ロシアが未成年を戦場に送るのか

 ウクライナ政府が、「ロシアの少年少女団体であるユナルミヤの17歳18歳の未成年を、戦争に動員する決定がされた」と公表した、という報道がなされている。
 ユナルミヤという組織は、初めて知ったが、2016年に設立された、ロシアの青少年に愛国心を育てるための組織であり、当初は数千名の参加者だったが、現在では80万ともいわれている。(急速に増えているためか、記事によって数字がかなり異なる。)軍事的な訓練も含まれる。
 西側では、ヒトラーユーゲントに近いと批判しているようだが、それに対してロシアは反発をしているそうだ。確かに、ヒトラーユーゲントと似ていると批判するのは、なんとなくわかるが、私がいくつかのサイトでみた限りでは、あまりヒトラーユーゲントには似ていない。ヒトラーユーゲントは、明らかに将来の親衛隊育成の基礎過程のような部分があったことと、基本的に全員参加であり、放課後の活動を大きく拘束していた。そして、援農などの奉仕活動と、スポーツを含む軍事訓練が中心的な活動であった。最初から戦時体制を前提にしたような組織だったのである。

 他方、ユナルミヤは、有志の組織のようだし、軍事的な訓練もあるが、戦時体制に最初から組み込むようなものには、私に見えない。表面的にみると、ヒトラーユーゲントよりは、ソ連のピオネールに近い感じがする。ヒトラーユーゲントは、ナチスの指導が入っていたし、反ナチ的なことについては、家族をも密告することが奨励されていたような、完全にファシズム組織だった。
 しかし、映像で見る限り、ユナルミヤは、もう少し健康な活動が中心のような気がする。愛国心教育がどのように行われているか、まだよくわからないので、なんともいえないのだが、もし、ウクライナ政府が公表したように、ユナルミヤの上級年齢のメンバーを、ウクライナ侵略戦争に動員するとなれば、ヒトラーユーゲントに近いものになっていくだけではなく、ロシア軍が決定的に人員不足であることを裏付けることになり、敗色濃厚になっていかざるをえない。そして、未成年を戦争に動員したという、歴史に汚名を残すことにもなる。
 無謀な戦争をやり、結局国を滅ぼすことになった大日本帝国でも、少年少女たちが、国によって組織され、14歳から17歳の「少年兵」も招集できると法律で規定され、実際に、沖縄では動員され、半数以上が死亡したとされる。また、学徒出陣というシステムで、学生を戦争に赴かせたが、赤紙が基本免除されていた帝国大学の学生なども、徴兵検査で合格した者を招集したということだった。特攻隊として亡くなったのは、学徒出陣の若い兵隊が少なくなかった。少年兵は、主に銃後の活動だったとはいえ、未成年を軍事活動に動員したわけである。日本の敗戦の姿をそれだけ惨めなものにしたし、日本の再建に必要な人材を多く失うことになった。
 
 何故、軍国主義者、独裁者は、子どもたちを組織して、軍事活動を行うようにさせるのだろうか。ヒトラーユーゲントを見ればわかるように、子どもは、まだ十分な学習をしていないから、洗脳しやすいし、洗脳された若者は、純粋なだけ、独裁者にとって都合のいいような活動を自ら行うようになる。ナチ政権下では、ナチに疑問をもつ大人は少なくなかったが、彼らを密告した子どもたちも、少なくなかったのである。日本で、そうした親を密告する子どもたちが、ほとんどいなかったのは、日本で軍国主義戦争に反対して、行動したり意見表明をする大人が、ほとんどいなかったからともいえる。
 ユナルミヤで活動している若者も、映像を見ると楽しそうで、愛国的な信念をもっているように見える。今後、彼らに、ナチスたちがウクライナ国民を抑圧しているので、ウクライナ国民を解放するために、君たちも闘いに参加してくれ、といわれれば、積極的に応募しそうな雰囲気は確かにある。
 もし、ロシアが本当にユナルミヤのメンバーを戦場に送ることになったとしたら、ロシアの末期症状といえる。そして、彼らに戦死者がでれば、これまで耐えに耐えてきた国民、特に戦士たちの母の会は立ち上がるに違いない。これまで何度か、「ロシアはウクライナ人の子どもを殺しているが、ウクライナはロシア人の子どもを殺していない」ということで、この戦争の本質がロシアの侵略戦争であることを断言してきたが、ユナルミヤが戦場にいって戦死したら、さらにロシア人がロシア人の子どもを殺してしまうことなる。
 それとも、少年を動員しておいて、ウクライナがロシアの子どもを殺した、だから彼らが侵略者だ、などというのだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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