、ウクライナも将校たちがかなり戦死して、退役の将校たちが駆り出されている。しかし、高齢の将校たちは、ソ連、ロシア流の戦闘理論にとらわれており、この戦争におけるウクライナ軍の近代的な作戦になじめず、旧式の感覚で命令を出すので、現場が混乱しているという。現役の将校たちは、現場権限を付与されていて、現場の状況に応じた作戦をたて実行できるが、退役していた将校たちは、上部が命令をくだし、現場はそれを実行すべきという感覚から抜けられないので、臨機応変な対応ができないというのだ。すべての局面ではないだろうが、ウクライナ軍として、小さくない失敗がけっこうあったようだ。バフムトの攻防戦においても、方針が揺れているようにも見える。
また、別の情報によれば、ウクライナでも徴兵逃れをするひとたちが増えているという。ウクライナ戦争についての情報は、すべてが「情報戦」の一環だから、そのまま受け取ることは、すべての情報について間違いだが、ウクライナ人の青年たちが、全員愛国心に燃えて、祖国のためには命を惜しまないという意識であるはずがない。人間であれば、だれだって命が惜しいわけで、かなりの人が祖国のために闘うという立場をとったとしても、それを嫌がる人がいることは、ごく当たり前のことだろう。ウクライナはロシアの侵攻以来、国家総動員体制だから、いつ徴兵されてもおかしくないし、戦闘要員の年齢層の男性は出国禁止とされているはずだ。もちろん、住民のなかには、親ロ派の人もいるわけであり、ロシアに統治してほしいと思っている人もいないわけではない。そういう部分を含めて、困難な戦争を闘っているということを理解することも重要であろう。
そして、ウクライナの状況を困難にしている外的要因は、アメリカの支援の消極性である。アメリカは、ロシアの侵攻を唆したにもかかわらず、ロシアとNATOとの直接衝突を恐れるということを理由に、ウクライナへの支援に、常に「制限」をかけてきた。射程距離のながいミサイル、戦車、戦闘機など、現在ですら、かなりの制限をかけており、それをポーランドなどが制限を突破するために、先行して支援を実施することで、アメリカの重い腰をあげさせようとしている。ウクライナがロシアに負けてしまうことは、ポーランドとしては絶対にさけたい事態であるから、もっともウクライナに協力的だが、やはり、最終的にはアメリカが同意しないと、打開できる支援にはならない。アメリカによる戦車の提供は、原則同意されているが、少数で、かつ実施はずっとあとである。戦闘機はいまだに同意していない。
射程の長いミサイルと、十分な戦車と戦闘機を、十分に提供すれば、早期にウクライナはロシア軍を追い出すことができるはずである。ミサイルと戦闘機で、徹底的にロシアの兵站を破壊すれば、侵略軍であるロシア軍は、撤退せざるをえないはずである。ウクライナとしては、ロシア軍を全滅させる必要はないのであり、とにかく、ウクライナ領から撤退させれば停戦可能になる。その後の安全保障が問題として残るが、当面は、撤退させることが目標だろう。侵略軍である以上、軍事物資や食糧、医療品は、ロシアから持ち込む必要があり、その経路を完全に遮断すれば、占領状態を保持できないのは明らかだ。しかし、兵站は、軍の後方にあるのだから、その後方を確実に攻撃できる射程の長いミサイルと戦闘機が必要なのだ。それをアメリカが渋っているのが、戦争を長引かせている要因だ。かといって、アメリカは、ウクライナを敗北させるわけにはいかないのだから、どこかの時点で、ミサイルや戦闘機の提供を認めざるをえなくなる。速ければそれだけ、被害が少なくなり、ウクライナの戦後復興のコストも低くなる。長引けば、その逆だ。
こうした支援が現在得られていないから、ウクライナの状況が決して楽観視できないことは、認識しておく必要がある。