ゼミテーマ『環境としての人間』から、私は「家庭と学校」をサブテーマとして研究を進めることにした。
『環境としての人間』から、なぜ「家庭と学校」について関心を持ったのか。そもそもは自分自身の環境が動機の根本ともいえる。私は現在大学生、両親と弟2人の5人家族である。家に帰ると家族がいて、学校の出来事を話したり、会話を楽しんだりしている。一方で、兄弟や親の行動や指摘に不満を感じることもある。今でさえそうあるのだから、自分が高校生・小中学生、もっと幼い頃の家庭の様子や家族との関わりは色濃く表れ、その積み重ねも自分に影響しているだろう。また、私には兄弟がいる。同じ家庭環境で過ごすにも関わらず、性格や趣味が異なっていることも興味深い。
家庭環境が子どもに与える影響は大きく、子どもの能力の発達や人格形成等に深く関わっているのではないか。多種多様で、それぞれの家庭の中で、どのように子どもは育っていくのか傾向を掴み、考えてみたいと思った。さらに、今までの学校生活を振り返り、クラスには色々な性格の友達に出会ってきた。お互いに切磋琢磨に学校生活に励み、自己を高める、社会性を身につけていくことも重要な学校の学びである。しかし、成績不振、いじめ、学級崩壊、不登校等、学校における深刻な問題は後を絶たない。学校生活に見られる子どもの行動や様子だけでは、子どもの実態を把握しきれないと考える。そこで、子どもが生まれ育つ最も身近な「家庭」こそ、目を向ける必要があるのではないかと考える。教師や学校による一方的な指導や環境改善に限らず、子どもの家庭環境を理解した上での接し方や指導を変える必要性を感じる。学校生活でのつまずきの改善につながる、家庭と学校の関係を見出し、支援に活用したい思っている。
研究を進めるにあたり、研究概要を次のようにまとめた。①学校〔例:勉強に意欲が持てない・いじめてしまう・学級を乱す・不登校に陥ってしまう子〕(学校生活で見られる子どもの問題行動はなぜ起こってしまうのか。原因はどのようなことか。問題提起から、子どもの生まれ育つ「家庭環境、家庭教育」に目を向ける)→②家庭(家庭環境を背景に、問題行動を起こしてしまう、あるいは巻き込まれてしまう子の傾向を知る。様々な家庭環境から、その傾向になりがちな家庭を分析・推測する)→③家庭と学校(より良い家庭とは、改善のポイントを考察する。学校の家庭に応じた教育支援や家庭との連携、家庭事情を理解した上での子どもの対応についてまとめる。)
大まかな概要を立てたものの具体的に何から始めればよいか曖昧であったが、ともかく5冊の本を選び、手かがりを探すことにした。
文献で分かった事柄をまとめておく。
・家族の少子化・核家族化 家族の少子化と核家族が現代社会における家族の特徴である。少子化によって、兄弟姉妹が対等に何かに取り組んだり、二手に分かれて争ったりする経験が減少する。核家族により、親子関係が行き詰まったときに相談相手、逃げ場ともなり得る叔母や叔父・祖父母といった存在が少ない。少子化であれば、親は数少ない子どもに集中して子育てのエネルギーが与えられる状況である。しかし、子育てが母親一人に委ねられる、仕事との兼ね合いも難しくなる。母子密着状態も生じやすい。 (参考:家族の心理 家族の理解を深めるために 平木法子・中釜洋子 サイエンス社)
・いじめてしまう子 いじめの背景は何か。安らぎの場としての家庭が、ストレスの場になってしまっている背景も挙げられる。さらに時間・空間・仲間のない環境、大人に管理された生活の中では、家庭での安らぎが困難であり、子どもの心が育ちにくい。子どもの否定的な評価や条件付きの愛情から、自己の存在に自信が持てない子が育ってしまう。競争の気になる環境では、周りをいたわったり思いやったりする気持ちが持てず、自己中心的な未熟な性格や偏った人格になってしまう子もいる。心の発達、子どものストレスからいじめは深刻化しているのではないか。 (参考:友だちをいじめる子どもの心が分かる本 原田正文 講談社)
・親の言動 親の会話の仕方を分析。子どもが発する言葉を先回りするタイプは、自分の意向が漠然とし、相手に依存しがちになる。子どもを気遣って気持ちを代弁するタイプは、親と子の不一致が生じて、子ども自身が気持ちに確信が持てなくなる。子どもの発する言葉に親が過敏に反応してうろたえるタイプは、子どもが自分の気持ちをなかなか口に出せない。子どものコミュニケーション能力は、親の言葉がけに関係する。 英才教育は、親の押し付けになっていないか。放課後に外遊びが自由にできない環境から、塾や習い事は有意義な時間ともいえる。子どものこころの琴線に触れているかを考慮し、学力というより精神力を鍛えていくことの必要性を捉える。 (参考:良い子のこころが壊れるとき 山登敬之 講談社)
