歳をとると、本を読んでもあまり感動しなくなってきたのだが、この本は、とても感動した。教育実践録としては、津田八州男氏の『五組の旗』以来だ。原田氏は、神奈川県で小学校教師を30数年勤めたあと、定年退職しているが、この本は、これまで雑誌などで発表してきた素材をもとに、実践の集大成としてまとめたような感じだ。こんな小学校の教師がいるのかと、正直驚いた。
これほど優れた教育実践書は、滅多にないので、教師のあり方を考えたい人には、ぜひ読んでほしい。
神奈川県のどういう地域で教師をしていたのかはわからないが、出てくる話は、とにかく、手をつけられないと多くの教師や親が考える子どもを、たくさん抱えて、彼等とコミュニケーションをとりつつ、子どもたち同士の繋がりを、通常のクラスよりもずっと強固なものに形成していく話である。しかし、そういう実践が、すんなりいくはずもなく、どの話も、苦労の連続で、暗中模索のなかで、子どもたちと一緒に考えて、なんとか改善しようという姿勢で貫かれている。
どんな優れた実践であっても、表面的にそれをまねることなどはできない。そして、原田先生も、最初からうまくいったわけではなく、また、ベテランになっても、それまでいじめられたり、教師に不信感をもっている子どもたちを、直ぐにまとめられたわけではない。悪戦苦闘を繰りかえして、次第に子どもたちを集団としてまとめていったわけである。その基礎には、全生研の民主主義的学級と班作りの理論があることが、随所でわかる。