MLBの優秀監督を担当記者たちが選ぶ賞で、今期ワールド・シリーズ優勝をなしとげたドジャースのロバーツ監督が選ばれなかったことが、話題となっている。しかも、単に選ばれなかっただけではなく、一票も入らなかったというのだ。記者はMLB担当記者30名が、1位、2位、3位の順をつけて投票するということだ。とすれば、全部で90票が投じられることになる。そのうち1票もロバーツの名前が書かれていなかったというのだから、かなり驚きだ。しかし、ある大リーグ・レジェンドで解説者(オルティーズ)が、この件について詳しく自分の受け取りを語っているyoutubeがあったが、全面的に賛成している。
ナ・リーグ(ドジャースが属するリーグ)では、ブルワーズのマーフィー監督が圧倒的な票獲得で選出されたという。しかも2年連続である。
この高い評価は、当初中心選手たちが怪我で大量に離脱してしまい、非常な苦戦から、若い選手たちの適性を考慮して試行錯誤し、次第にチーム力をつけて、ポストシーズンに進出させたという手腕が評価されたもののようだ。もっとも、ポストシーズンでは、ドジャースに破れているのだが。
私が驚いたのは、地区優勝したチームの監督に一票も入らないことの不当性を感じたからではなく、そこまで冷静に、チームの成績ではなく、監督の力量に焦点をあてての評価を、記者たちが行ったということだ。
日本の記者投票であれば、地区優秀した監督にまったく投票しないのは変だ、というので、3位の票くらいにいれるのではないだろうか。あるいは、チームが投票対象の成績では、優勝したチームなのだから、という理由で1位にする記者がいそうである。
大分以前の話で恐縮だが、当時の大洋ホエールズ(現在のDeNA)にボイヤーという元ダイリーグの3塁手がいた。そして、記者投票で、ゴールデングラブ賞が選出されるのだが、長嶋が選ばれていた。1度きりというのでなく、何度もそうだった。それに対して、ボイヤーが明確にその評価を非難していたのが印象に残っている。彼がいうことには、「3塁手の総合的な能力、つまり、打撃とかチームでのリーダーシップなどを考慮して、優秀3塁手が長嶋であることは、自分も認める。しかし、こと守備に関しては、私のほうが、はるかに長嶋より上である。記者たちの投票は、長嶋の絶対的な人気を考慮した、間違ったものだ」というのだ。たしかに、彼のいうことは正しかった。守備については、あきらかにボイヤーのほうがうまかったと私も思っていたし、更にいえば、長嶋という選手は、派手な動作で、いかにもうまそうに見せていたが、実際には、それほど守備はうまくなかった。そのことは、ずっとコンビをくんでいた遊撃手の広岡が語っていることで、先輩であった広岡は、長嶋の守備、送球に関してずいぶん注意もしていたという。こうしたことをみれば、日本の記者たちの投票は、本当に対象となる能力を評価したものではなく、人気などを加味した、信頼できないものだったといわざるをえないし、最近の日本の野球はほとんどみていないのだが、現在でも、そうした悪習は残っていないだろうか。
先のMLBに戻るが、ロバーツ監督が、当日の選手の様子や体調等々を考慮して、適切な采配を振るっているというのではないことは、いろいろな機会がみてとれた。とくに、強く感じたのは、ワールドシリーズ7戦で大谷が投手として投げていたときの交代に関してである。日にちがたっているとはいえ、18回を闘ったり、とにかく出ずっぱりの大谷が、7戦の投球では、あきらかに、疲労困憊という感じだった。チェンジでベンチに戻ってくる大谷の様子は、考えられないほど汗をかいており、1回なのにそのようなことが起きるのは、かつてないことだし、それまでの大谷の活躍からみれば、2回で降板させ、3回からは別の投手に交代すべきだ、と多くの人が感じてみていたに違いない。他の選手たちもそうだろう。そのようにすれば、3回の3ランはなかったのであり、実はドジャースは、楽に勝利した可能性もあるのだ。みているものとしては、これ以上ないほどスリリングな展開で面白かったのは事実であるが。
能力をきっちり評価して、情実をはさまない投票をする、という点で、日本はまだまだなのだという感想をもった。そして、適切に能力を評価することは、どのような分野であっても、その発展にとって死活的に重要なことである。