感染は自己責任と考える割合が日本人は高いというが

 7月29日の読売新聞に、興味深い記事が掲載されている。「新型コロナウイルスに感染するのは本人が悪い」という記事で、三浦麻子大阪大教授の調査によるという。3月から4月にかけて、日本、米国、英国、イタリア、中国で、インターネットによる調査で、「感染する人は自業自得だと思うか」との質問に、「どちらかといえばそう思う」「ややそう思う」「非常そうに思う」のいずれかを選んだのが、米国1%、英国1.49%、イタリア2.51%、中国4.83%に対して、日本は11.5%だったという。それに対して、「全く思わない」というのが、日本以外は、60%から70%台だったが、日本は29.25%だったという。
 この数字を受けて、被害者なのに過剰に責められる傾向が強いと指摘し、国内で感染者が非難されたり、差別されたりする可能性を指摘している。
 非常に簡単な記事なので、もっと詳細な報告書を読みたいと思うが、現時点では、ネット上で公開されてはいないようなので、この記事だけを参考に考えてみたい。国際的な意識調査をする場合、なにかいつも不自然な感じがするのも事実だ。生活満足度調査が何種類かあるが、だいたい北欧、特にデンマークが首位になることが多い。デンマークで2カ月ほど、フォルケホイスコレで学んだことがあるのだが、そのときに、何人かのデンマーク人に、この調査について質問してみた。すると、デンマーク人が生活に満足している人の割合が高いのは事実だが、ただ、こうした調査を受けるときに、実態よりもよく見せたいという感情が働くことが多いと語ってくれる人が、けっこう多かったのである。それに対して、日本人は、こうした調査に対して、比較的謙虚というか、マイナス面を強調する傾向があるのではないかと思う。だから、生活「満足度」調査などをすると、日本人は、満足度を多少割り引いて回答するのではないか。少なくとも、日本人である私は、そういう傾向を感じる。
 この調査は、意外に思われたのは、日本人以外は「全く思わない」というのが、圧倒的に多いという数字だ。本当にそう思っているのだろうか。では何故、と私なら、直接聞いてみたい。
 日本で何故感染者が少なかったのかについては、諸説あるが、ひとつには、日本人の行動・生活様式にあるといえるだろう。マスクをする、手洗いをする、家では靴を脱ぐ等々、このようなことで、感染を防ぐことが、ある程度できることも事実だ。ということは、マスクをしない、手洗いをしない、等の生活習慣を採用せず、そのために感染可能性を高めているとしたら、少なくとも先進国では、マスクや手洗いが困難だということはないのだから、ある程度、そうした行動をとらないために感染したら、その人の責任であると考える余地はある。
 欧米の新聞を読んでいて、非常に奇異に思ったのは、コロナ感染の最中に、マスクをすることは是か否かという議論を、かなり真剣にやっていることだった。マスクをすることが、いかによくないことであるかということを、強く主張する意見が少なくないのだ。それは、感染に無関係だという理由からではなく、あくまでも、マスクをするのは怪しい奴だ、という感覚に基づいている見解が少なくないのである。
 おそらく、今調査したら、日本人の回答は、もっと自己責任的な数値が高くなるのではないだろうか。東京の数値をみると、夜の街やカラオケ関連の感染が多いという結果がでている。私自身は、この数値をそのまま受け取りたくはない。どこか、夜の街やカラオケをスケープゴートにしよういう政策が、検査そのものに影響しているようにも思うからだ。ただし、他はどうあれ、そうしたところで感染者がたくさん出ていることは、間違いないのだろう。とすれば、それをわかっていて、なおかつ出かけていって、感染することは、本人の自覚の問題であることは否定できないのではないか。「自業自得」という言葉には、更に微妙なニュアンスがあるが、本人の自覚があって、避ける意志があれば、少なくとも客のほうは、感染を避けることができたはずである。
 もうひとつ、「通り魔に遭った女性が、『深夜に出歩く方が悪い』などと責められることもある」というのも、多少一面的な気がする。欧米では、常にいわれることだが、夜になると危険な場所がある。そこに一人で出歩くことはしてはいけないと。にもかかわらず、それで被害にあったときには、あまり同情されないともいわれる。日本は、安全神話があるから、確かに非難される傾向が、強いかも知れないが、「注意を促す」という意味では、上のように「事前に」注意することは必要だろう。
 確かに、日本では、感染者に対する不当な非難、特に、医師の家族への差別など、許されていいわけがない。一時期そうしたことが報じられた。しかし、調査の国々で、そうしたことがなかったのか、ないというのは、あまり信じがたい。韓国で最初に感染を広めたのは、ある宗教団体だったが、その責任ある人が、土下座して謝罪したのは、日本でも報道された。これは、感染し、かつ広めた人に対する怒りの感情だろう。 
 こうした調査は、かなり慎重に受け取る必要があると思われた。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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