8月2日に、政府は、コロナの医療体制を改め、これまではリスクのあるひとを幅広く入院させていたのに対して、入院の対象を重症者や重症化リスクのあるとして、それ以外は自宅療養を基本とするというのである。その理由は、医療が逼迫してきたからだという。
そして、これまで入院しないと可能でなかった治療法を在宅でも可能にするという。例えば、「抗体カクテル療法」をあげている。しかし、抗体カクテル療法は、点滴によるものなので、自宅で行うには、かなりの制約があるはずである。自宅療養者に対する使い方は、これから協議するらしい。ずいぶんのんびりしたものだ。https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE0274O0S1A800C2000000/
田村厚労相は、「フェーズが変わった」ということを理由としてあげている。https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%e4%b8%ad%e7%ad%89%e7%97%87%e3%82%82-%e5%9c%a8%e5%ae%85%e3%81%ab%e3%81%9b%e3%81%96%e3%82%8b%e3%82%92%e5%be%97%e3%81%aa%e3%81%84%e7%8a%b6%e6%b3%81-%e5%8e%9a%e5%8a%b4%e5%a4%a7%e8%87%a3/ar-AAMRyDk
結局、自宅療法への対応が整わなくても、入院は重症患者という措置は、見切り発車するのだろうか。
この報道には、心底驚いた。医療が切迫しそうであれば、そうならないように、病床の確保などをするのが、政治というものではないだろうか。この一年間、日本は全体としての病床が多いにもかかわらず、コロナ患者が多少増えると、すぐに逼迫するのは、日本の医療体制が不備だからだ、と散々言われてきた。それが改善すれば、この程度の患者の増加で、医療が逼迫するはずがないのである。一年あれば、それなりの対応はとれたはずだ。しかし、それをやった形跡はまったくない。むしろ、第二波が静まったとき、逆に病床を減らすなどした自治体もある。それが、第三波、第四波で悲惨な状況が生じた要因と言われている。
そうしたなかで、今度は入院患者を減らすというのだ。根本的に逆方向の政策であることは、誰にもわかるが、それ以前に、大きな疑問にぶつかる。
第一は、重症の意味である。これも一年以上の間、盛んに問題にされてきたのだが、東京だけが、国と異なる基準で数値をだしている。国の基準だと、東京の重症患者は8倍程度存在しているといわれている。東京は、重症患者が、今100人程度だが、実際には800人程度だということになる。現在の感染の中心は東京とその周囲だから、100人というと、少ない感じがするが、これがごまかしの数字なのである。全国的に、東京だけが、独自基準に固執しているのだが、その合理的理由は、どこににもないだけではなく、統計上実に不正確なものになってしまう。基準が統一されてこそ、統計は意味があるのだ。
この問題について、どうやら、記者会見では何も語っていないようだ。
そして、中等症についても、たぶんに誤解があるとされる。実際にコロナ患者を診ている医師たちの話では、軽症でも自宅療養はかなり危険であるが、中等症になると、入院が必須であるという。特に、東京では、他の地域では重症とされる症状が、中等症なのだから、中等症までは原則自宅療養というのは、治療放棄以外の何物でもないだろう。
はっきり言おう。他のひとたちもいっていると思うが。これは新たな事態に対する対応の変化ではなく、新たな時代で、対応を放棄するということである。最大限の病床確保の努力をした上でのこの措置なら、納得せざるをえないだろうが、先述したように、この一年、まるでシステム的な対応をしてこなかったのだ。ずっとコロナ対策の政府の分科会座長が経営責任者である病院では、いまでもコロナを扱っていないはずである。
他方、大阪の吉村知事は、全く異なる政策を発表した。産経新聞の「新型コロナ 感染急増で目立つ中等症患者 大阪1カ月で3倍超」によれば、
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吉村洋文知事は2日、記者団に「今後病床は逼迫(ひっぱく)してくる。できるだけ早い段階で入院してもらい、カクテル療法を利用できる患者には適用して、治療を受けられる環境を整えたい」と強調した。(産経新聞2021.8.2)
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つまり、重症化したら、あるいはしそうになったら入院措置にするのではなく、その前の段階で治療して治してしまうということだろう。そうすれば、措置も比較的軽くすむし、重症患者よりも、はるかに少ない人的資源で済む。そういう点では、この方法のほうが安心できるひとが多いのではないだろうか。
いずれにせよ、菅内閣の新方針は、「方針」ではなく、方針の忌避である。