国会でも取り上げられていたジャニーの性加害

 一月万冊で、ジャニーズ問題は、実はかつて国会でも取り上げられていたということを聞いて、早速実物議事録を読んでみた。2000年4月13日の「衆議院青少年問題に関する特別委員会」での審議で、自民党の阪上善秀議員が、質問のなかでとりあげていたものである。https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=114704582X00520000413&spkNum=21
で読めるので、興味のある人はぜひ読んでほしいと思う。
 週刊文春がとりあげていた時期のものだが、単に文春の記事を鵜呑みにしての質問ではなく、実際に知人の子どもがジャニーズ事務所に通っていて、いかがわしいことをされて(その子はたいしたことはなかったようだが)友達もたくさん被害にあっているという話しを、子どもたちが親に話していたという、その内容を元にして質問している。この質疑が、その後どのように扱われたかについては、少なくとも質問相手である警察や官庁では、ほとんどまじめにとりあげなかったことは、否定できないところだろう。阪上氏は、その後国会議員を落選し、市長などをやったあと、トラブルがあり、既に亡くなっているそうだ。

 
 自民党ですら、というか、ほとんど唯一自民党議員が、ジャニーズ問題を正面からとりあげていたということに、正直驚いた。そして、阪上氏の質問はかなり的をついており、しかも鋭いし、あいまいなものではない。
 ジャニーズ事務所の子どもたちは飲酒や喫煙をしているということだがどうなのか。
 未成年なのに、テレビなどに出演しているが、労働基準法上認められるのか。ある事務所では労働省の指導がはいったのに、ジャニーズでは入っていないというのはどういうことなのか。
 ジャニー氏の少年たちにたいする行為は、児童虐待法での虐待ではないのか、14歳未満の子どもへの性行為は、ただちに犯罪ではないのか。
 
 このような質問をなげかけているのである。そして、各官庁や警察庁から局長級のひとたちが参考人として答弁をしている。
 そして、答弁を一読して感じたのは、答弁が極めてあいまいであり、無責任といったほうがよいかという程、いいかげんなものに感じた。
 例えば、児童虐待防止法上の虐待ではないのか、という質問に対して、児童虐待防止法は親の虐待を対象にしているので、親ではないひとの場合、虐待とはいえない、などと答弁しているのである。親以外なら、虐待してもいいのか、ということになってしまう。たしかに、放置などは、親でなければ問われない行為だが、性的虐待は、親であれ、他人であれ、該当するに決まっているではないか。
 
 阪上氏は、母親である知人からという手紙を国会で読み上げているのである。公表されている内容だから、ここで引用しておこう。
 
○阪上委員 次に、最も深刻な問題であるジャニー喜多川社長のセクハラ疑惑についてお聞きしたいと思います。
 報道によれば、ジャニー喜多川社長は、少年たちを自宅やコンサート先のホテルに招いて、いかがわしい行為を繰り返しておるという内容のものであります。なぜ少年たちがこんな行為に耐え忍んでいるかといえば、ジャニー喜多川社長に逆らうと、テレビやコンサートで目立たない場所に立たされたり、デビューに差し支えるからというのであります。
 私は独自の調査で、ジャニーズ事務所に所属していたことのある少年の母親の手紙を手に入れました。少し長くなりますが、御紹介をさせていただきます。
  うちの現在高校二年生の息子も、中三の冬にオーディションに合格し、約一年間ジャニーズジュニアをしていましたが、事務所からのコンタクトがなくなり、自然にやめたような形になりました。ずっと後になって息子から聞いたのは、オーディションに受かってから初めてレッスンに行ったとき、先輩のジュニアから、もしジャニー喜多川さんから、ユー、今夜はホテルに泊まりなさいと言われたとき、多分ホモされるかもしれないけれども、それを断ったら次から呼ばれなくなるから我慢しろと教えられたそうであります。息子はジャニーさんの好みでなかったらしく一度も誘われなかったので、清い体でやめることができましたが、何人かはこの行為を受け、お金をもらっていたそうであります。今テレビでにこにこして踊っているジュニアたちは、陰ではそんなつらい思いをしておるかと思うとかわいそうです。
 こういう内容であります。こういうことが事務所でまかり通っているわけであります。
 ジャニー喜多川氏は、親や親権者にかわって児童を預かる立場であります。児童から信頼を受け、児童に対して一定の権力を持っている人物が、その児童に対して性的な行為を強要する。もしこれが事実とすれば、これは児童虐待に当たるのではありませんか。
 
 以上である。この後の答弁は、実に煮え切らないもので、児童福祉法に違犯するとは認めるが、具体的にどのように対処していくか、ということは、まったく触れずにお終いになっている。
 この後、阪上氏が自民党内でどのように扱われたのかはわからないが、少なくとも、自民党にしても、政府にしても、ジャニーの犯罪に対応することはなかったのだから、「余計なことしやがって」ということだったのかも知れない。ジャニーズ事務所から自民党への献金などが行われていたのかは、まったくわからないが、とにかく「もみけし」に対応する体制は、事務所としてかなりつよくとっていたようだから、自民党に対しても、なんらかの便宜があったのだろうと思わざるをえない。これだけ明確に国会で、しかも与党が取り上げたのに、その後何も動いていないのである。
 たしかに、児童虐待防止法をつくり、強化したり、性犯罪を厳格に扱うように、その後法改正をしているが、政府・与党に関しては、具体的な取り組みについては、重大な欠落があるのだ、ということを、実感させた質疑応答だった。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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