吉村大阪府知事が、部活の改革として、複数の学校でひとつの部活という案を検討するという。各種メディアで報道されているが、NHKの記事でみていこう。「大阪知事 複数の府立高校で１つの部活動運営 制度検討を指示」
文科省は、教員の働き方改革の改善として、部活については、順次地域のクラブに移管していくことを提起している。それに対して、吉村知事は、それは、多くの財源が必要なので、絵に描いた餅ではないかとして、ひとつの学校で部活を完結させるのではなく、近隣の2校で１つの部活を運営されるような「複数校１部活制」があってもいいという意識だそうだ。記事によると、会議に出席した４人の教育委員がおおむね賛成だった。
しかし、複数校で部活を１つにまとめると、どうして教員の負担が減るのかは示されていない。部活の数が減るからといって、部員の数と顧問の数が減るとは限らない。もし、部員の数が減らずに、顧問を減らすのだとしたら、管理や指導が不十分になる可能性が大きい。指導をこれまで通りにしようというのであれば、顧問や指導者の数は変わらないはずである。場所を移動するだけ、負担が増えるともいえる。
さんざん書いてきたことだが、何故現在の部活が問題なのか、再度確認しておこう。
・教員の負担。そもそも正規の仕事でもないのに、無償で負担を半ば強いられていた。（最近はわずかな手当てが出ることがあるし、断る教員もいる。）
・やりたいスポーツや文化領域が、部活だとない場合がある。
・同じ競技でも多様なニーズ（楽しみ派・プロ志向派、初心者・経験者）があり、それにこたえられない。
・教師の無償労働
・指導に対する無支払い
以上である。吉村提案は、このいずれも解決するようには見えない。要するに、社会体育への移管はお金がかかるから、コストのかからないやり方でごまかそうというようにしか見えないのである。
部活の数が半減以下になるのだから、おそらく経験派、プロ志向派が支配的になり、新しくスポーツを楽しみたいという生徒たちには、近づきがたいものになっていく可能性が高い。スポーツや文化活動の裾野を拡大するには逆行する。もっとも、他校にはあったが自校にはない部活が、こうした措置のおかげで、可能になるということもありうる。それが唯一のメリットといえるかも知れない。
教師の負担については、何故これが軽減になるのかわからない。顧問の人数を減らせるということかも知れないが、それは前述したように、指導や管理が不十分になる可能性がある。また、人数が減るので、指導員を雇う方向に向かうのであれば、それはすっきりと文科省の路線を採用したほうがよい。部活は正規の学校教育の内容ではないのだから、教師は、部活から完全に切り離さねばならないのである。
日本では、指導を受けるのが無償という意識が、かなり広範にみられるが、それは部活指導にひとつの原因があると思われる。ただで指導を受けられるのは、受ける側にはいいだろうが、それは無償で指導しなければならないということだ。これは、経済的な不合理だけではなく、指導の専門性への軽視につながっている。日本のスポーツ指導の精神主義は、この指導の無償と、不可分の関係にあると、私には思われるのである。
お金をもらって指導をすれば、やはり、効果的に指導できなければ、すぐに生徒は離れていくし、指導の専門性を高める必要がある。しかし、無償で指導している場合には、要するに、うまくなるかは、やる側の問題だ、だから、とにかくがむしゃらに頑張れ、ということになる。また教えられる側も、指導料を支払っていれば、しっかり指導してほしいという、当たり前の意識になるが、無料であれば、指導法に注文をつけても仕方ない。
そういう関係が長く続いた結果、中高のスポーツ指導が、非科学的な精神主義から、なかなか抜けられないのだと思うのである。
そして、日本人の「たかり主義」を知らない間に育てている。部活をやめ、社会のクラブに移管することは、日本のスポーツ指導の科学的指導を高め、専門性への尊重意識を向上させることにもなる。また、専門家が指導するから、初心者でもスポーツを楽しむことができるようになり、底辺が広がるだろう。
もし吉村案が、部活の数そのものは減らして、指導者にしっかり手当てをだすというのであれば、それは文科省案と同じになるし、いいと思うが、コストがかからない用にという出発なのだから、おそらくそうしたしっかりした手当てをだすことは考えていないはずである。教師顧問の無償に近い労働に頼るにちがいない。
吉村案は否定されることを強く望むものである。