マイナンバー・カードと保険証(つづき)

 昨日、マイナンバー・カードと健康保険証を一体化させることについて、原則的には賛成であると書いたが、あくまでも原則的にということであって、政府が強引にやろうとしていることも含めて賛成なわけではない。保険証の廃止が1年というのは、あまりに短いといわざるをえない。マイナンバー・カードの交付が一年で済むはずがないし、医療現場でマイナンバー・カードによる事務処理が、その時点までにスムーズに進むようになるとも思えない。だから、もっと、じっくりと、問題をクリアしながら進める必要があることは、当然であろう。そして、なんといって、マイナンバー・カードにつきまとっている利権を排除することだ。
 
 日刊ゲンダイが「保団連会長が警鐘「保険証廃止を強行すれば閉院ラッシュ、地域医療は崩壊します」」という記事を掲載している。
 要するに、このままいけば、現場が大混乱し、地方のマイナンバー・カードをもたない人が多い地域では、病院が成り立たなくなり、閉鎖するところが続出する。すると、地域医療が崩壊するところがたくさん出てくるというわけだ。実際に、現在で、マイナンバー・カードによる保険証は、事務手続がうまくいかず、行列ができてしまうケースが多数でているというわけだ。現在のようなやり方では、マイナンバー・カードと保険証の一体化がうまくいくとは思えないことも否定しようがない。

 
 私が原則賛成であるとしたのは、健康保険は、事実上の税の一種であり、お金の流れを管理するという点で、マイナンバーの制度的意味に合致する領域であること、健康保険証が、身分証明書としての機能を果たしているが、確実な身分証明の要素を欠いているために、悪用されることが少なくないといわれていることのふたつの理由である。実際に、マイナンバー・カードに保険証が統合されてこまる人は、マイナンバー・カードをもっていない人であり、かつ少なくない人が車の免許をもっていない人であろう。すると、身分の証明をするために保険証が必要であり、さらに、統合されると、医療も保険診療で受けられなくなる。そうした事態は、絶対に防ぐ必要がある。
 
 暫定的な措置として、健康保険証は身分証明書として認めないという制度的措置をとることはありうる。そして、マイナンバー・カードと保険証の統合期間を遅らせるわけだ。しかし、やはり、身分証明書は本人確認が確実に行えることが絶対条件であり、他人が使用してもわからないようなものでは、身分証明書としては不適格である。それには、最低限写真付きでなければならない。そして、5年に一度程度の更新が必要だろう。そういう意味では、現在のマイナンバー・カードの発行手続などが、かなり不便であることがネックになっているのではないだろうか。まだ、既に更新を経験している人はそれほど多くないかもしれないが、国民すべてが持つようになれば、更新手続だけでも、かなりの事務量になる。運転免許証は、免許証の更新のための検査や講習などがあって、半日使うことになるが、免許証そのものの作成のための手続はそれほど煩雑ではないし、時間も比較的迅速に行われている。そういうシステムになっているからである。写真をもっていく必要もない。ちゃんと免許センターで撮影してくれるわけだ。
 マイナンバー・カードも、市役所や出張所で、写真撮影も含めて、短い時間に、更新や発行ができるのであれば、もっと普及するに違いない。カードそのものは、あくまでもサーバーと通信するためのものにすぎず、そこにデータが圧縮されてはいっているわけではないのだから、本人の確認とまだもっていない人は、最初に発行された番号が書いてある紙をもっていけば、その場で作成してくれるような状況が実現される必要があるだろう。もっとも、最初につくる場合の本人確認は、免許証やパスポートをもっていない人は難しいかもしれない。その場合は、マイナンバーの番号が記入されているカードと保険証で、確認するしかないかもしれないが、両方をもって他人がマイナンバー・カードを作成しにくる人は、ほとんどいないに違いない。
 
 さて、今回のマイナンバー・カードへの批判の中心は、情報漏れへの対応である。他人の番号に紐付けされたり、また、情報入力が依頼してはいけないところに、下請けさせていたりとか、実に国民の不信感をあおるような事態が明るみにでている。こうしたことに対して、マイナンバー・カードそれ自体に対する疑問が生じることは当然のことである。
 ただ、こうした問題が起きるたびに思うことは、民主主義のもっとも重要な要素のひとつは、「透明性」だということだ。マイナンバー・カードに生じているトラブルなどは、別にマイナンバー・カードだけのことではなく、他のカード、たとえばクレジットカードや銀行のキャッシュカードなどでも起こっている。私自身、まったく知らない間に、クレジットカードが不正に使用されたことがある。カードを盗まれたわけでもない。しかし、そのときには、カード会社から連絡があり、こういうものを購入したかと電話で問い合わせがあった。そして、買っていないというと、その代金は保障してくれた。これは、不正を隠すのとまったく逆の、不正があったときに、きちんと対応して、カード会社に損になっても、客へのサービスを優先してくれた。そうした不正が行われても、カード会社への信頼は、逆に強まった。
 政府のトラブルにおいては、(民間企業でも、もちろん少なくないが)それを隠すことが多く、だれかの暴露によって事態が明らかになり、そして、さらに状況を悪化させるような対応をする。あるいは、そんなトラブルはたいしたことはないと強弁したりするわけである。だから、システムそのものに対する不信感が増大するのである。
 
 トラブルは、国民に隠さず公表すること、そして、不正を働いた業者は、厳罰を課すこと、トラブル解決も透明性をもって行うこと、そうしたことが行われれば、マイナンバー・カードについても、信頼を回復することは可能であろうが、現在のようなやり方では、トラブル解決そのものが困難であるようにも思われる。
 
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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