マイナンバー・カードと保険証問題 廃止やむなしか

(昨日アップを忘れていたものです)
 マイナンバー・カードが、再度政治争点になっている。岸田内閣の支持率低下の原因ともなっているらしい。つまり、マイナンバー・カードに健康保険証を一体化して、さらにこれまでの紙ベースの保険証を廃止するという方針(これは既に法律的には決まっている)に対する大きな反発が起きているわけだ。私の周囲では、既にマイナンバー・カードに一体化させた者とそうでない者がいて、私はまだである。私がまだなのは、ほとんど医療機関にいかないからで、そういう機会がないからだ。
 この問題は、かなり多面的な検討が必要で、政府の説明もどうもおかしなものになっていると思われる。

 
 マイナンバー・カードの問題とばかり論議されているが、まずなによりも、マイナンバーシステムと保険証を結合されるのかという問題が最初に検討されるべきことだ。当然、以前は、別個のものだったはずだ。保険証をもって医療機関にいけば、そこでかかる費用の健康保険負担部分については、しかるべき部署に通知がいき、診療した医療機関への支払い等の事務が、その領域内で処理されていたのだろう。そして、そこには、当然給与から天引きされる社会保険料の処理や、国民健康保険の処理などもなされている。
 マイナンバーがどのような基本的な機能をもつものなのか、という点にかかわると思うが、私の理解では、お金の流れを補足するという点にあると思うので、健康保険のシステムが、マイナンバー制度に結合されることは、当然のことだろう。少なくとも、マイナンバーというシステムを肯定する立場にたてば、健康保険を組みこむことは、ごく自然なこととして受け取られるに違いない。もちろん、マイナンバー制度そのものに反対であれば、健康保険の組み込みなど、とんでもないということになるだろう。私は、さまざまな欠陥はあると思うが、原則的にはマイナンバー制度そのものは肯定しているので、健康保険の組み込みは賛成している。
 
 しかし、そのことと、マイナンバー・カードとの関係は、そのまま直結するわけではなく、まして、従来の紙の保険証廃止は、また別の点での検討が必要なはずである。
 まず、マイナンバーに健康保険システムが結合されれば、マイナンバー・カードが保険証としての機能をもつことは、当然の帰結である。だが、マイナンバー・カードは、たんなるインターフェースであって、マイナンバー・カードに情報が書き込まれているわけではない。だから、マイナンバーシステムへの接続は、マイナンバー・カードでなくてもいいのである。だから、別の手段でマイナンバーシステムにアクセスして、健康保険の取扱をすることは可能である。
 だが、ここに、これまでの保険証そのものの問題が実は背景にあるとされている。そのことを政府は、ほとんど表明していないらしいので、問題がややこしくなっているともいえる。それは、保険証の不正利用である。これには、大別してふたつの不正利用がある。
 第一に、本人ではない人が、他人の保険証を利用して、医療機関で受診することである。日本は国民皆保険であるといわれているが、実際には、保険料を収めないために、健康保険の対象外になっている人が存在するし、外国人などで、資格をもたない者もいる。そういう人が他人の保険証を借りて、医療機関にいっても、本人ではないことを知ることはできない。そういう不正利用がけっこうあるらしい。
 第二に、健康保険証は、現在では身分証明書としての役割をもっている。私自身は、保険証で身分を証明したことはないが、それは車の免許証をもっているからである。パスポートも車の免許証もなく、マイナンバー・カードも申請していない人は、健康保険証でもって本人確認をすることになっている。そして、それが認められている。そうすると、これも、他人の保険証を利用して、銀行口座を開設して、不正な送金に利用するなどということができてしまう。
 このふたつの悪用を防ぐには、ふたつしか方法がない。ひとつは、健康保険証は身分証明書として認めなくして、医療機関では、かならず身分証明書を提示する義務を負わせる。身分証明書を見せられない者は、保険診療を受けられないようにすることである。もうひとつは、健康保険証に写真をいれることである。
 ところで、マイナンバー・カードに健康保険証を結合させれば、この問題は一気に解決するわけである。
 
 このように考えると、健康保険証の不正使用を許容して、マイナンバー・カードのマイナス面を顕在化させないか、あるいは、マイナンバー・カードのマイナス面より、保険証の不正使用をやめさせるほうが社会的に合理的であるかという判断になるだろう。ただし、保険証を残したとしても、これまでに明らかになっているマイナンバー・カードのマイナス面が是正されるわけではない。情報の入力ミスとか、漏洩しているとか、そういうことは、保険証との結合とは、とりあえず別のことである。情報漏洩の範囲が広がる可能性はあるのだが。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です