トランプが、ニューヨーク・タイムズを名誉毀損で訴えたという。昨年の大統領選挙戦で、ニューヨーク・タイムズがトランプに対する反対の主張を行い、ハリスを支持したことは、民主党の宣伝機関になったことで、トランプの名誉を毀損したということらしい。https://jp.reuters.com/world/us/4XJE4UOUNJNNFBIKN7D3K4GJFA-2025-07-18/
これは今年の7月にエプスタインをめぐる問題で、トランプがウォール・ストリート・ジャーナルを提訴したことと同じ性質をもつものであるといえる。ともに、これまでにないような名誉毀損裁判での賠償額請求をしているが、当然トランプとして賠償金がほしいわけではなく、メディア統制の一環としての提訴であろう。
ニューヨーク・タイムズ相手の訴訟では、そもそもアメリカの名誉毀損で採用されている法理では、公人に対する名誉毀損は、極めて限定的にしか認められず、しかも、さまざまなメディアが選挙において、明確な支持者をあげて、応援したり、対立候補の批判をすることは、活発に行われており、トランプにとって不快であっても、アメリカのメディアでの通常の主張であったろう。トランプ支持のため、ハリスを強烈に批判するメディアもあった。そうした論戦は、アメリカの言論を活発にすることであって、抑制させるべきものではない。
また、ウォール・ストリート・ジャーナルに対する訴訟は、トランプにとって藪蛇になるという見解が強い。トランプは周知のように、大統領就任前は、エプスタイン問題をめぐって、とくに民主党大物議論との関係を暴く意図であったろうと思うが、エプスタイン関連文書の全面公開を主張していたのだが、大統領になったとたんに、その主張を引っ込め、公開を封印してしまった。これが、トランプの岩盤支持者たちの一部を怒らせていて、トランプ支持をやめる人もでているといわれている。正確なところはわからないが、トランプは大統領になって、その権限で、公開すべきと主張していた文書を閲覧し(もちろん、当人ではなく、部下が)、公開はトランプにとって、大きなマイナスになることを発見したために、従来の主張を撤回したのだ、というのが、常識的な解釈になるだろう。
だとすれば、ウォール・ストリート・ジャーナルとしては、自己の主張の正当性を論証するために、エプスタイン関連文書の証拠提出を求めることになり、当然公開も主張するだろう。訴えられた側の当然の権利だから、あえて、提出を拒んだりすれば、ウォール・ストリート・ジャーナルの主張の正しさを暗に認めることになる。
以上のようなことは、トランプでも充分に理解しているだろう。もし、この提訴が棄却されず、口頭弁論にはいったとしても、当然トランプの任期中に決着がつく可能性は低い。だから、判決と賠償金を求めているのではないと考えざるをえない。
ではなにを求めているのか。それは他のさまざまな面にあらわれているトランプの「独裁者」志向の実践である。アメリカ大統領に、あのような広範囲で詳細な関税設定権限などあるはずがないが、しかし、トランプは当然のことのように、関税を弄んでいる。
かつては民主主義をもっとも尊重する国家であったアメリカが、このようなトランプを大統領にし、独裁政治を着々と築いていることに抵抗できずにいることは、冷静にみておく必要がある。