女子中学生の無差別殺人未遂

 私の記憶する限り、これまでまったくなかった事件だ。15歳(自称)の少女が、まったく見ず知らずの人を、渋谷という人々が多数いる場所で刺した。刺されたのは母と子ども(女子)で、今のところ生命に別状はないようだが、昨日のニュースでは、意識はあるという、かなり危険な状態であることを思われる表現をしていた。(最低3カ月の重傷ということだったが、娘のほうは腎臓にまで傷が達していたという。)
 前代未聞だと思っていたら、ヤフコメに、自分の近所で女性が刺した事件が、昨年だけで3件もあったという文章があった。報道されないだけで、実はたくさんあるのかも知れない。しかし、それにしても、未成年がこうした特に無差別の殺人未遂、殺人のような凶悪犯罪を起こすのは、ほとんどが男だったが、今では、女性でも起こす時代になったのか。

 詳細はわからないが、まず子どものほうを刺し、母親が取り押さえたというのだから、その際に母親も怪我をしたのかも知れない。しかし、50代の女性に取り押さえられるのだから、本人も何か魔が差すような部分があったのかも知れない。あるいは、実際に刺してしまったあと、現実に引き戻されたのか。
 一日経った今日は、いくつかの本人の言葉が出てきた。本当は、自分の母親と弟を殺したいのだが、そうする勇気がなかったので、練習で刺したというのである。別のニュースでは、自分が人を殺せるか試してみたかったとも話しているそうだ。住んでいるのが、埼玉県の戸田市だから、渋谷までは中学生にしては遠出をしてきたことになる。ほとんど荷物らしいものをもっておらず、靴も履いていなかったそうだ。おそらく、付近にいて目撃した者からすれば、異様な風体に見えたに違いない。実際に刺された娘のほうは、犯人に何かを事前に感じたようだ。
 もうひとつの言葉は、死刑になりたくて人を殺そうと思った、という、最近よく無差別殺人の犯人から発せられる言葉だ。18歳未満は、どんな凶悪犯罪をしても、死刑にならないことを知らないのだろうか。絶対に死刑にはならない人物から、練習のために、殺されそうになったというのは、被害者からすれば、本当に許しがたく、腹立たしいことだ。
 
 未成年の女性による殺人事件で、私が思いだすのは、佐世保で起きた小学生と高校生による殺人事件と、名古屋大学の女子学生による宣教師の殺害だ。しかし、これは、いずれも知っている人を殺害している。小学生は同級生を、給食の時間だったか、別室に誘い込んで、カッターナイフで首をきった。高校生は、中学卒業のころに、父親を殺害しようとしたために、別居させられ、ひとりマンションで暮らしていたが、高校の同級生を家に誘って、そこで殺害している。名古屋大の学生は、宗教の勧誘に訪れたことかきっかけで知り合った高齢者の女性を、自分のアパートに誘って殺害した。小学生は、よくわからないが、高校生と大学生は、殺人そのものに、強い関心があった。特に大学生は、極めて優秀な学生だったが、小学生のころから、動物を殺したり、薬品に異常の興味をもち、高校時代同級生に毒物を飲ませるなど、問題を起こしていた。親元を離れて名古屋にきてからは、人を殺すことに、執着し、実際に私も読んだが、実行したあとに、自分のブログに「やった!」と書き込んでさえいた。
 この名古屋大の学生の場合は、まわりの大人が適切な対応をしていれば、防げた事件であると、今でも思っているので、非常に残念である。彼女は、小さいころから、殺すことに異常な関心をもっていたし、それを行動に表していた。動物の虐待は、その第一歩であるとされているから、この段階で、何も対応しなかったは残念だが、それ以上に、高校時代に、毒薬を男子生徒に飲ませて、その男子生徒が被害を訴えており、同級生やおそらく教師も、彼女が犯人であることを感じていたし、また、男子生徒は警察にそのことを訴えてもいた。しかし、教師たちも、警察も動かなかったのは、いかにも不自然である。有名な進学校だし、彼女は成績抜群だったということも、影響したと言われているが、教育者として完全に失格だろう。
 成績優秀であることと、関心に歪みがあることは、適切な指導をすれば、関連がありながら、もっと創造的なところにエネルギーを使わせることで、有益な方向に向かわせることも可能だったはずなのである。
 
 今回の中学生については、まだ人間像がほとんどだされていない。明日からのワイドショーでいろいろと出てくるのだろう。母親と弟を殺したいというのだから、家庭になにかあったことは間違いないのだろう。家庭で何かあれば、それは学校生活に影響を与える。なんらかの兆候があったに違いない。
 しかし、報道によれば、犯人は中1のときから不登校だった。2年間学校に通っていなかった間、学校からは、何らかの働きかけがあったのだろうか。あるいは、コロナの時期だから、オンライン授業などにも参加していなかったのだろうか。コロナの影響があったかどうか、解明する必要があるように思われる。
 本人の精神状況も当然問題になるだろう。 
 言っていることは、報道の通りであるとすると、支離滅裂であるし、練習するといっても、渋谷のような繁華街で実行すれば、確実に捕まってしまう。最初は新宿あたりで、ターゲットを探したらしいが、一通りが多いので、あまり人がいないところを探して、神泉駅付近にやってきたようだ。新宿から歩いたとしたら、それなりの距離があるし、電車できたとしたら、渋谷駅から丸山町のほうに歩いていったのか、井の頭線の乗って神仙で降りたのか。神仙といっても、一通りが少ないわけではない。映像をみると駅のすぐ側だから、尚更人はそれなりにいただろうし、実際事件後、すぐにまわりにいた人に取り押さえられている。
 本番はできなくなるわけだ。というより、本当に自分の母親と弟を殺害する意思はなかったと推察できる。むしろ、何か起こして、自分を強制的に拘束してくれることを欲したのかも知れない。
 家庭内の問題、不登校、中学生の殺人未遂、考えねばならない課題がたくさんある。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です