五十嵐顕考察31 民族の独立という問題

 五十嵐は、教育行政のいわゆる反動化、逆コースといわれる時期をすぎると、民族の独立問題を重視するようになる。それは、日本がアメリカの統治から独立したにもかかわらず、平等とはいいがたい安全保障条約を結び、日本各地に米軍の基地が残り、真の独立が達成されていないという認識から、対米従属からの独立という政治課題を重視したからであろう。そして、それに留まらず、戦後、植民地状況から独立を果したアジア・アフリカの独立、そして、民族自立を議論の柱のひとつとするようになる。そして、その中心が、中国と北朝鮮であった。五十嵐を含む教育関係者が、中国を訪れ、各地の教育関係者や子どもたちを交流をかさねたのは、1961年である。そして、五十嵐は、教育財政の専門家という立場から、社会主義国家における教育の機会均等や教育費の問題を論じている。

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日本人の労働の無駄?

 ロシアによるウクライナ侵略から日本に逃れてきたウクライナの女性のyoutubeをたまたま見た。そのなかで、興味をひかれた部分があった。日本にきて、1年半といっていたが、全編日本語で説明され、多少不自然なところがあったが、すべてきちんと意味が通じる言い方だった。1年半でこれだけマスターできるのだから、かなり頭のいいひとなのだろう。そういう彼女からみて、日本の企業での働き方に、不満があったという。不満というよりは、批判といったほうがいいかも知れない。
 それは、ウクライナ人は、今日しなければならない仕事を、一日の労働時間である8時間内に終わって、時間があまったら、翌日の仕事をする。しかし、日本人は、8時間内で終わるような仕事を、8時間に引き延ばして遂行する一方、残業はやたらと多いというのだ。
 一日の仕事を超えてするのだから、当然、一週間単位では、かなりの仕事量をこなすことになるのだが、その結果については、詳しい説明がなかったが、おそらく、それだけ賃金が余分に支給されることになるということなのだろう。ウクライナ人の合理的な働き方を説明していたから、決められた量以上の仕事をしても、賃金が同じであれば、合理的な働き方とはいえないからだ。

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ジャニーズ問題をマスコミが放送しなかった原因 喜田村弁護士講演より

 大分前のyoutubeだが、今日見たのが、とても興味深く、いろいろと考えさせられた。
 日本記者クラブ主催の講演と質疑のシリーズで、文春の顧問弁護士であり、ジャニーズ裁判でも弁護人を勤めた喜田村洋一氏の話だった。裁判の過程などもあり、それも興味深かったが、テーマであるなぜ「メディアは放置したのか」について、整理して語っていた。そして、その後、質疑応答があったのだが、さらに興味深いことに、大新聞やテレビ関係者は、ほとんど質問していなかったことだ。さすがに、テーマからして、質問すらしにくかったのかも知れない。しかし、記者クラブがこうした辛口講演を実施したことについては、とてもいいことだと思ったわけである。
 
 さて、テーマである、なぜ、メディアが放置したかについて、大きく3つの理由をあげていた。
 第一に、事実が確定しにくいということがあったかも知れないという。しかし、これについては、裁判の過程を詳しく説明し、結局、性加害があったことは、最高裁が認定したのだから、事実があったかどうかはわからないということは消えたはずである。それでも、報道しなかったのはなぜか、と進んでいる。

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五十嵐顕考察30 「教育財政学」はなぜ書かれなかったのか2

 五十嵐が、なぜ、教科書無償制度について、なんらふれることがなかったのかについて、前回簡単な想像を書いたが、実際のところは、よくわからない。当時の『教育』や『教育評論』などを読み返す必要があるが、今はそれが難しいので、「理由」は、おそらく、日教組に遠慮したということにしておこう。
 今回考えてみたいのは、教科書無償制度について議論の対象としなかったことが、教育財政論や行政論、そして、国民の教育権論として、どのような結果をもたらしたか、ということである。結論は、かなりはっきりしている。それは、当時の戦後改革を継承しようとしていた人が、共有していた「教育の自由」を、非常にぎりぎりのところで考えるきっかけを放棄してしまい、その後の「教育の自由論」が脆弱なままに推移したということである。

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危機回避は難しいのだろう

 スポンサーのジャニーズ事務所離れが急速に進んでいる。7日の会見をみて、この事態を予想した人たちは、少なくなかったと思われる。私自身は、予想よりはジャニーズ側が真面目な雰囲気をだそうと記者会見をした面もあり、その点が意外だったが、スポンサー離れがおきるだろうとは予想していた。それにしても、当事者たちからすれば、厳しい報告を受け取り、被害者たちが、厳しい要求をしていたことを考えれば、そして、アメリカなどでの同様の問題に対する厳しい対応を考えれば、相当な覚悟で、被害者たちだけではなく、社会、とくに企業に対して納得のいく具体的な方策を示さなければ、こうした事態になることは、予想できたはずである。少なくとも、危機対応の専門家にも相談しただろうし、彼等の助言もあったはずである。しかし、7日の記者会見は、具体的な対応策は何も示さず、そして、その後もとくにめだった対応をしていないことを考えると、危機に直面した当事者にとっては、事態を正確に理解し、社会を納得される方策を打ち出すことは、本当に難しいのだろうか、と思ってしまう。

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五十嵐顕考察29 「教育財政学」はなぜ書かれなかったのか

