岡崎城西高校チアリーディング部の事故と訴訟 部活の形態に無理がある 社会体育への移行を考えよう

 2021年4月19日、愛知県岡崎城西高校チアリーディング部の活動中に、不適切な指導で、下半身付随になったと、高校に損害賠償訴訟が起こされたという記事が多数でている。毎日新聞の記事によると、以下のようなことのようだ。
 
 「提訴は2月15日付。訴状によると、元女子部員は1年生だった2018年7月、低い場所での宙返りも完全に習得できていないにもかかわらず、より高度な技術が必要な、2人の先輩に両足を握られて肩の高さまで持ち上げられた状態から前方宙返りをして飛び降りる練習を体育館でした際、前方のマットに首から落ちた。その結果、脊髄(せきずい)損傷などで下半身が動かなくなり、排せつも自力でできなくなるなど後遺症が残ったとしている。
 部の男性顧問は部活に姿を見せることは少なく、外部の女性コーチが技術指導をしていたが、事故時は2人とも不在だった。けがを避けるために技の練習で必要な補助者もなく、マットを敷くだけだったという。元女子部員側は「顧問とコーチは、練習による危険から生徒を保護すべき注意義務をおこたり、習熟度に見合わない練習をさせ、事故に至った」などと主張している。」https://mainichi.jp/articles/20210418/k00/00m/040/183000c

 
 事故調査委員会報告書では、顧問はコーチに指導を一任、コーチは自分が責任者ではないと語っていたという。これ以上のことは、わからない。随分検索をかけて、事故が起きた当時のことや、その後の進展について調べたのだが、検索には出てこなかった。(毎日新聞の記事検索では、2018年以後、岡崎城西高校の記事は、上記一件だけであり、朝日の検索では、3件ヒットしたが、まったく関係のない記事だった。従って、事故後の学校の対応や被害者家族とのやりとりなどはわからなかった。)事故調査委員会ができて、学校の部活の指導上の問題が指摘されているのだから、被害者家庭が、学校に対して不信感を募らせていたというようには、あまり想像できない。しかし、こうした学校事故に起因する訴訟というのは、学校側の不誠実な対応に業を煮やした被害者家族が、怒り心頭に発して起こすのが普通だ。記事でも、両親が「学校側からきちんとした説明がなく、事の重大さをわかっているの疑問。残念でならない」というコメントを紹介しているのだが、この調査報告書を見せなかったとか、見せたけど、責任はないとしたのかとか、いろいろと考えられはする。しかし、学校法人の担当者は、「責任を痛感し反省している」と述べたというのだから、責任を痛感しているならば、速やかに事情を説明し、補償金を支払う必要があったのではないだろうか。部活だから、当然保険には入っているはずである。学校安全支援のホームページによれば、下半身麻痺であれば、1級認定になるはずだから、4千万の給付の可能性がある。学校は、これだけで済ませようとしたのだろうか。記事が本当であれば、学校側の安全管理の不備は明らかであるから、学校としての責任による補償が必要であることは、いうまでもない。それは、訴訟されても、責任を痛感しているというコメントをだしているのだから、そこでの誠意に疑問がもたれたということだろう。この訴訟は和解勧告がでて、和解が成立するように思うが、それで問題が解消されるわけではない。
 
 私はチアリーディング部の活動についてよく知らないので、岡崎城西高校のチアリーディング部の活動を映像をいくつかみてみた。感心するほどうまいとも思えなかったが、それなりに高度な技を使っている。訴えによると、まだ十分な技を修得していない段階で、顧問やコーチがいないところで、非常に難しい技を強制され、首から落ちたというのだから、練習そのものが無茶であったことは確実だ。
 かつて須賀川一中の柔道部で、やはり顧問の教師がいないときに、非常に強い2年生が、初心者の部員に投げ技をかけて、やはり、半身不随に至らしめたという事故があった。事故後の学校側の対応が非常にまずく、テレビなどが大々的に取り上げる事件になったのだが、須賀川一中では、その後顧問が現場にいないときには、絶対に部活をしてはならないという状況になったそうだ。危険をともなう競技で、指導者が不在での練習は、ほんとうに事故が起きやすいのだ。しかも、初心者と上級者が混在している部活では、特に初心者にも無理をさせる傾向がある。
 
