日大アメフト部員問題での理事長会見をみて あまりに大げさな報道

 テレビが放映していた部分だけだが、日大の理事長、学長、副学長の記者会見をみた。最近のメディアがとりあげている大きな話題であり、テレビのワイドショーでも大きくとりあげている。理事長が林真理子という有名作家であることも話題性を高めているのかもしれないし、また、数年前に問題になったアメフト部で起きた不祥事であるということも、大きく取り上げられている要因なのだろうが、かなり広い記者会見場に、相当数の記者が押しかけたというのことに、私はむしろ異常を感じた。そもそも、そんなに大きな問題だろうか。
 
 たしかに、前回のアメフト問題は、メディアが取り上げる意味があったとおもう。あきらかな意図的な不当タックルが試合中に行われ、しかも、それが監督の指示だったことがわかったこと、しかも、監督・コーチなどが、大学運営にかかわっている人物だったことから、一部活の問題ではなく、大学の運営体質が問題とされねばならなかったから、メディアも大きく取り上げた。しかも、スポーツだから相手もあった。

 しかし、今回のアメフト部員が違法ドラッグをやっていたという問題は、私の感覚では、たんなる大学生の個人的な犯罪の問題であり、大学運営などとは直接関係がない。日大のように10万人を超えるともいわれる学生・院生が在籍しているところでは、そうした犯罪行為を行う学生が、ごく少数だが現れても、不思議ではない世の中である。別のマンモス大学では、学生が犯罪を行った場合、メディア、警察対応を専門に行う部署があると聞いたことがある。それだけ、違法行為をする学生が、毎年何人かでるということだろう。その大学では、学生の犯罪がメディアでとりあげられることが私の知るかぎりほとんどない。その担当部署が、表にでないように対応しているのだろう。もちろん、学生の犯罪が見逃されるようにするというのでなく、警察と適切に対応するということであれば、特別な事情がないかぎり、学生の犯罪などをわざわざ表沙汰にする必要はない。司法で適切に処罰すれば済むことである。
 長年、かなりの割合の部員が、同じことをしていて、それが継承されていたというようなことであれば、また別だろうが、少なくとも現在の時点では、一人の部員が逮捕されているにすぎない。
 
 今回は、別のことも批判されている。それは、アメフト部員で違法ドラッグがつかわれているという通告が、警察署にあり、警察から大学に連絡がいって、大学が調査をした。そして、あやしいものが見つかったにもかかわらず、12日間警察に届けなかったこと、そして、そうしたものが見つかったことが、理事長に報告されていなかったことが、かなり厳しく問われている。私自身、それを聞いて、賢明なことではないが、大学という組織では、ありがちなことではないかともおもうのである。大学人の感覚では、12日間というのは、ものすごく放置したという感覚ではない。通常、大学の会議というのは、月に一度しかない。もちろん、事務的な担当者は日常的に仕事をしているわけだが、おそらく学長や理事長は、毎日出勤する態勢にはなっていないだろう。だから、何かトラブルが起こっても、民間企業のように、迅速に対応することは、かなり難しいのである。
 もちろん、問題によっては、それではこまるだろうが、今回の事例で、12日後に報告したことで、特別不都合があったようには思えないのである。その間に当事者の学生が逃亡したわけでもないし、その12日間にドラッグ使用者が拡大したわけでもなさそうだ。その間、警察の勧めで講習会などをやっているようだし、大学がさぼっていたわけでもないだろう。理事長のところに、報告がいってなかったというのは、多様な解釈ができる。守旧派が改革などを嫌って、理事長にわざと報告しなかったという考えもあるが、担当副学長がやっているのだから、そこで処理して、最終的な結果報告をすればいいと担当者たちは考えていたという可能性もある。学生のことだから、学長までは報告がいくだろうが、こうした学生個人の問題は、理事長にはあがらない、という慣習だったかもしれない。そこらはわからないが。ただ、林理事長が、そんな学生はいません、と記者たちに強弁したことは、逆に批判を招くことになった。
 
 さて、たいした問題ではないことをおおげさにやるな、ということを単純にいいたいわけではない。木原問題という、国家的に重大な問題があるにもかかわらず、大手メディアは、まったくそれを無視しつづけている。それにもかかわらず、たんなる学生の個人的な問題を、これほど大々的にとりあげるというのは、いかにもおかしいのではないか、ということだ。実際に木原妻を聴取した担当刑事が、実名記者会見をしたにもかかわらず、ほとんどの大手メディアは、出席はしていたところもあるが、ほとんど質問もしなっかた。そして、一月万冊の佐藤章氏によると、旧知の朝日新聞の記者にきいたところ、記事にすることはない、と即座に答えていたそうだ。今回の日大の件は、メディアとしては、実に叩きやすい素材だ。そういう対象は、これだけおおげさに報道する。しかし、問題が実に深刻なことであるにもかかわらず、警察が相手だと、まったく報道しないというこの大手メディアの体質は、ジャーナリズムとは、まったく相反するものだ。日大の記者会見をみながら、そうおもった。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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