都響定期演奏会12.18 小泉和弘の指揮に感動

 昨日東京都交響楽団の定期演奏会にいってきた。曲目は、チャイコフスキーのバイオリン協奏曲とショスタコービッチの交響曲第10番であった。バイオリンの独奏は、三浦文彰、指揮は小泉和弘だった。私は現在の日本のソリスト状況について、あまり知識をもっていないので、三浦氏のことは初めて知った。ウェブで調べると、若手のホープのようだ。こんなことを書くと、事情通の人には呆れられるかも知れないが。
 さすがに小泉氏は名前はよく知っていたが、生の演奏は初めて聴いたと思う。私が演奏会にちょくちょく通っていたのは1970年代までなので、1973年にカラヤンコンクールに優勝した小泉氏のことは、聴いたとしてもあまり印象に残っていないということかも知れない。そして、都響の終身名誉指揮者であることも初めて知った。2025年度から都響の定期会員になって、今回が初めての登場だったからでもあるが。
 今回の曲目は、私自身が市民オーケストラで実際に演奏したことがあるものだったが、超有名曲であるチャイコフスキーはともかく、ショスタコービッチは知る人ぞ知るというような曲だし、10年以上も前のことなので、思い出しながら聴いていたという感じだった。
 チャイコフスキーだが、全体としてはとてもよかった。とくによかったのは第2楽章で、ここではきわだって叙情的な雰囲気のだしかたがうまく、しっとりとした味わいと、とてもしゃれた節回しに感心した。こういうところは、日本人の演歌的資質の現われなのだろうか。バイオリンとしての音の魅力もたっぷり聴かせていた。
 第3楽章は、しっかり弾ければだいたい引き込まれる音楽だが、まったく危なげなく、速いパッセージをこなし、微妙な音質の変化もきっとり弾きわけていた。そんなことは、このクラスの人には当然のことだろうが。
 ただ、多少不満があったのは第1楽章だった。かなり上手な人でも、協奏曲の出だしからしばらくは、音質が定まらないようなところがあるものだが、この曲は、でだしが中音から始まって高音に移動し、下がってきて主題は低音で始まるという、音質の統一性を保持しながら、それぞれの音域の特質をしっかり表現するというのが、非常に難しいように思う。その点、音域が変わると音色が変ってしまうような感じがあって、調子がでないのかな、と不安な感じがした。しかし次第に響きに統一感もでてきて、チャイコフスキーらしい歌と激しく走り回る楽句が交互に切り替わるような部分も、安定して聴かせていたと思う。
 もうひとつ不満だったのは、重音で速い3連符を弾くところの重音が汚くなるところが気になった。激しい部分なので、意図的にやっているのかも知れないとは思うが、右手のコントロールがまだ完璧ではないのだろうか。
 ショスタコービッチは、とにかくこの曲を聴けただけでも満足だったが、練習は当然こちらをメインにやっただろうから、終始安定した演奏だった。
 1楽章は、ゆったりとした3拍子で、暗い音楽だが、出だしのチェロとコントラバスを、懐かしい思いで聴いていた。新たな楽器が重なっていくが、またチェロとコントラバスに帰る、それを繰り返しながら、しずかなテンポのまま大きな流れになっていくのだが、それに引き込まれていった。
 2楽章は、非常に速い、いかにもショスタコービッチらしい管楽器と弦楽器が掛け合いをしながら、疾走していく。構造は単純だが、演奏は難しいと思う
 蛇足になるが、この曲を私たちが演奏したとき、演奏が終了したあと、突然指揮者が、この楽章をアンコールで演奏するといって、団員たちがびっくりしながら、2度演奏したことがある。もちろん、そんな予定はまったくなく、アンコールなしのはずだった。全曲はかなり長く、しかも疲れる曲だから、みなびっくりした。どこの市民オケもするだろうが、定期演奏会の演奏をCD化して、団員に頒布する。だいたい本番の録音を主体に、まずいところをゲネプロの録音で補正するのだが、どうもこの楽章で、両方うまくいかなかった部分があるらしい。そのために、アンコールを録音して補正しようと指揮者が考えたようだ。非常に思い出になる出来事だった。
 さすがプロのオケは、こういうアマチュアにとっては難曲を、とくに困難もなさそうに演奏していた。とにかく速いパッセージの管と弦の掛け合いに、裏拍をずっといれていくので、狂いやすいのだ。
 3楽章は普通は緩徐楽章なのだが、多少速めの3拍子の曲で、正直あまりおもしろくない曲だ。少なくとも私にとっては。だから、あまり印象に残っていない。
 4楽章も、テンポ設定は緩やかだが、曲はだんだんもりあがって、最後は大団円となる。はじめのほうは、管楽器が交互に技巧的な音楽を披露するが、最初はフルートがながながと装飾的なメロディーを奏でる。この部分のフルートは、とても美しい演奏を聴かせた。チャイコフスキーでは、ソロを覆ってしまうような部分があったのだが。
 ユニークなのは、ピッコロが2本あって、ピッコロソロがけっこう長く吹かれることだ。しかも2番のピッコロのほうが活躍する。独特の味をだそうということか。
 とにかくオーケストラは熱演だったし、小泉氏は、比較的少なめの動作だったが、オケは、的確に反応していた。さすがに終身名誉指揮者だけのことはある。
 カーテンコールでは、オケが引っ込んだあとにも、一度だが指揮者だけのカーテンコールがあった。映像ではよく見るが、実際に私がみたのは、初めてだった。
 演奏会前に、上野のロシア料理店で食事し、ロシアづくしの一日だった。ただ、そのロシア料理は、コメ主体だったので、ソ連料理というべきものだった。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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