就職事情
−一期生の就職なんかはどうでしたか。
西 就職のための努力は大変でした。一期生で先輩がいないので、なんのルートもない。就職以前の問題として実習先がないんですよね。先生たちはいろいろな施設に依頼してくださるんですけど、あの時期は、臨床心理ブームなので、実習先がなかなか確保できなくて。実習できないと単位出せないから、自分で実習先を探してきて、自分で行けって言われて、みんなガッツで探して、だから、就職先もガッツで自分で探してきました。なんだかんで、みんな就職しました。それで臨床心理士試験うけて、7~8割は受かっています。
−西井さんは、最初からここだったの?
西 そうです。わたしは、M2のときから、ここで実習していました。大学院卒業のときに、就職が決まっていなかったんです。そしたら、ここの先生が、週1で、カルテをひたすらパソコンで入力するスタッフをとるので、来年来るかいって言われて。週1契約だったんですけど、本当に働くことになったら、週2に増やしてくれました。あと熊谷の児童相談所に週2で働いて、それからここの別のクリニックに勤めさせていただいて、週5で働いていました。
−けっこう忙しいね。
西 試験受けるのに週5は厳しかったですね。でも、3年くらいたったとき、嘱託常勤になれました。それで毎日ここで働いています。
−他のひとたちは、
西 一期生は、みんないろいろな経路、病院系、療育系、あるいはスクールカウンセラー、自衛隊の駐屯地で働いている人もいます。あと一人は、自分は臨床心理士にはむいていないことがわかったといって、臨床心理士にならなかった人がいます。心理学の予備校で働いている人もいます。
−最近臨床心理士とっても就職がないと、高校で言われる人が多くなって、就職面の不安で進学を考えてしまう高校生が少なくないと言われているけど、それはどうですか。
西 シビアな世界だと思うんです。ある人にはすごくあるし、ない人にはない。その差が大きい。
−その差はどこから来るんでしょう。実力、人柄、運?
西 運もありますし、あとはやはり、実力というか、心理療法の技量よりは、チームで仕事ができるひとかどうか、コミュニケーション力のほうだと思うんです。臨床心理でみている限りは。コミュニケーションに難しさがあって、チームで仕事するのが難しいとか、自分自身の感情がコントロールできなくて、患者さんを怒らせてしまう人がいるんです。病院系では、オープンな募集をしないで、知り合いをとるとか、関係の深い大学院の教授に紹介を依頼したりすることが多いんです。スクールカウンセラーとか、公的機関の病院はオープンに募集をかけますけど。
−医学部特有のなにか、閉鎖性ですか。
西 いえ、児童相談所で仕事したときにも、知っているひとを紹介してくれといわれました。だから、コミュニケーション力を高めて、学んでいるところで信頼されることが大切ではないかと思います。でも、一期生をみている限りは、心理の仕事がしたいのに、全く仕事がみつからなくて、働けない人はいないです。スクールカウンセラーや、保健所の検診の仕事もあるし。後輩でも、週1空いているので、どこかいいとこかないですかと聞かれることはありますけど、全部空いちゃって仕事できないんですという人は聞いたことないです。
−生活はどうですか。
西 それは仕事の選びかたでだいぶ変わるかなと思います。医師や弁護士のような高所得が期待できるライセンスではないですけど。それでも同期もみんな心理職で生活を成り立たせているので、食べて行くことはできると思いますよ。最初の1年は選べなくて、選ばれる、雇ってもらえればどこでもという感じですけど、試験に合格して資格とれれば、特に地方は臨床心理士の資格をもっている人はまだまだ少ないので、仕事は得やすいと思います。
仕事について
−仕事はどんなことをやっていますか。
西 ここでは、大人に面接を行うことと、親子のセラピーをやっています。大学病院で、研究業務があるので、研究枠で行うセラピーをやって、データをとります。それから非常勤職員や実習生のスケジュール管理や諸手続きの事務をやっています。
