学校教育から何を削るか11 生徒会

 ここで生徒会を削るというのは、PTAと同じで、権限をもった組織に変えるという意味である。
 日本で児童会・生徒会は、学習指導要領によって規定された「教育組織」である。
 実際の規定は以下のようになっている。
〔児童会活動〕
1 目標
 児童会活動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団の一員としてよりよい学校生活づくりに参画し,協力して諸問題を解決しようとする自主的,実践的な態度を育てる。
2 内容
 学校の全児童をもって組織する児童会において,学校生活の充実と向上を図る活動を行うこと。
(1) 児童会の計画や運営
(2) 異年齢集団による交流
(3) 学校行事への協力
[生徒会活動]
1 目標
 生徒会活動を通して,望ましい人間関係を形成し,集団や社会の一員としてよりよい学校生活づくりに参画し,協力して諸問題を解決しようとする自主的,実践的な態度を育てる。
2 内容
 学校の全生徒をもって組織する生徒会において,学校生活の充実と向上を図る活動を行うこと。 
(1) 生徒会の計画や運営
 (2) 異年齢集団による交流
 (3) 生徒の諸活動についての連絡調整
 (4) 学校行事への協力
 (5) ボランティア活動などの社会参加
 
 目標は悪くない。しかし、この目標をこうした児童会や生徒会の原則で実現できるものかということである。
 生徒会の役員をやったことがある人も、たくさんいるだろうが、自分たちの企画を通すことができて、楽しかったという人もいるだろうし、また、教師たちの壁を突破できなくてくやしい思いをした人も少なくないに違いない。
私の経験
 もう何十年も前のことだが、私も中学時代に生徒会の役員をやった。どちらの思いもある。自分たちの企画を通すという意味では、毎年行われているスポーツ大会が、それまでのソフトボールとバレーボールができないと、教師側から伝えられ、何か代わりのものを考えろということだった。役員でいろいろ議論したり、また、資料調べなどをして、全員が参加できること、時間内で終了できること、という条件が付けられたので、ドッヂボールという案を考えた。ソフトボールは時間が延びることが多いのでだめになったということだった。しかし、中学生にドッヂボールというのは、幼稚なんじゃないかといわれることを見越して、大きな本屋にいき、中学生や高校生にもよいスポーツだという本をみつけ、提案した。案の定、学校の「実力教師」が猛反対をしているという噂が聞こえてきたが、構わず生徒会の代議員会で決定した。一クラス一チームというのではなく、全員が出られるように、ふたつのチームまで認め、時間を厳格に決めて、一斉に開始・終了するようにして、決勝までスムーズに進行させた。皮肉にも、猛反対したという教師のクラスが優勝して、ご機嫌だったというおまけまであった。
 壁は、よくある服装問題だった。公立中学だったから、厳しい服装ルールなどはなかったが、スカートに対して、細かいひだのあるものは禁止だったことに対して、女子生徒から抗議が出た。代議員会で話し合い、生徒は緩やかにせよということでまとまったのだが、職員会議で否定されたということでお終いになった。あまり教師が関わらないスポーツ大会(運動会ではない)などは、自由になるが、学校のルールとなると、ほとんど生徒の意見が反映されることはなかった。
 余談だが、生徒会には二人の顧問がいて、同時に役員会に出てくると、必ず教師同士が対立して、まったく譲らない状態になった。生徒としてはどうしようもなく、ただ見ているだけだったが、卒業した後でわかったが、一人は組合の教師で、他の一人は管理職志望の教師だった。
 少々経験談を長く書いてしまったが、要するに、自分たちで決められることについては、充実感があったし、そこでいろいろと考え、調査したことが役にたったと思う。しかし、結局学校のルールに関わることには、一切口出しできないのだということも、厳然たる事実であって、その点は大いに不満をみなもっていた。成長できるのは、権限をもっているときなのだ。児童会や生徒会は、教育の対象なので、教師の指導の許す範囲で、「自主的」活動ができるだけで、学校をどうしていこうということには、タッチできない。これでは、民主主義の主体として育てる組織とはいえない。
ヨーロッパでは権限をもって生徒代表が運営に参加
 ヨーロッパの学校では、さすがに、小学校は通常認められていないが、中学レベルからは、生徒の組織から代表がでて、運営責任者、教師代表、親代表と一緒に参加する協議組織があり、そこで、提言、同意、助言などができるようになっている。もちろん、生徒代表が単独で決められるわけではなく、あくまでも協議に加わるわけだが、投票権はもっており、「同意」は、その協議会での同意がないと、運営側が実行できないことを意味するので、実質的な権限を発揮できる領域があるのだ。オランダの例でみると、1992年に、参加協議会の法律ができ、2005年に改訂されている。そして、現在は2017年に改訂されているが、施行は今年の秋のようだ。詳細をチェックしていないが、協議会の権限が強化されていると説明があるので、以下の表より権限が弱いことはない。

 もちろん、こういう中でもいきいきとした活動をしている生徒会はあるだろう。しかし、もっと運営に反映できる仕組みにすれば、より活発になると思う。それには、当然、教師たちが、生徒のそうした権限を充分に理解し、敬意を払うことが必要であるが。
 高校になると、生徒会は不活発になり、推薦入試の部分が増加しているので、推薦入試に有利になるという理由で、生徒会の役員になり、実際にはたいしたことをしない、という話も、学生からはよく聞かされる。それなどは、学習指導要領の目標すら、達成していないといわねばならない。
 大事なことは、生徒の立場にふさわしい、実質的な権限をもった生徒の組織が必要なのであり、それは、現行の生徒会ではない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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