全てのこどもに愛情を!!

近年、親の子どもに対する育て方が問題視されている。子どもの虐待について調査している『オレンジリボン運動』という団体によると、児童相談所における児童虐待相談対応件数は、平成初期には1000件ほどであったが、年々増え続けており、平成24年度には66807件と過去22年間で約60倍にもなっているという(平成2年~平成24年度まで)。何故このようなことが起こるのか?原因の一つとして、しつけと虐待を混同している親が多いということが考えられる。まずはしつけと虐待の違いについて触れてみたいと思う。

しつけとは、教育全般と言い換えてもよいが、教育一般よりも生活全般に根ざした、更に根源的な事柄にまつわる部分を教えていく行為を指す。特に言葉が理解出来ない幼児の教育に関しては、様々な態度で接することで「やって良いこと(=誉められる)」「やってはいけないこと(=罰せられる)」の区別をつけさせることでもある。つまり子どもが物事の善し悪しを理解するために必要な親の教育のことをしつけというのである。

虐待とは、自分の保護下にある者(ヒト、動物等)に対し、日常的にいやがらせや無視をするなどの行為を行うことを言う。「児童虐待の防止等に関する法律」により、子ども虐待の定義は、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待となった。専門家によると、「子どもが耐え難い苦痛を感じることであれば、それは虐待である」と考えるべきだという。

何故この両者が混同されてしまうのか。私は親の心に問題があると思う。

子供を育てる上で必要なのは愛着形成である。子供が幼い頃に十分なコミュニケーションを取ることで、自然と愛着が形成され、心の豊かな人間に成長することができる。しかし、このコミュニケーションができていない親が多いように思われる。近年、「ながら授乳」という言葉をよく耳にするが、これは母親が携帯電話やスマートフォンを使用しながら赤ちゃんに母乳を飲ませるということである。本来ならば、語り掛けをしたり、頭を撫でたりと、コミュニケーションをとりつつの授乳が望ましい。「ながら授乳」は、愛着形成を阻害する要因になっているのである。その結果、こどもが成長してからも母親の子どもに対する愛情が欠落し、子どもを叱る時に間違った方法を取ってしまうのではないか。親子間での愛着形成の形成失敗が、正しいしつけの欠落をもたらしてしまうと私は思う。

正しいしつけの方法を身に着け、虐待に走らないようにするには、親が自分の子どもが生まれる前から子どもの成長段階に合ったコミュニケーションの取り方を学び、身に着けることが必要である。これがいわゆる『親学』というものである。親学とは、伝統的価値観に基づいて学ばなければいけないとされているものである。この戦前から存在する伝統的な子育てを広めるべく活動している『親学推進協会』という団体によると、発達障碍やアスペルガー、自閉症は親の愛情不足が原因で、伝統的子育てでは発生しないという。例えそうでなかったとしても、親の育て方はその子どもの発達や人格形成に大きな影響を与えているのは間違いないだろう。その大事な成長過程の中で虐待を受けた子どもは歪んだ人格を形成してしまいかねない。虐待まではいかなくとも、言葉の暴力などによる精神的苦痛を負った子どもは自分に自信を持てなくなり、生活力の乏しい人間になってしまう。これがいわゆる自己肯定感の欠落である。

現在の子どもの自己肯定感の低さを物語るデータがある。東京都教育委員会は、2008年11月から12月にかけて、都内の小学生4030人、中学生2855人、高校生5855人を対象に、自尊感情や自己肯定感をテーマにしたアンケートを実施した。その結果、「自分のことが好きだ」という問いに対して、小学生では、1年生の84%が肯定的な回答をしたものの、学年が上がるにつれてその割合は低下していき、6年生では59%まで落ちていることがわかっているという。

中学生では「自分のことが好きだ」との問いに対して、「そう思わない」「どちらかというとそう思わない」と否定的に回答した割合が、中1で57%、中2で61%、中3で52%となった。高校生でも結果はそれほど変わらず、高1で56%、高2で57%、高3で47%となっている。自分のことを好きになれない子供たちがこれほど多いのはなんとも悲しいことである。

私が今回子どもに焦点を当てたのは、自分が将来親になった時に正しい育て方を身につけたいと思ったからだ。そのためにまず現在の親の子どもに対する育成上の問題点を調べる必要性があると思う。そしてこのゼミのテーマである『人間の尊厳』と絡めて、親の子どもへの虐待について調べようと思う。調査方法としては、地域の児童相談所の担当の方や、上記にもある『オレンジリボン運動』の代表の方へのインタビューや、虐待に関するニュース記事や文献などの講読を考えている。主に明らかにしたいことは以下の5項目である。

 

①    現在の虐待の現状と種類について

②    虐待を受けた子どもに対する対応の方法と、虐待をした親に対する対応の方法

③    虐待を受けた子どものその後の生活

④    虐待後の親子関係(修復した場合について例があればその経過を)

⑤    虐待を防ぐためにどのような活動が行われているか

 

調査の第1歩として、5月25日に大手町で行われる『オレンジリボンフォーラム』に参加する予定である。今後も報告・感想等をまとめていこうと思う。

 

参考文献・URL

『子ども格差 -壊れる子どもと教育現場』尾木直樹

http://dic.nicovideo.jp/a/%E8%A6%AA%E5%AD%A6

http://www.orangeribbon.jp/

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%99%90%E5%BE%85

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%97%E3%81%A4%E3%81%91

 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。