 昨日は、著作集の編集委員会があり、編集委員会といっても、半分は研究会で、報告と討議がある。昨日は、五十嵐論の総括的な柱の報告があって、時間の関係でほとんど討議できなかったのだが、非常に充実した報告で、興味深かった。この報告について触れることはせず、また、充実したものであることを確認したうえで、私が聞いていて、主に考えたのは、こうした個人の業績を考える上で、研究者であれば、当然書かれた文章を素材にして考察するのだが、(そして、この報告は主要な本を素材にしていた)私は、むしろ書かれるべきであったのに、書かれなかった素材のことであった。もちろん、だれでも、あらゆることを書くことはできないのだが、専門領域については、当然かかねばならないことがある。そして、五十嵐は、東大の教育財政学講座の担当者だったということも、書かねばならないことがあると、多くのひとは考える。それは、「教育財政学」という総括的な著作である。実際に、五十嵐は、晩年それを書こうと努力していたといわれている。しかし、長い研究生活のなかで、ついに、そのような本が書かれることはなかった。

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現在の民放の方式はいつまで続くのか

 あまりテレビをみない、というより、食事のときだけテレビをかける。そして、だいたいはニュース色の強いワイドショーだけだ。ジャニー氏の問題への弱腰など、あるいは木原問題もそうだが、ジャーナリズムとしての弱さはさておき、最近、CMが変化しているようにおもわれてならない。単純な感じ方に過ぎないが、とにかくやたらとCMの本数や時間帯が長くなっている。羽鳥モーニングショーのあとに、高田純次の自由散歩という番組が続くのだが、この番組は約30分なのだが、半分程度はCMのような気がする。そして、さすがに何度もというのではないが、あるとき、取材のような宣伝を10分くらいやっていた。高田の番組が終わって、次の番組になっているのかとおもったほどだ。しかし、それは単なるこの高田純次の番組内のコマーシャル放映だったのだ。その証拠に、そのあとで高田によるエンディングがあった。その前の羽鳥モーニングショー内でも、以前よりずっとCMの種類と時間が拡大しているように感じる。

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ジャニーズ事務所崩壊がみえてきた

 7日にジャニーズ事務所の新旧社長と井ノ原氏、そして、弁護士4人が出席した記者会見が行われ、4時間をこえる質疑応答が実現した。途中で質問を打ち切ることなく、挙手していた人は全員指名したということだ。そういう姿勢は評価されているが、会見後、厳しい意見が、とくにyoutubeでたくさん流されている。その主なものは、事務所名を変更しないことに対する批判と、東山氏の加害者性の告発である。事務所名を変更しないことだけが影響したわけではないだろうが、その結果として、これまでのスポンサーが続々とおりる、またはおりることを検討している状況になっている。現在は、主にCMにジャニーズ事務所のタレントを起用することをやめることに留まっているが、そのうち、テレビ番組で採用させない動きがはじまる可能性もある。もちろん、テレビ局側は使いたいというだろうが、スポンサー側でイメージ低下をおそれて、他のタレントを使うように要求するかも知れない。CM排除も当然かなりの損失だろうが、テレビ番組でジャニーズ事務所のタレントは使わせない、という状況になれば、事務所としてもたない可能性が高いだろう。結局、事務所を解体せざるをえなくなるとも考えられる。実際に解体して、所属タレントたちが、他の事務所に移籍する場合もあるだろうし、また、一端解体して、まったく別の組織として再編し、新しい事務所に留まるタレントがどのくらいいるのかわからないが、他にいくタレントと分裂することは間違いないだろう。

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土屋邦雄氏のドキュメント

 youtubeで土屋邦雄氏のドキュメントをみた。テレビで放映されたものらしいが、制作は1999年ということなので、四半世紀前のもので、さすがにふるめかしい映像が多かったが、非常に興味深い内容だった。
 土屋邦雄といっても、知らない人が多いかも知れないが、日本人として初めてベルリンフィルの団員になった人で、40年間勤めたという。おそらく、定年になった時点で、テレビ局がドキュメントを制作したのだろう。単にベルリンフィルで活躍したというだけではなく、入団が1957年で、その後ベルリンの壁ができ、そして、やがて壁が崩壊した、というその歴史をベルリンに住んで体験してきたという意味でも、たくさんの情報をもっている人だろう。ただ、さらに3年ほど前に入団したのであれば、フルトヴェングラーの時代だったので、フルトヴェングラー、カラヤン、アバドという3人の常任を経験したことになるので、もっと興味深い事実を聞けたのではないかと思うが、それは仕方ないことだろう。

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チャイコフスキーを拒否するウクライナバレエ

 9月1日に放映された深層NEWSをyoutubeで見た。ウクライナ国立バレエが日本公演を行ったことを契機とした番組と思われるが、戦時中にあるウクライナのバレエをめぐる状況が伝えられ、コメンテーターのコメントがなされていた。
 内容は、昨年2月から5月くらいまでは、まったく公演ができない状況になってしまい、また、かなりのダンサーが亡命したという。160人(?)くらいいたダンサーが30~40人になってしまったという。ちなみに、総監督は、若いころからウクライナで学んで、ダンサーになっていた日本人のかただそうだ。ロシアが侵略してきた当初に、兵隊としてキーウの防衛に従事したダンサーが登場して、父親は現在も前線にいるというようなことが語られていた。

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