珍妙なベートーヴェン交響曲全集 クルト・ザンデルリンク盤

 大分前に買って、ほとんど聴いていなかったベートーヴェンの交響曲全集がある。クルト・ザンデルリンク指揮、フィルハーモニア管弦楽団の演奏だ。5枚組で交響曲だけが入っている。たいていは余白に序曲が入っているものだが、この演奏はどれも非常にテンポが遅いので、時間的に無理だったのだろう。
 何故聴かないまま放置してしまったのかというと、最初に田園交響曲を聴いて、あまりにゆったりとして、最初は、田舎にやってきた浮き浮きした気持ちを描いたものなのに、何となく、さびれた田舎にきてしまったなあ、という感じなので、聴く気持ちにならなかったのだ。

 しかし、今回あれこれCDを探しているときに、これが出てきたので、聴いてみる気になった。いくつか聴いてみたが、スピーカーコードやアンプを変えたので、前とは音の感じが違い、特に奇数番号はなかなかよかった。第九などは、昨日聴いたアダム・フィッシャー、コンセルトヘボーよりじっと第九らしく、堂々とした演奏で、まだ、わずかしか聴いていないが、残りを聴いてみようかと思っている。
 
 だが、このボックス、もちろん今はでておらず、実に妙な構成になっており、こんなのは、他に絶対にないだろう。
 1枚目に、第一と第三英雄が入っているのは、ごく普通なのだが、第一の四楽章は入っていないのだ。つまり、最初、第一の第三楽章まで入っていて、そのあとに英雄が全曲はいっている。そして、第一の四楽章は、5枚目の第九の前にはいっている。つまり、5枚目は、最初に第一の四楽章が入っていて、そのあとに第九が入っている。何故、こんなことになったのか、さっぱりわからない。そもそも、英雄よりは、第九のほうがはるかに長いのだ。この演奏で、英雄は56分、第九は71分だ。第一の四楽章を英雄の前にいれたほうが、余裕があるのだし、大部分のベートーヴェン交響曲全集は、そうなっている。最初に英雄が入っていて、次の第一の四楽章は、スペースの関係で入らないなら、2枚目の最初にもっていくというのはありうる。マーラーの全集などでは、よくあるパターンだ。チャイコフスキーの人気後期交響曲集2枚組では、ほとんどが、1枚目、4番と5番の前、2枚目、5番の後半と6番悲愴、という構成になっていく。しかし、この場合は、第一交響曲が、1枚目と5枚目に分かれていて、しかも、より窮屈な第九と一緒になっている。
 いくら考えても、なぜこんなことをしたのか、わからない。正に珍品だ。こんなCD、他にあるだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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