ウクライナに厳しい局面

 9月からの反転攻勢で、ウクライナの勝利が近づきつつあるようなムードが、日本国内で広がったが、必ずしも楽観が許されない状況にあるようだ。
 さかんにロシアの兵器が枯渇していると報じられており、その証拠に、イラン製のドローンが使われているとされる。しかし、イラン製のものであろうと、北朝鮮製であろうと、ミサイルや攻撃ドローンがロシアに提供されていれば、ロシアの兵器が枯渇しているとはいえない。そもそも、ウクライナの兵器はほとんどが他国に依存している。ウクライナが頑張れるかは、NATO諸国が、ウクライナに武器支援を継続できるか否かにかかっている。イランよりはNATO諸国のほうが経済力があり、武器支援を強力に行っていることは確かだ。しかし、別の点からいえば、ロシアは武器使用の制限などなく、民間施設を躊躇なく爆撃して、多大な損害をウクライナに与えているが、ウクライナ側は、ロシア領土内(占領地ではなく)を攻撃しないようにという制限をつけられ、そのために長い射程の弾薬を供給されていない。それに、たとえ相手がロシア兵であろうと、ウクライナ領土内を攻撃するわけだから、当然さまざまな制約がある。民間人を殺害するわけにはいかないし、建物に隠れたロシア兵を建物ごと爆破することは躊躇せざるをえない。

 したがって、ウクライナが有利なのは、兵士の士気が高いことと、欧米の経済力が、イランやロシアを上まわっているであり、9月から10月初旬の楽観論は、現在では薄れている。しかも、ロシアは、ウクライナへの全土攻撃に踏み切っている。ロシア領土内から長距離ミサイルを撃ってくるのだから、迎撃するしかない。だが、すべてを迎撃することは、困難だろう。
 
 電力設備を砲撃され、かなりの損害を被っているために、冬場が心配されている。ウクライナを負けさせるわけにはいかないから、欧米は援助を継続するだろうが、たとえ勝利したとしても、インフラを破壊され、冬場に十分な暖房をとれずに苦しむことは、目に見えている。
 もちろん、戦場地域にいるロシア兵は、さらに困難な状況に置かれるとしても、ロシア兵は、それこそ占領地の住宅に居すわって、みずからは暖をとるかもしれない。ウクライナ兵は、どうするのだろうか。占領地のロシア兵のほうが、冬は厳しい状況に置かれるという考えもあるが、ウクライナ兵もかなり厳しい冬になるはずだ。兵士たちの防寒具が十分に、欧米から支援されなければ、むしろ、ウクライナ兵のほうが厳しい冬に遭遇することになるかも知れない。
 
 このように書いていくと、ウクライナに早めの停戦を勧めているように読まれるかも知れないが、現時点で、ウクライナは、停戦は完全にロシア兵を追い出してから、という絶対的前提を崩さないだろう。それは当然だろうし、それを支持すべきものだ。だが、ロシアのやりたい放題を防ぐ手段は、最大限とられねばならない。
 対抗措置として何が可能なのか、考えてみた。
・ロシア領内であっても、兵站やミサイル発射施設等の攻撃を、ウクライナに許し、そのためのミサイルをNATO側が与えること。ウクライナ領内へのミサイル攻撃をしている限り、ミサイル基地を攻撃することは正当であると、アメリカは明言する。
・イランに、圧力をかけ、ロシアに武器を輸出しないようにさせ、現在盛り上がっている反政府運動を更に拡大するべくバックアップする。イランがロシアにウクライナ民間攻撃のための武器を提供している以上、とらなければならない措置であろう。イラン政府がロシアを支持しても、通常のイラン国民は、ロシアのやっていることに賛成してはいないだろう。
・ベラルーシに政治的圧力を加えて、ベラルーシ内からロシア軍がウクライナ攻撃をしたら、応戦すると明言する。ベラルーシのルカシェンコ大統領は、極めて脆弱な基盤の上にたっている。ロシアの強力な支援があるからその地位を保っているわけであり、プーチンの立場が弱くなれば、反政府運動に対応できなくなる。ベラルーシ国民への働きかけも重要な意味をもってくるに違いない。
 
 ロシアには、何をいっても無駄だから、ウクライナに対するミサイル攻撃を困難にする攻撃を、ウクライナに対して認めることを回避してはならないだろう。
 
 日本に何ができるのか。
 大量の防寒具、医薬品等の提供はぜひやってもらいたいものだ。冬は、ウクライナ人にとっても、ロシア兵にとっても、凍死の危険すらあるものになるかも知れない。その対策は、日本としてかなりできるのではないか。個人としての考えは、力になるわけではないが、願望として書いておきたい。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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