・不登校の要因 親による子どもへの暴力行為、きょうだい間虐待等の問題行動が挙げられる。不登校に陥る本人は、自己中心的、未熟、強迫的、緊張感、葛藤的などの性格傾向が見られる。また、家族の特徴として、母子の密着関係、父親の不在も指摘されている。きょうだいの減少により、同年代との社会化、学校での自己表現や上手な人間関係の構築が難しくなっている。 (参考:きょうだい メンタルヘルスの観点から分析する 藤本修 ナカニシヤ出版)
・家族時間の減少 共働きが増え、放課後の時間を組織化した活動に参加させる必要が出でくる。早期教育の可能性や一流大学による高い能力の要求から、塾や習い事に行かせることも増えいる。親も子も過密なスケジュールが負担に感じ、家族で過ごす時間は減少、家族の結びつきに危険が生じている。家族の時間の一つである食事も、子どもの学業成績の向上、精神的安定をもたらすのではないかと考察している。 (参考:家族の時間 子どもを伸ばすやさしい暮らし ウィリアム・J・ドハティ 講談社)
今や核家族、共働きが増え、放課後時間の習い事や塾に通わせる親も多い。また、早期教育の可能性、学歴社会による高い能力の要求等も理由に含まれる。親も子も多忙な生活に重荷を感じ、親と子の関係が希薄化している現状が伺える。家族同士のコミュニケーション不足や窮屈な家庭状況から、子どもはストレスや無力さを感じ、もう一つの「学校」という環境に気がつかなくとも行動に出てきてしまうと考えれる。
文献を読み、グループ内で話し合っていく中で、家庭のマイナス面を中心にするより、家庭環境が子どもを伸ばすプラスの面に注目したほうが良いのではと思うようになった。
そのため、研究概要にある①学校〔例:勉強に意欲が持てない・いじめてしまう・学級を乱す・不登校に陥る等〕から【例:勉強に意欲がある・友達に思いやりを持って接する・毎日元気に学校に通うといった、いわゆる学業成績や生活態度が良好な子】の家庭環境を主体にした研究へと変えることにした。例えば、共働きでありながら、親が子どもへの声かけや子育て法を工夫したり、家族との時間を大事にしようと努めたりすることで、子どもの学力の向上や心の安定につながるとも捉えられる。朝食を家族揃って食べる、家事の役割分担がしっかりできている、祖父母との出会いのような家庭生活の一部分に、学力向上や心の安定への要素が含まれていると考える。研究のねらいとして、家庭・家族が子どもに与える良い効果を多く見つけていく。そして、学校生活でのつまずきを感じてしまう子への、より有効な改善策や対応・支援について、家庭のプラス面を取り入れて考えることに決めた。 家庭の改善が学校生活の改善につながるよう、大人と子どもが共感し合い、子ども一人ひとりがのびのび過ごせる環境を知りたい。。
インタビュー調査において、自分の友人の協力を得て、話を聞くことにした。大変優秀で、憧れの友人である。
「幼少期における家族との関わりについて」を質問した。答えは以下の通りである。
・家に帰ると必ずお母さんがいた。誰もいないことがないように早めの時間に終わるパートを探して働いていた。
・無理に勉強させても身に付かないと思ったから、勉強しなさいを言わない。
・兄弟でよく遊んだ。友達と遊ぶ以外にもプラレールやミニカーで遊んだ。
・お父さんの仕事の都合もあったのが、基本的に家族揃って食事をした。
・学校から帰ってきたら、今日の出来事をお母さんによく聞いてもらった。
これらから、家族とのコミュニケーションが充実していると考えられる。お母さんの働き方、勉強しなさいと言わないといった声かけや気遣いにも着目したい点である。遊び相手、遊ぶおもちゃの種類との関わりについても気になる。
春学期に行ったことは以上である。
反省点・課題
研究の方針は固めたものの実践的な活動がほとんど行えなかった。優秀と優秀でない子の境目・対象者選びがまだ曖昧であること、インタビューの内容がきちんと決められていないことも原因の一つだと思う。研究の中身の明確化が必要である。また、親の声かけや教育、子どもの育つ「家庭」に次いで「学校」との関連へとどうつなげていくか、見通しを立てなければならないことも今後の課題である。
夏休みには、友人から詳しく話の続きを聞いて、インタビューを深めていく。良さだけに限らず、何か困難に直面したときにどう乗り越えてきたか、そのときの家族のはたらきかけにも触れながらインタビューを進めたいと思う。また、家庭環境、家族、子育て等のキーワードを含む文献を探し、情報収集・インタビューの手ががりにしていこうと考えている。