「日本的学校教育」中教審答申の検討6 高校教育2

 今回は、前回の紹介と簡単なコメントを踏まえて、中等教育制度の何をどう考える必要があるのかを試みたい。
 私は修士論文で、「学校生徒の多様化と統一化の問題」というテーマで、統一学校運動の研究を行い、それで博士論文も書いたが、現在でも「多様化と統一化」を研究の中心テーマにしている。時代や対象を広げた形なのだが。そして、そのテーマの中心対象が中等教育であることは、ずっと同じである。中等教育の性質上、これが制度論としては中心的課題になるわけだ。
 多様化は、社会が分業化していることから、労働者を適切に分業体制に選別していくという側面と、個々人にとってみれば、能力や資質、好みが多様であるので、社会のなかに適切な場所を選択していくという側面がある。「統一化」は、国家や社会は、秩序を保持していくためには、共通の規範や規則が必要であり、それを国民(市民)が、受容して守っていく必要があり、そういう姿勢と意識を形成することが目的である。統一の方法についても、いくつかの型があるが、ここでは、多様化の問題を主に考えることにする。

 
 多様化に関わることは、ひとつには進学制度であり、また、カリキュラムと、学校の類型である。
 これまで度々書いてきたが、日本の進学制度は、先進国ではかなり異質である。
 また、カリキュラムと学校類型の関係では、いくつかの型がある。
 
・学校ごとに専門を定める。
 ・前期中等教育と後期中等教育にわけて、後期のみ専門分化する。
   ・分化した学校からの進学先をわける。(デンマーク)
   ・分化しているが、進学先には平等に開かれている。(日本)
 ・前後期に区分せず、資格の異なる中等学校をおく。(ドイツ・オランダ)
・ひとつの学校のなかに、多様なカリキュラムをおく。(アメリカ)
 
 そして、進学については、卒業資格をもって進学権を与えるか、進学先が入学試験をするかというふたつの型がある。後者は先進国では日本くらいで、ほとんどの先進国は前者のタイプである。ここでは、中教審答申の検討なので、こうした確認の上で、日本の状況を考えていく。
 多様化の理想的な形は、個々人の資質による選択と、社会の選抜とができるだけ合致することでる。社会的分業にできるだけ合った学校が設置され、個人が自分の資質に応じた選択ができることである。そのためには、個人が選択することが基本で、上級学校によって選別されれば、その合致度は確実に低下する。したがって、先進国のほとんどがとっている「卒業資格が進学資格」となるべきである。もちろん、これには、進学先のキャパシティという問題があるが、社会的要請と個々人の希望を長期的な視野で考慮にいれれば、大きな齟齬は避けることができるはずである。
 では、なぜ日本はこの方式をとらなかったのだろうか。
 日本はヨーロッパに比して、産業革命、市民革命、国民教育制度の順番が異なった。典型的にはイギリスでは、市民革命が起き、そして産業革命が続いて、労働力、人的資源に対する社会的要請の変化が生じ、それが国民教育制度としての義務教育を生み、やがて中等教育の再編につながった。しかし、日本では不徹底な市民革命が起きて、まず国民教育制度(義務教育)と大学が同時に制定設置され、旧来の藩校や寺子屋という教育機関が一掃されてしまった。そして、その後産業革命が生じたのである。だから、ヨーロッパでは、従来のエリート教育機関につながる中等学校が継続し、新たに義務教育学校が制度化されたのに対して、日本では、当初から国民教育制度が小学校から上に伸びる形で形成された。そして、「統一化」の契機が強く(兵隊の育成)、そして、国民全体からの人材選抜が目的であった。だから、当初から上級学校が入学試験を行うシステムができあがったことになる。そして、立身出世主義の教育が形成されていったのであり、それは1980年代まで続いた。いわゆるキャッチアップ時代には、競争的教育を肯定する立場では、効果的に機能したシステムであったといえる。
 ただし、1990年代になると、少子化の影響で入学試験による競争主義的システムは、うまく機能しなくなる。ゆとり教育が導入されて、新たな試みもなされたが、結局は、「学力低下」批判とPISAの順位低下を利用して、ゆとり教育をやめ、全国学力テストを復活して、競争主義を再現しようとしているのが、現在の姿である。それを「日本型学校教育」と命名しているわけだが、これは、歪みのほうが大きいといわざるをえない。
 では、どのように改革したらいいのだろうか。(続く)

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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