−ドクターをとって、仕事の内容とか身分が変わりましたか。
西 今のところ、ここでの仕事については何も変わっていません。今の仕事は面白みを感じているし、ウサギを飼うだけのお金はいただいているので、満足はしています。でもより広い領域では選択肢が出てくるという変化はあります。
−動物看護士の夢の一部は実現しているわけですね。
西 そうですね。獣医さんっていいなと思いますね。(笑)
−変化というのは。
西 日本の心理臨床って、アメリカから輸入して日本で応用するんですけど、それを事業化しているところがあって、そこを手伝わないかと言われたりしていますが、トレーニングが主になって、臨床時間が減ってしまうという不安もありますね。臨床やらないと下手になってしまう。
−どこかの大学で募集もあるので、そういうのに応募しようとかはどうですか。
西 学生さんに教えることが、自分にできるとはとうてい思えない。自分でやるのにも、精一杯なのに、どうして、そのとき、患者さんにそういう対応をするのかとか、臨床現場のことだけならいいけど、大学で教えるのは基礎的なこととか、理論的内容的なことなどもありますね。それから、大学院時代の自分と先生方を思い返してみても、自分は大学の先生になれる器ではないと思っています。非常勤で、授業だけを教えている先輩たちは何人かいて、多少興味がなくても教えていたら将来にはいいよ、という風には、言われています。
−教えることは、一番勉強になるからね。勉強する意味で教えるのはいいと思うけど。
西 そうなんですね。いま臨床のトレーニングという点では、教える立場になってきていて、面白いと思っているんですけど。
−西井さんって、いつも最初はだめとかいって、でも、結局やりとげているよね。(笑)
西 そうそう、今話していて思いました。全部の受験ステップが、どうせ私は受からないって言って、でもなんとか受かってしまって。
−できちゃう感じだよね。
西 ほんとうにまわりのかたに支えられてきたからだと思います。
−もし口があったら、週1くらいでやったほうがいいと思うけど
高校生に
−最後に、将来文教大学を受けたいと思っている高校生にメッセージなどお願いします。
西 文教大学ですか。とても楽しかったので、楽しいよ、越谷キャンパスはいいところだよって。
−どういうところがいいですか。
西 まず、先生方がやさしく学生に丁寧にみてくださって、他の大学入ったことないけど、距離が近いとか、よくみていただいている。私は、高校の先生の方がまだ遠かったような気がする。高校の先生よりも、かわいがってくれた。みんながすごく親切で、びっくりしました。あたりまえのことかも知れないんですけど、たとえば、物を落とせば、みんなが集まって拾ってくれるとか、雨が降っているときに、傘を忘れちゃったときなんか、歩いていると、自分の傘をどうぞってくれるひとがいて。家が近いのでどうぞって。カルチャーショックで、なんとやさしいひとばかりなんだろうと。
−傘を貸してくれるかはわかならいけど、物を落としたときに、みんなが拾ってくれるというのは、わかるよね。いまでもそうではないかな。
西 私の先輩が臨床心理の授業を、去年教えていたんですよ。職場の先輩が。別の大学の卒業生なんですけど、「あなた文教大学の卒業生でしょ、どんなとこ」って、聞かれて、「いやいいとこよ、のんびりして、犬の散歩とかしているし」みたいなことを言ったんですけど、最初の授業に行ったあと、いたく感動して帰ってきて、「学生も、先生もみんなにこにこしていて、すごく幸せそうな雰囲気の学校だ。自分の卒業した大学はもう少し、かりかりしている。あんなにのんびりした雰囲気ではなくて、あそこは、場所的にも桜の並木をとって、川をわたって、猫がいたり、犬が散歩していたり、学生が地べたでご飯たべていたり、のんびりして、にこにこしている、みんなひとがよくて、幸せそうで、いいとこだね」と言ってました。
−では、今日はありがとうございました。