 こうした事故が起きるたびに、「管理をしっかりせよ」というコメントが識者からだされるが、むしろ、部活という性質上、管理を十全に行うことは無理なのだと思っている。部活という形態そのものに無理がある。そして、それは外部指導者をいれたりしても、決して解決しきれない部分が残るのである。
 それは、部活という学校に属するものである以上、同じ種目の部活は、学校にひとつしかないということだ。学校には、たくさんの部活があるから、ひとつの種類の部活を複数設置することは、まずできないし、そのようなことはほとんど聞いたことがない。大学になると、規模がまったく違うし、部活(体育会所属)とサークルがあり、サークルは自由に作ることができるので、同一種目でも複数存在しうる。しかし、高校以下の学校ではそれは無理である。
 柔道や体操、チアリーディング、などのような危険を伴うスポーツについては、初心者、中級者、上級者によって、当然練習内容が異なるので、明確に、グループ分けして、それぞれにあったメニューの練習をする必要がある。しかし、学校の部活だと、それが極めて困難なのである。また、指導者がいないこともしばしばあるので、指導者が見ているときには、そうした別メニューで行っていても、いないときには、生徒たちが勝手に、上級者が初心者に技を強制することが起りうる。大きな事故は、多くはそうしたときに起きるのである。教師にとって部活指導は本務ではないのだから、本務が忙しいときには、部活動の指導ができないことは、どうしてもありうることなのだ。
 従って、部活は廃止して、社会体育に移行すべきなのである。社会のなかのクラブであれば、指導者は、常にそこにいることが可能であり普通である。学校では、顧問は教師であることがほとんどなので、会議や出張、あるいは事務仕事でどうしても、指導できない場合が頻繁に起きるが、社会体育であれば、指導者はそれが専門だから、その場にいないことは、原則的にない。それだけで、危険なスポーツにおける事故は飛躍的に減少するはずである。また、同一種目のクラブが、いくつあってもいいわけだし、レベルも異なってくるから、自分のレベルにあったクラブにはいればよい。
 学校のブラック職場化が問題視されている状況で、部活指導は、最も大きなブラック要因になっている。しかも、事故の温床ともなれば、根本的な転換が必要であることは、自明であるように思うのだが。この事故の教訓は、部活が学校教育で行われるのは、時代に合わなくなっているということだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

「岡崎城西高校チアリーディング部の事故と訴訟 部活の形態に無理がある 社会体育への移行を考えよう」への4件のフィードバック

  1. この事故は本当に信じられないほど酷い。
    顧問は不在、そして先輩に押しつけられて事故を起こした。
    しかも女子生徒は入部して4ヶ月足らずで高度な宙返り技を練習させていた。
    なぜこんな入部したばかりの部員に高度な技を練習させていたのか。
    この高校が出場している大会の結果を見ると、強豪校とは思えないランクに落ちている。
    恐らく顧問は焦って入ったばかりの部員に高度の技を練習させていたのだろう。
    部活動は成果、そんなブラック体質が起こした事故だと思う。
    この事故はネットは批判されてYouTubeでもこの事故を取り上げた動画が配信されている。
    これほど影響を及ぼした事故なのに高校は元部員の女子生徒に責任を押しつける。
    賠償金の減額を迫るという異常な事までやっています。
    現在、多くの高校で部活動のでの事故が多発して死亡事故が100件以上も起きています。
    この裁判はブラック体質の高校への転換となるでしょう。
    部活動で生徒を犠牲にしないように体制が変わると思います。
    今はネットの時代です、学校が隠しても確実に明るみになります。
    その証拠にネットニュースではこの学校名で事故の内容が明らかに報道されています。
    この裁判できっと改正されると思います。
    これ以上、生徒を学校のエゴで犠牲にならないように改正されることを祈りたいです。

  2. コメントありがとうございます。裁判になってしまうこと自体、学校側の不誠実な対応があるわけで、裁判では徹底的に膿をだしてほしいと思っています。ただ、やはり、学校で部活として、こうした競技スポーツを行うことは、既に時代にあわないと思っています。大学で、かなりハードにスポーツをやっているひとたちは、部活だと、かえって上達しないというひとたちも多くいます。スポーツは、指導の合理性、様々な段階にあるひとたち、目的の多様性(プロをめざす、趣味、健康のため)を、部活というひとつの組織で満たすことはできないわけで、そういう意味で、学校とは別の組織に移管すべきであると思っています。そうしないと、こういう事故が、今後も起き続けるのではないでしょうか。

  3. 私はこの岡崎城西の事故が起こった当初の生徒(2020年卒)であり、かつその事故で半身に制限がかかってしまった生徒[以下マユ(仮名)と呼称]の姉とは同級生でした。マユが事故を起こした時に顧問(以下マツケンと呼称)は何をやっていたのかと言うと授業後の演習を行っておりマツケン先生とか別の外部からの顧問に生徒が技の練習をしないように伝えるのを怠っていたのではないかと思います。比較的気をつけていた方なのではないかとは思いますがこのほんの少しの気の緩みが今回の重大事故に繋がってしまったのではないかと思う所存であります。また私はマユの自転車に乗りていた時の記憶があるので事故でこんなにも人生が変わってしまうのかと大きな衝撃を受けたということも合わせて記しておきます。

  4. 近藤さん、コメントありがとうございます。顧問の先生に、責任を押しつけるのは酷だと思っています。要するに、システムの問題としてとらえる必要があります。技をかける練習をするな、という注意をしたとしても、顧問がいないときには、無理な練習をすることはありうると思うのです。スポーツには、危険度の高いものと、そうでないものがあると思いますが、危険度の高いスポーツを、子どもが行っている場合には、きちんとした指導者が、かならずついている必要があります。それが絶対的に保障できないものであれば、違う形態にしなければならないといえるでしょう。やはり、部活という制度が、既に時代に合わなくなっていることは間違いありません。

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