白鵬が、オリンピック会場で観戦していたというので、相撲関係者のあいだで大騒ぎになっているようだ。「なぜ無観客なのに柔道会場にいる…白鵬、五輪生観戦を協会が猛批判 怒りの芝田山部長「横綱として失格」」(塚沢健太郎」)https://news.yahoo.co.jp/articles/ffae1555d1bf02ba1e698dc85d597582d7ecb915
この他にも、たくさんの非難記事があるし、また、ネットでも非難轟々だ。
しかし、冷静に考えてみれば、オリンピックは無観客で、関係者しか入ることができないのだから、何らかの許可があって入場したと考えるのが普通だろう。もし、何もないのに、強引に入場しようとしたのなら、その時点で大騒ぎになっていたはずである。その騒ぎの時点で相撲協会に連絡がいっていたに違いない。しかし、オリンピック選手と歓談している写真まで掲載されているのだからは、何らかの手続きではいったことは十分予想される。それを、ルール違反だと、何も確かめずに怒り狂うほうがおかしい。
そして、いくら相撲協会に属しているとはいえ、私生活まで管理することはできないはずである。オリンピック観戦したために、場所を休んで、試合放棄していたというのならば、重大問題として、協会が処分できるが、協会の仕事のない日に、別の場所にいたからいって、そのこと自体はなんらとがめられるものではない。どうしても、何か問題があるのならば、白鵬が入場した経緯をきちんと把握してからのことだ。それをやっているとは思えない。
こうした騒動、何度も繰りかえされているのだが、本当に相撲愛好者の多くが、白鵬を嫌いなんだなあ、と感心してしまう。私は、白鵬ファンでも、相撲ファンでもないが、ほとんどの白鵬非難はナンセンスだと思う。そのことは何度も書いたが、再度書いておきたい。
白鵬非難の中心は、横綱らしい相撲をとっていないということだ。かちあげや張手など、横綱はすべきではないのに、とにかく勝ち優先の白鵬は、そうした「横綱」の禁じ手を使いすぎるというわけだ。
しかし、そもそもこの非難がおかしい。そのことに、なぜ気がつかないのだろうか。
かちあげや張手を「禁じ手」としているのは、日本の大相撲の「伝統」だということらしい。相撲が、日本人だけの競技ならば、そうした伝統の意味も、絶対的に否定することはできないかも知れない。しかし、今や日本の大相撲は、外国人に開かれているだけではなく、その中心は外国人力士が担っているといってよい。いま外国人力士を排除したら、相撲人気など保持できないだろう。そのくらい、相撲の強さは、外国人と日本人の間で差がついてしまっている。そして、その傾向はますます拡大するだろう。何故なら、現在体格がよく、運動神経のよい少年が、力士を目指す割合は極めて低いからだ。1960年代くらいまでならいざ知らず、今や、お金の稼げるプロスポーツは、他にいくらでもあるし、しかも、相撲は、上位にいっても、待遇面は極めて低い。国際的な広がりもないし、サッカーや野球のように、同時に複数の試合が組まれているわけでもない。だから興行規模がまったく違う。しかも、選手寿命が短く、その後の健康保持が大変である。つまり、魅力あるスポーツではなくなっているのだ。だからこそ、外国人力士が強くなっている。
そういうなかで、相撲人気を支えている白鵬は、恩人ではないかと思うのだが、そんな意識は、協会のひとたちにはないようだ
さて、とにかく、外国人に開いた以上、「日本の伝統」を押しつけるのは間違っている。伝統であるという押しつけも問題だが、横綱はやってはいけないというのも、妙な話だ。もし、かちあげや張手が汚い手なら、それをルールで禁止すればいいのだ。ルール上は認めて、だけど横綱はいかん、というのは、まったく説得力がない。日本人なら、「伝統」で納得するかも知れないが、日本の伝統で育ったわけではない外国人に、そんな価値観を押しつけることができないのは、当たり前のことではないか。
国際社会では、「伝統」とか「腹芸」ではなく、明示化された「ルール」によって、規律が保持される以外にはないのだ。なぜなら、伝統は国ごと、文化ごとに違うからだ。
もうひとつの理由として、横綱は地位が落ちることがない、だから、横綱としてのとり方があるということもいわれる。これも同様だろう。横綱らしくない相撲をとることを禁止したければ、地位が落ちないことと関連させて、これこれの手は使ってはならないという「ルール」を決めればよい。そのルールに違反したら、その勝負は負けとして、負け越したら大関に落とせばよい。そういうルールにして。
あるいは、横綱も落ちるようにすればよい。
とにかく、ルールには、整合性が必要なのだ。妙なところで、ルール上はよいが、伝統に反する、などといういい方が、外国人に通用すると思うことが、独善的なのだ。
そして、もっとも重要なことだが、外国人に親方を閉じていることは、本当に大きな問題で、国際的なレベルでの恥だと思う。
それから、白鵬を非難するひとは、本当の意味で、白鵬から学んでいないのではないかと思う。白鵬は、既に多くの力士が引退している年齢だし、とにかく、かなり酷い怪我をかかえている。テレビ番組で、白鵬の膝の手術などを扱ったドキュメントを見たが、あれで相撲をとることは、無理だと感じた。それでも、休養をとり、稽古をして、全勝優勝する。おそらく、筆舌に尽くしがたい努力をしているのだろう。日本人力士は、そこまで努力しているだろうか。そういう姿勢をこそ、白鵬からは学ぶべきではないか。